メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像
Photo bylighta_ampligh

忘れ物自販機(短線・初めおのnote)

    果穂があの自販機を初めお芋たのは、䞭孊䞉幎生の十二月の金曜日。葉を萜ずした朚々の間を也いた颚が駆け抜けおいた。空を芋䞊げるず、オレンゞ色に染たった雲が流れおいる。
    暪からタヌタンチェックのマフラヌに顔を埋めた有玗のくぐもった声がした。
    「期末テストだるすぎ。しかもみやたんっお受隓受隓っお蚀っおむずい過去問ずか出しおくるじゃん。解けるわけなくない」
    でも、パズルみたいで楜しいのもあるよ。
    果穂は喉の奥たで出た蚀葉を抌し戻した。そんなこずを蚀っおも、有玗はい぀ものように、たあ果穂は頭いいもんね、ず笑うだろう。
    「そうだね。テスト範囲広すぎお終わらないよ。」
    「果穂はやばいっお蚀いながらちゃんず勉匷しおるからなあ。」
    「逆に有玗は、やばいっお蚀いながら䜕もしおないじゃん。だっお気にしおないでしょ、テストの点ずか。」
    負けじず蚀い返した。
    「そうだけどさ、テストっおだけで憂鬱じゃん。」
    「私はテスト週間になるず郚掻が䌑みになっちゃうのがやだな。」
    普段なら、楜噚を抱えお郚宀ぞ向かっおいる時間だ。
    「果穂は郚掻呜だもんね。」
    「月末の゜ロ、党然仕䞊がっおないの。䞭孊校最埌なのに。」
    でも、玺色のダッフルコヌトの襟を匕き寄せた果穂の足取りは軜かった。こんなふうに有玗ず垰るのは、い぀ぶりだろう。
    「私なんかテニス郚蟞めおから、い぀も攟課埌暇だよ。」
    有玗が口を尖らせた。薄く塗った色぀きリップで、ぷっくりした唇が光った。
    䞀幎生の秋、昌䌑みにテニス郚の先茩が有玗を呌び出した時の教宀のざわめきが耳の奥で再生される。
    あんな郚掻こっちから願い䞋げ、ず有玗はその日のうちに退郚届を提出した。
    職員宀行くから぀いおきお、ず有玗は果穂に蚀った。俯きながら歩く圌女に、有玗は䜕も悪くないよ、先茩の圌氏がおかしいんだよ、ず果穂は声を匵り䞊げた。
    目が合うず有玗は口角を䞊げた。现められた瞳に、果穂は慌おお目を背けた。
    「攟課埌、郚掻がない時なら䞀緒に過ごせるず思う。垰り道の途䞭のファミレスに寄るずか」
    声が浮぀かないように気を぀けながら、果穂は提案した。
    「えヌ、果穂、校則ずか気にしそうなのに倧䞈倫なんだ。䞋校䞭にどっか寄るの校則違反じゃないたぶん。」
    果穂は髪の毛を耳にかけた。
    「やっぱいいよ。」
    アスファルトの隙間から顔を出す雑草を構わず螏んだ。
    有玗は通孊かばんの䞭を探っお、氎色の氎筒を取り出した。でも、すぐに華奢な肩を萜ずした。
    「あヌあ。ここら蟺っお自販機ないじゃん。」
    「今日䜓育の授業あったもんね。」
    果穂は自分の氎筒を振っおみせた。
    有玗は返事をせず、道の小石をヒヌルの぀いたロヌファヌで蹎った。小石は車道の方ぞず転がっおゆき、瞁石にこ぀んずぶ぀かっお跳ね返った。
    二人は信号のずころで右に曲がり、車䞀台しか通れない路地ぞ進んだ。巊右の朚々に囲たれお、空が现くしか芋えない。倧通りの車の音が遠ざかっお、朚々がさざめく音に倉わっおいった。
    「あれ、䜕これ」
    「どうした」
    果穂は立ち止たっお有玗の芖線を远った。
    朚しかないはずの堎所に、ぜっかりず空間が開いおいた。そこに芋芚えのない自販機が立っおいる。商品は䞀぀もないのに、ボタンの䞋には癟円ずいう衚瀺があった。自販機の偎面は真っ癜で、䞊郚に黒い絵の具で『忘れ物自販機』ず曞かれおいた。少しクセのある字で、也いた筆の質感たで残っおいた。
    「えっ、忘れ物自販機だっお。䜕かの䌁画」
    有玗が話しかけおくるが、果穂は自販機から目を離せなかった。思わず䞀歩近づいた。
    「こんなの、前たでなかったよね。」
    癟円を入れたらどうなるのだろう。果穂はすかさず、小銭入れをかばんから取り出した。衚にはフルヌツのキりむの断面、裏返すず鳥のキりむが芋぀め返した。
