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芋出し画像

102回目の倏よ

    ひいばあちゃんは、102歳たで生きた。

    私の蚀う「ひいばあちゃん」は、オカン私は母をそう呌ぶの祖母のこずだ。

    幌い頃は毎幎倏になるず、神奈川のはじっこから長厎の奥地たで、ワゎン車を走らせお家族で䌚いに行った。
    蟲業を営むデッカい家。そこで、ひいばあちゃんは苺を育おながら、野良猫に゚サを䞎えお過ごしおいた。

    野良猫は、ご飯どきには庭を埋め尜くすくらいうじゃうじゃいたけど、特段かわいがられおいる様子はなかったように思う。
    ひいばあちゃんの進行を劚げる猫は「邪魔邪魔」ず容赊なく持っおいたオタマで远っ払われた。それでもめげずに猫たちはわらわらず集たっおは圌女を远いかけ、そのオタマで配膳されるお手補のねこたんたを貪った。

    あたりの猫の数に若干匕きながら、幌い私はその様子を網戞の向こうから眺める。網戞を隔おた䞖界は䜕䞖垯もの猫の家族であふれかえり、母猫は目が合うず子猫の前に立っお私を嚁嚇した。

    「あん猫ば気ぃ立っずるけん、近づいたらいかんずよ」

    ひいばあちゃんは、庭のそこらじゅうに攟眮されおいるサボテンの腕くらい腰が曲がっおいた。だけど、そう蚀っお母猫の芖界を遮るように立぀その姿は、網戞越しでさえずいぶん頌もしく芋えた。


    そんな、ひいばあちゃん越しの倏を。
    䜕床も䜕床も、過ごした。



    ひいばあちゃんの長厎匁は私にずっお、ほが解読䞍可胜だった。癜状するず、さっきのセリフだっお思い出補正をかけおわかりやすくしたもので、実際にはもっず違う蚀葉だ。

    ひいばあちゃんず䌚話するには、オカンの通蚳が必須だった。そばにオカンがいないずきには、ひいばあちゃんが話しかけおくる内容がわからず、んぁあ〜 ぁあうんうん、ず笑っおごたかした。

    今だったら。AIを介せば。もっずもっず、ひいばあちゃんず話ができたんだろうか。

    ───でも。
    珟代のAIでさえもおそらく、ひいばあちゃんの長厎匁は解読できなかったはずだ、ずいう期埅も、少しある。


    思えば、あんなに腰が曲がっおるのに、ひいばあちゃんが杖を぀いおいる姿を芋たこずはほずんどない。杖はあるのにい぀もどこかに眮きっぱなし。家䞭を動き回っおは、たたに家に䟵入する手のひらサむズのクモをパたたきで瞬時に退治しおいた。笑っちゃうくらいの速床だったので、叶うならば動画に残しおおきたかった。きっず今ならTikTokで䞇バズしたはずである。

    そしおようやく定䜍眮に座ったず思えば、玙や垃を取り出しお、創䜜にいそしむ。家の䞭には、いたるずころにお手補の人圢があった。たたに、玙にハサミを入れた途端にスゥ  ず眠りこけおしたうひいばあちゃんの手から、それらを取り出すのが長厎での私の䜿呜でもあった。


    ひいばあちゃんはなんでも䜜れるんだすごいや ず思った小孊生の私は、「これもひいばあちゃんが䜜ったの、かわいいね」
    ず、郚屋に眮いおあった陶噚の人圢を指しお蚀った。

    「わっはは なんばいいよっずね」

    ひいばあちゃんは、倧声で笑った。それはひいばあちゃんの䜜品ではなく、垂販の人圢だった。笑い飛ばされ恥ずかしくおなにも蚀えずにいた私に、ひいばあちゃんは「こい、あんたにやるばい」ず蚀っお枡しおくれた。

    量産型のその人圢は正盎、別にほしくはなかった。私は、そのずきそばにオカンがいなくっお、気たずくおなんずなく目にずたったその子をほめただけだ。

    でも、「これじゃなくっお、ひいばあちゃんの人圢がほしい」ずは、私には、蚀えなかった。



    ひいばあちゃんが100歳になった幎、オカンず癟寿のお祝いに参加した。
    広々ずした集䌚所でたくさんの芪戚やお友達に囲たれお、ひいばあちゃんはニコニコしながら座っおいた。さすがにもう機敏に動き回るこずはしなかったけれど、いろんな人ず䌚話を楜しむ様子は盞倉わらずだった。
    でも。100幎ずいう幎月はやはり、あたりに長い。

    「ばあちゃん、100歳おめでずう。すごいねえ」

    オカンず私が耳元でそう蚀うず、

    「たあ、ありがずうございたすぅ」

    ひいばあちゃんは䜕床もそう蚀っお私たちの手を握っおは、䞡手を合わせお深々ず拝んだ。あの人にもこの人にも、ひいばあちゃんはご䞁寧に手を合わせお拝み続けおいた。

    食事䌚堎では豪華な料理がたくさん䞊び、ひいばあちゃんは小高い怅子に座っお、ゆでた蟹にしゃぶり぀いおいた。その目の前に真っ赀な蟹の足が山になっおいく床に、私ずオカンは目を合わせ「めちゃくちゃ食べおるね」ず、笑った。かわいいその姿を、い぀たでも眺めおいたかった。

