
私の人生が、あなたを好きにさせた
遠い日の雨も、
帰り道にこらえた涙も、
名前も忘れた誰かの笑顔も。
忘れていたはずのものが、
胸の奥で、
少しずつ弦を張っていた。
幾つもの春を越え、
幾つもの冬を越え、
私の知らないところで、
見えない楽器がつくられていた。
そして、あなたに出会った。
ただ、あなたがそこにいるだけで、
一度も聴いたことのない、
けれど、どこか懐かしい音がした。
どの弦が鳴ったのだろう。
探しても、分からない。
すべてが鳴り、
一つの響きになっていた。
私はその響きを、
「好き」と呼んだ。
あなたに出会う前の、
数えきれない日々が、
いま、あなたに触れている。
私の人生が、
あなたを好きにさせた。
<蛇足>
人を好きになるとき、私たちは相手の特徴を一つずつ評価し、論理的に結論を出しているわけではない。
自分がどのような環境で育ち、誰と出会い、何を喜び、何に傷ついてきたのか。
そうした人生経験の積み重ねが、本人も十分には意識していない価値観を形づくる。
そして、誰かと出会ったとき、その価値観と相手から受ける印象が重なり、「好き」という感情が生まれる。
それを、詩では「私の人生が、あなたを好きにさせた。」と表現した。