    䞭二の誕生日に有玗からもらった物だった。倏䌑み䞭に誕生日を迎える果穂は誕生日を友人に忘れられるこずには慣れっこだった。だから、䌑み明けに枡された時はお瀌の蚀葉より先に、くだらないよ、ず茶化す蚀葉が口から出おしたった。
    チャックを開けお、䞭身を出した。十円玉が二枚ず䞀円玉が四枚。手のひらには軜すぎる感觊しか残らない。有玗が短く息を吐いた。
    「果穂金欠すぎおりケる。しょうがないから貞しおあげようか」
    有玗が革財垃のがた口を広げた。果穂は䞭から取り出した癟円玉を受け取った。
    「これ、うちの生たれた幎ので取っおおいおたや぀なんだから、感謝しおよね。」
    「そんな申し蚳ない、明日返すよ。」
    そう蚀い぀぀、果穂は癟円玉を自販機のコむンスロットに滑り蟌たせた。
    二人は息を止めお自販機を芋たが、䜕も起こらない。なんだ、ずお぀りのレバヌに果穂が手を䌞ばそうずした瞬間、巊䞊のボタンの癜いランプがぱっず灯った。
    果穂は恐る恐るボタンを抌した。ボフッ、ず䜕かが自販機の䞭から萜ちる音がした。果穂ず有玗は足元の商品取り出し口を芗き蟌んだ。
    曇ったプラスチックの蓋の埌ろは癜い塊しか芋えず、果穂は蓋を持ち䞊げお手を入れた。柔らかい垃の感觊が指先から䌝わる。自販機のボタンの䞋には売り切れずいう衚瀺が赀く点灯しおいた。
    果穂は垃の塊を掎んで、目の前に掲げた。埮かに人工的なフロヌラルの銙りず少し酞っぱいような匂いがした。
    「䜕それ」
    有玗が顔を近づけおきた。
    垃を広げるず、癜ず玺の䜓操服だった。芋慣れた袖口には『䜐藀果穂』ず刺繍しおあった。
    「私の䜓操服なんでこんなずころにあるの」
    䜓操服の袋は机の暪に掛けたたただった。もう行こうよ、ず有玗に急かされお、そのたた教宀を出た。
    「えヌ、どういう仕組みどうやっお果穂が䜓操服忘れたっおわかったのカメラでも぀いおる」
    有玗が自販機の埌ろに回った。その動きず共にポニヌテヌルが巊右に揺れた。
    果穂は䜓操服を握ったたた、有玗の動きを目で远っおいた。
    い぀の間にか颚がやんでいた。自販機は唞りもせず、電源に繋がっおいるはずのコヌドは芋圓たらない。
    「意味わかんない。怖くない行こうよ果穂。」
    眉を寄せた有玗が果穂の腕を匕っ匵った。掎たれた腕にぎゅっず力がこもる。
    果穂は有玗に匕かれるたた、自販機に背を向けお遠ざかった。
    二十歩ほど歩いたずころで振り返るず、朚の陰に隠れおいるのか、自販機は芋えなかった。

    次の日に同じ堎所に戻っおみおもあの自販機はなかった。あれは倢だったのかな、なんお話しおいた有玗ずは、別々の高校に進孊した。
    倧孊四幎生の五月。手元に内定は䞀぀もなかった。
    䞉幎生の冬、リクルヌトスヌツに身を包む同期を暪目に、サヌクルの緎習に通い続けた。就掻に本腰を入れるのは四幎生になっおからで倧䞈倫。そのはずだった。
    気づいたら、れミのグルヌプチャットには内定の報告ず卒業旅行の行き先案が流れおいた。持ち駒も片手に収たる皋床しかない果穂は、倜、垃団に入っおから暗い倩井ばかりを芋た。
    やっずのこずで挕ぎ着けた銀行の最終面接。前日は想定質問ぞの回答を頭に叩き蟌んでいたら、䞀睡もできなかった。集合時間は九時。果穂は二十分前には面接䌚堎の本瀟ビルの前で、OB蚪問の際のメモを芋返しおいた。
    別に金融業界志望でもなかったが、経枈孊郚の同期の倚くが受けるらしい、ずいう情報を鵜呑みにしお゚ントリヌシヌトを送った。でも今は、第䞀志望です、ず口にしおも匕っ掛からなくなっおいた。
    そろそろ行こう、ずノヌトをビゞネスバッグにしたった。最埌に身だしなみチェック、ず小さな手鏡を出した。
    朝、敎髪料で撫で付けた甲斐があっお、アホ毛はない。手鏡の䞭の自分に、口角を䞊げおみせる。ロヌズピンクのリップを重ねお、ぱちんず鏡を閉じた。
    スヌツの襟を盎し、䞀歩螏み出しお、固たった。芖線を萜ずすず、芋慣れた倧孊甚のスニヌカヌ。元々癜かったが今は少し灰色がかっおいる。黒いトラりザヌズの裟で靎だけが浮いお芋えた。今朝、玄関でパンプスを芋たのに。
    面接たであず十五分。ブワッず汗が吹き出しお背䞭を䌝った。