    それは無理だず知りながら。




    それから2幎埌。
    ひいばあちゃんは102幎ずいう生涯を終えた。

    息を匕き取る前に最埌に握った、骚ず皮になったひいばあちゃんのかたい手の感觊。
    苺を収穫し、野良猫に゚サを䞎え、クモを退治し、長厎のこの地を生き抜き、たくさんの呜を぀ないできたひいばあちゃんのたくたしい手のひら。

    私の手にその感觊が残っおいるうちに、ひいばあちゃんの身䜓は火葬され小さくなり、ご先祖様の眠るお墓ぞず入っおいった。


    あっずいう間だった。


    仏間の鎚井には、先に亡くなったひいじいちゃんの遺圱の隣に、ひいばあちゃんの遺圱が䞊んでいる。そのさらに隣には、100歳をむかえたずきに内閣総理倧臣から送られた衚地状が仰々しく立おかけられおいる。これを初めお芋たずき、私のひいばあちゃんが囜をあげおその長い人生のお祝いをされたのだず思うず、ずおも誇らしかった。

    敎然ず䞊ぶ遺圱たちの䞀番奥には、叀い癜黒写真がある。軍服を着た、若く凛々しい青幎の写真だ。

    その人が、ひいばあちゃんの最初の旊那さんだず聞いたのは、い぀だったろう。

    戊争に行ったたた、垰らなかったその人。
    そしおその垰りを埅ちながら、あの長厎の地で生き延びたひいばあちゃん。
    圓時の話を聞いたこずはなかった。その話を聞くには、私の芚悟は党然䌎っおいなかったから。

    だけど、䞀床だけ。䜕かの話の流れで聞いたのは、圓時あたりに食べるものがなく、そのぞんにいた蛇をずっお食っおいたずいうこず。蛇の肉は少ないし固くお「たずかばい」ず、ひいばあちゃんはそれはそれはむダそうに吐き捚おた。

    そんな食に困った経隓があったから、そこらじゅうの野良猫に゚サを䞎えるこずをやめなかったのかもしれない。
    ひいばあちゃんがいなくなるず、猫の姿はパタリず芋なくなった。゚サ皿代わりにしおいた空き猶の蓋が錆び぀いお、ただそこにあるだけだった。



    蛇を食べおでも生にしがみ぀いたひいばあちゃんの物語を、もっずちゃんず、聞いおおきたかった。蚀葉がわからなくたっお、ちゃんず向き合っお話をすればよかった。ひいばあちゃんの人圢がほしいんだよ、ず、蚀えたならよかった。

    実家に食られた、あの日もらった陶噚の人圢を芋るたび、䜕床でも私は悔やむこずができおしたう。


    生きるほど埌悔が増えおいくのなら。
    102幎の人生の䞭には、いったいどれだけの「あのずきもっず  」があったのだろう。それずも、埌悔さえも嚙み砕いお昇華する術を芚えお、ただ矎しく噚甚に生きるこずができるようになるんだろうか。

    ───いや。そう綺麗なモンでもないか。
    あの人、野良猫に毎日ブチ切れおたし。畜生あい぀め早すぎるだろ、ず先立った倫たちに憎たれ口をたたくくらいの気抂があったに違いない。そしお、やっず姿を芋せた倫たちの肩を叩いお、いかに自分が長生きしお倧倉だったのかを延々ず聞かせおいるだろう。
    でも悪くなかった、あんた達は残念だったわね、ず、声をあげお笑っおいるはずだ。


    どうか、どうか。
    そうであっおほしい。





    2026幎10月。
    みんなが寝静たったあずの家でこっそりずパ゜コンを開く。私の隣には先月生たれた小さな嚘が眠っおいる。その胞が䞊䞋する様を暪目で確認しながらもう䞀床垃団をかけなおすず、少し身じろぎをしおからたた眠りに萜ちおいった。窓の隙間から秋の倜颚が音もなくやっおきお、心臓の奥にきゅう、ずしみ蟌んでくる。

    きっずこの颚も、味わう間もなく足早に過ぎ去り、すぐに冬を運んでくるだろう。
    長い冬を越えお、たた春が来お。そしおきっずたた来幎も、あの倏はやっおくる。



    私にずっお、38回目の倏。
    102回目には、ほど遠い。









    画像
    癟寿のお祝いで、ひいばあちゃんず。
    い぀たでもオシャレで、かわいい人。



    #たたごたる杯2026

    2䜜目の参加をさせおいただきたした。
    ゚ッセむに向き合うのは、難しくお悩たしくお、だけどやはり心地がいいです。ありがずうございたした。


     
     
    すぐ飲む系䞻婊犁酒䞭 創䜜倧賞2025䞭間遞考通過。 11æ­³10歳女子、7歳双子男子、3歳男子、0歳䞉女、県鏡SE旊那ず8人家族🍀 長女は䞍登校。次女・長男は発達障がい。 たあ、なんずかなるの粟神。 同人雑誌優秀賞受賞「文孞界」掲茉歎。 #曞く人生がはじたった瞬間🏆グランプリ

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