
鍾馗さま衣替え
日曜日の朝、まちなかにクマが出たらしい。次の朝からさっそく、散歩時にはクマ鈴を持ち歩くことにした。
北国の春は一気にやってくる。
コブシ、モクレン、梅、桜、菜の花などが一斉に咲き始める。
昨年の春先、花々のつぼみがふくらみ始める頃、近所の公園の桜の木にカラスが巣をかけているのを見つけた。巣の中にはカラスが一羽座って、卵を温めているみたい。やがて気温が上がり、桜のつぼみはみるみるうちに膨らんで、開花。まち中が桜色になった。
カラスが巣をかけたあの公園の桜並木も満開となり、カラスの巣は花に埋もれて見えなくなった。
公園の前を通るたび、満開の桜の中で子育てするカラス一家の姿が目に浮かび、なんとも言えず幸せな気持ちになった。もこもこの桜の花壁に囲まれて暮らすカラスの親子。それは世界でいちばん美しい家だ。
桜に囲まれて眠り、風に揺れる花びらの音で目覚める日々。カラスの一家の「贅沢な」毎日を思うと、仕事に追われて桜を愛でる余裕もないわたしの心も束の間、慰められた。

今シーズン初のクマ目撃情報が駆けめぐった日曜日、「鍾馗さま」の衣替え作業が行われた。朝からよく晴れたものの、風が強くて、お天気アプリ情報によると体感温度は3℃。作業にあたった保存会の皆さんも、顔は笑っていたけど、体は芯から凍えたのではないかと思う。
悪霊や疫病などの災いから村を守る「塞の神」として、古くから集落の境や辻に祀られてきた道祖神。郷土史研究家の小松和彦さんによると、秋田県内には藁で作ったものや木製の面、石で作ったものなど様々な人形道祖神が150の集落に分布し、それぞれ「鹿島さま」「仁王さま」「鍾馗さま」などと呼ばれ、各地で親しまれているという。
この日、取材した集落の鍾馗さまは面をつけない藁だけの道祖神。とはいえ、実は面も作られていて、そばの祠に大切に保管されている。
例年3月15日に保存会の皆さんが講習会を開き、胴体や頭など各パーツを藁で制作。取材日は新たに帯を編み、各パーツを組み立てて鍾馗さまを新しくした。
去年まで、近くのナラの木に滑車を吊るして3人がかりで藁をよって帯を制作していたけれど、今年は肝心のナラの木が倒木の恐れありとのことで切り倒されており、新たな「帯制作機器(?)」を設置し、7~8人で協力しながら全長4、5mの帯を仕上げていた。
鍾馗さまは、身長約2m。
胴体部分を組み立て、頭部を取り付け、冠をかぶせる。頭や顔に杉の若葉をプスプス刺して髪の毛とヒゲにしたら、前髪をカットして良い感じに調整。完成した帯を巻く。

今年の鍾馗さまのお顔はどこか優しい。鍾馗さまを見つめる会員の皆さんの顔もゆるむ。
「今年はスマートだな」
「かっこいいな」
「……髪の毛が、薄くなってきたなぁ」
散髪してもらう間、鍾馗さまはくすぐったそうな感じでニコニコ笑っているみたいに見えた。
桟俵のおっぱいとへそを胴体に打ちつけ、最後に刀をさして、今年の鍾馗さまが完成。神事が執り行われ、保存会の皆さんが地域の安寧や豊作を祈った。

ささやかながら、私も今年は玉串を奉奠。
鍾馗さま、今年もどうか無事に過ごせますように。
鍾馗さまに守ってもらえるなら、きっとクマも‥‥怖くない(たぶん)。