
「国民を守る側」ではなく、「組織を守る側」だった
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「法を守る側」は、いつも正しいと思っていた
警察官の制服姿を見かけると、それだけでどこか安心していました。検察が起訴すれば、その人には相応の理由があったのだろうと。裁判所の判決が出れば、それが最終的な正義の言葉なのだと。司法にかかわる組織を、疑う対象ではなく、頼る対象としてずっと見てきました。
一方で、事件のニュースが続くたびに、漠然と「世の中は物騒になっている」とも感じていました。実際の犯罪の件数がどう推移しているのか、確かめたことは一度もなかったのですが。確かめないまま抱えてきたこの不安のようなものが、どこかしっくりきていなかったのだと、今なら分かります。
鮎川潤さんの『腐敗する「法の番人」』を読んで、その土台ごと揺さぶられました。警察、検察、法務省、裁判所という、正義を実現するはずの組織が、時として国民の利益より組織自身の利益を優先してきた、と著者は指摘します。
鮎川潤著『腐敗する「法の番人」: 警察、検察、法務省、裁判所の正義を問う』はこちらから読めます。
「O化工機」に何が起きていたのか
本書が具体的に取り上げる事例のひとつに、ある精密機械メーカーの摘発があります。噴霧乾燥器を無許可で輸出したという容疑で経営陣が逮捕・起訴されましたが、初公判を目前にして、検察は自ら起訴を取り消しました。本文では、この会社は「O化工機」とイニシャルで表記されています。
その後の裁判で、事態の輪郭がはっきりします。2023年12月、東京地方裁判所は、警視庁公安部による逮捕・取調べと、検察官による勾留請求・起訴が、いずれも違法だったと認定し、国と東京都に約1億6200万円の支払いを命じました。本書刊行後の2025年5月には、東京高等裁判所も一審の判断を支持し、賠償額を約1億6600万円へと見直しています。ひとつの会社の経営陣が、起訴を取り消されるまでの間、身柄を拘束され事業を止められていた事実が、司法の場で違法な手続きだったと確定した出来事です。
本書にはさらに、検察の取調べのあり方をめぐる「人質司法」と呼ばれる問題(第2章)、拘置所や刑務所の実態(第3章)、裁判官の人事や人間関係をめぐる指摘(第4章)、そして死刑制度の存廃という重い論点(第5章)まで、踏み込んだ記述が続きます。ぜひ本書で確かめてみてください。
ニュースの見方が、少しだけ変わった
先週、実家で夕食を食べながらニュースを見ていたときのことです。速報のテロップに「容疑者逮捕」と出た瞬間、父が「捕まったってことは、そういうことだろうな」とつぶやきました。以前の自分なら、黙って頷いていたと思います。けれどそのときは、「起訴されるまでは、まだ分からないんじゃないかな」と口にしていました。父には少し驚かれましたが、自分の反応の変化に、自分自身が一番驚いていました。
逮捕や起訴の報道を、そのまま結論として受け取っていた自分と、その手続きの過程にも目を向けるようになった自分。同じニュースを見ても、心の中で立ち止まる場所が変わりました。世の中の見え方が、少しだけ解像度を上げて動き出したような感覚です。
知らずに読み流していたら、と思うと
法を守るはずの組織にも、国民の利益とは別の理由で動く場面があるという指摘は、読んでいて心地よいものではありません。それでも、知らないまま今までどおりニュースを受け取り続けていたら、と考えると、この本に出会えてよかったと感じます。
著者の鮎川潤さんは、関西学院大学法学部の教授を長く務め、2021年の定年退職後は同大学の名誉教授となっています。専門は犯罪学・刑事政策で、アメリカの南イリノイ大学やケンブリッジ大学などでも客員研究員を務めてきました。国内外の視点を行き来してきた研究者だからこそ書ける指摘が、本書には詰まっています。
司法にかかわる組織を、これからは少し違う目で見てみようと思う方に、鮎川潤著『腐敗する「法の番人」: 警察、検察、法務省、裁判所の正義を問う』はこちらから読めます。
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