メインコンテンツへスキップ
見出し画像
Photo bypataco

七夕の歩幅 ①

     これで最後と決心した織江と七夕祭りの空は雨雲に覆われていた。駅まで送りますと星彦の若い声。その歩数が残された二人の時間だ。家庭、仕事、立場、年の差。どれを強調すれば自分も彼も納得できるのか。
    「学費とお母様の入院費の足しにして頂戴」紙幣を数枚差し出す。本当に苦学生なのかわからない。端正な面立ちに戸惑いの色が浮かぶ。足りないのね、ごめんこれが精一杯なの。
    「アーケードの中を通って行きましょう少し遠回りになるけど」七夕飾りの商店街をそぞろ歩くと前方から神輿が来た。今宵は密会の街の夏祭りだ。引き返そうにも見物人の群れで身動きがとれない。やり過ごそうにも行列は遅々として進まない。子供達女たちが法被や浴衣で足袋と草履を器用にくねらせ進むと見せかけ同じところでステップを踏み続けている。
    「いいぞー!」子供の家族や友人から野次が飛ぶ。人混みに押されてよろめく織江を星彦が強く抱き寄せた。雑踏で絡め合った指先からさっきまでの余韻が蘇ってきた。また会いたいです。奨学金の返済が済んだから次は貴女に返したいんです。背後でスマホとカメラがあたりの景色を切り取り続けインスタに載せるからねとはしゃぐ子供達の声が響いた。


    500字

    こちらに参加しています。

     
     
    短編小説、エッセイなど。一日一更新を目標にショートショート、54字、などを書きます。 #毎週ショートショートnote #シロクマ文芸部 #54字の物語に参加中です。

    あなたへのおすすめ