
人は広い海を漂っている
広い海に一人で浮かんでいる人がいる。
見渡せるのは、自分の周りのわずかな範囲だけである。
どちらに陸があるのか、自分が海のどこにいるのかも分からない。
水平線の向こうは見えず、晴れた空もこの先どう変わるかは分からない。
波も潮も、その人の都合とは関係なく動いている。
とりあえず、そのまま浮かんでいる。
波に揺られ、潮に運ばれながら、しばらく海の上を漂う。
何も決めなくても時間は過ぎ、浮かんでいる場所は少しずつ変わっていく。
気がつけば、見えている景色も変わっている。
漂っている途中で、綺麗な魚を見つけることがある。
少し追ってみたいと思えば、その方向へ泳いでみる。
遠くの空が明るく見えれば、今度はそちらへ向かうこともある。
追っていた魚を見失い、明るかった空が曇ることもある。
同じ方向へ泳いでいるつもりでも、気がつけば潮に流されている。
泳いでいるうちに、やがて疲れてくる。
そんなとき、丸太が流れてくる。
見つけたら、とりあえずつかまえておく。
疲れた体を預けて、しばらく休む。
そのまま丸太と一緒に流されていくこともある。
体力が戻れば、また泳ぎ始める。
気になるものが見えれば、そちらへ向かう。
そのまま漂い続ける日もある。
いつの間にか、最初にいた場所から遠く離れている。
世界には、一人の人間には知りきれないほど多くのことがある。
自分が知っていることは、その中のごく一部にすぎない。
人は、その時に知っていることと感じたことを頼りに、漂いながら、ときどきどこかへ向かっている。