
犬派のくせに - 気まぐれな猫|掌編小説
俺は犬派だ。絶対に犬派だ。どう考えても、猫より犬のほうがいい。
犬は、何を感じているのか瞳のきらめきや尻尾の角度でよく分かる。愛情深く育てれば、そのぶん応えてくれる。信じて飼い主を待っていてくれるし、ちゃんとそばにいてくれる。
猫は何を考えているのか分からない。気ままで飼い主のことなんか知らんぷり。さらに、好き勝手にどこか行ったり、急に甘えてきたり──正直、俺はそんな猫という生物が怖い。
真顔でそんなことを語ると、親友の一弥は「腹立つわー」と言った。腹が立つあまり、もはや興味を持たない様子でフライドポテトをつまんでいる。
同じ高校の制服すがたでにぎわう、放課後のファーストフードだった。
「一弥は猫派なのか?」
「猫派だな」
「猫のどこがいいんだ?」
「猫派に喧嘩売ってんのか?」
「いや、猫の良さを理解できるならしたいのに、俺は本当にそれができないんだよ」
「分からなくていいよ」
「でも、みんな猫好きじゃん。なんか吸ってるじゃん。猫で世界は平和になるとか言ってるじゃん」
「猫鍋とか癒やしだもんなー」
「え、食うの? 食うにまで至るの?」
一弥はスマホで「猫鍋」の画像を見せてくれた。
「液体じゃん」
「猫は液体だ」
「ええー……」
どうしよう。中学からの親友なのに、一弥の言っていることがまったく分からない。もしかしたら、俺たちは実は親友ではないのかもしれない。信じた友情さえ幻にさせるなんて、やっぱり猫は恐ろしい。
「俺、一弥と友達でいたいよ」
一弥が怪訝そうに変な顔になったとき、俺のスマホが震えた。確認すると、幼なじみで彼女の葉摘からのメッセだった。
『がっこー終わった』
俺はすぐさま、食べかけだったダブルチーズのハンバーガーを口に詰め込んだ。
「どうした」
「葉摘の学校行く」
「あー、デート?」
「さあ。メッセよこしたということはそうなるかもしれん」
コーラも一気に飲み干す俺を、一弥はしげしげと眺めた。
「何だよ」
「そういうとこなんだけどなあ」
「何が? いや、まあいいわ。早く行かないと葉摘すねるから」
「ほんとそういうとこなんだぞ」
「じゃあな。ポテト残ってるの食べていいんで」
「猫の良さ」
いきなり何を言われたのか、今度は俺が気味悪く変な顔になった。何やらあきれた表情になった一弥は、「早よ行け」としっしっと俺を追いはらう。眉を寄せつつも、俺は「また明日な」と一応言い置いた。
「おう。仲良く爆発しとけ」
「ん」とうなずいた俺は、自分のトレイを持ち上げた。ゴミを捨ててから、クーラーで涼しいファーストフードをあとにする。
九月末の残暑のもと、葉摘の高校へと大股で歩いていると、スマホがまた震えた。『チョコアイス食べたいよー』というメッセが来ていた。これはコンビニで買ってこいということか、あるいはデートでパフェをおごれということか。
分からないけど、どっちでもいいか。とりあえずチョコたっぷりのアイスは確保していこう。俺は葉摘のこういう気まぐれなところにも、ずっと昔から惚れているんだから。
FIN
お題お借りしました。
ありがとうございます。