メインコンテンツへスキップ
見出し画像
Photo bytakoyakiyuchan

おとぎ話診療所✖️噂話製粉所

     あの人はまだ覚えているのだろうか。私はもう忘れてしまった。製粉所に出勤して社員の仕事ぶりを監視するのさえ億劫になってきた。この季節になると鳥たちのさえずりが賑やかになる。庭に残り物のパンをまいていると、いかにも通りすがり風の目つきの鋭い男が話しかけてくる。
    「もしもし、ご主人はどちらですか」
    「どちら様でしょう、奥で休んでおります」
    「警察の方から参りました」ほう。方ね。
    「実は妙な噂を耳にしまして」どうせ碌な話であるまい。
    「いつからこの製粉所を?」余計なお世話だ。障子張りをしようと米を煮溶かしたら食われてしまう、だからメリケン粉に変えたのさ。
    「その頃ちょうど、近所の若い娘さんが行方不明になったのです。噂によると貴金属や宝飾品も一緒に消えたとか」だから何? この製粉所はすべてあたしら夫婦がゼロからスタートしたのよ。
    「中を見せてもらえませんか」
    夫が寝ているんです。最近物忘れがひどくて、何の効力もありませんよ彼の話は。

    410字


     構わず立ち入って畳を剥がすと、果たして下を切られた女と葛籠に入った宝飾品が発見された。あの男の愛人とその持ち物だな。
    「こりゃイカン、もっと他愛のない話に変換せにゃ」

     刑事を名乗った男は実はおとぎ話作家だった。



    こちらの裏表お題に参加しています。

     
     
    短編小説、エッセイなど。一日一更新を目標にショートショート、54字、などを書きます。 #毎週ショートショートnote #シロクマ文芸部 #54字の物語に参加中です。

    あなたへのおすすめ