    呚囲はガラス面に朝日を反射する高局ビルばかり。職堎に向かうせかせかしたサラリヌマンの足元はどれも黒い革靎だ。蟺りを芋回しおも芋えるのはコヌヒヌチェヌンずコンビニの看板だけで圓たり前のように靎屋はなかった。
    このたた面接に臚んだら、指摘されるだろうか。
    芖界の端に、ひずきわ癜いものが目に映った。巊を向く。たさか。ビルの陰たで駆け寄る。珟れたのは『忘れ物自販機』ず曞かれた自販機だった。
    かばんから財垃を取り出し、癟円玉を抌し蟌んだ。埮かに震える手で巊䞊の光っおいるボタンに觊れる。ガコン、ずいう音ず共に、䜕かが自販機の䞭で萜ちた。
    手を商品取り出し口の䞭にねじ蟌み、革の感觊で息が止たる。取り出したのは、家の玄関に䞊べられおいるはずの黒いパンプスだ。スニヌカヌを脱ぎ捚お、足をパンプスに滑り蟌たせた。
    䞀気に肺に空気が流れ蟌む。腕時蚈に目をやるず、八時五十四分。駅のロッカヌに脱いだ靎を預ける時間はなかった。
    自販機の隣にスニヌカヌを䞊べるず、果穂は姿勢を正しおからぺこりずお蟞儀をした。
    果穂は銀行の゚ントランスぞず向かった。パンプスのヒヌルが、床で硬い音を立おる。その音に抌されるように、い぀もより少し倧股で歩いた。
    ゚レベヌタヌを䞊っお案内されたのは最䞊階の応接宀だった。壮幎の面接官が䞉名、暪䞀列に座っおいる。
    「自己玹介をお願いしたす。」
    「志望動機を教えおください。」
    「孊生時代に特に力を入れたこずはなんですか。」
    質問にハヌドルを飛び越えるように答えおいく。
    「友人にはどんな人だず蚀われたすか。」
    蚀葉が途切れた。耳の奥で、果穂は頭いいもんね、ず有玗が笑った。
    「友人からは、共感力があるず蚀われたす。」
    続きを手繰り出す。
    「ただ単に悩み盞談に乗るだけでなく、呚りで起こったトラブルでも、自分ごずずしおずらえお解決のために尜力したす。実際、吹奏楜のサヌクル内で゜ロパヌトを誰にするかで意芋の察立があった際には、関係者の立堎を考慮しお、今回は経隓を積むため新人にもパヌトを担圓しおもらうよう提案したした。その代わり、孊期末の倧きな挔奏䌚では経隓者䞭心にパヌトを割り振るずいう珟実的な折衷案に萜ずし蟌みたした。」
    面接官のペンがカリカリず動く音だけが聞こえた。
    孊期末の挔奏䌚たでは緎習に打ち蟌んで、結果的に就掻が遅れおしたったのだが。自分が提案した手前、埌戻りできなかった。挔奏䌚では、最埌の䞀音が消えるたで、客垭の方を向いおいた。あの時間を無駄だったずは思いたくない。
    どうにか面接を終え、ビルの陰に向かうず、自販機は跡圢もなく消えおいた。地面には、スニヌカヌが螵を揃えお残っおいた。

    「杏里、行くよ。」
    ぶらんこを挕ぐ嚘に声をかける。赀く染たった空に、カラスの声が響いた。
    嚘の頬は倕暮れの日差しを柔らかく反射しおいた。
    膝には、孊校の昌䌑みに鬌ごっこで転んだらしい擊り傷が残っおいる。痛いの痛いの飛んでいけはしなくおいいの、ず聞いたら、もうお姉ちゃんだから倧䞈倫、ず蚀っおいた。
    でも、孊校で泣いおいたした、ず担任の先生から怪我の報告をする電話があった。
    嚘が小さいうちは時短勀務で働いおいたが、来月には銀行にフルタむムで埩垰する。孊校から垰っおきたら、真っ先にランドセルから宿題を出す子だ。きっず自分がいなくおもやっおいける。
    倫には、専業䞻婊でもいいよ、ず蚀われおいた。埩垰したらこうやっお杏里ず䞀緒に公園に行くのも難しくなる。
    融資先の瀟長のほっずした顔がかすめる。蚭備投資のための融資を頌み蟌たれたが、䌞び悩む業瞟を理由にすぐには頷けなかった。果穂は決算曞を読み蟌み、事業蚈画を䞀緒に緎り盎した。䞀幎埌、蚪問した工堎ではピカピカの機械が動いおいた。
    杏里が孊校で䜜った工䜜を捚おられずに食っおおくように、自分の担圓先のモニタリングは継続したかった。
    数ヶ月前の倕食の埌、皿掗いをする倫に声をかけた。
    「杏里もしっかりしおるし、フルタむムで埩職できたらなっお。」
    倫は手を止め、果穂の方を振り返った。
    「無理しなくおもいいんだよ。」
    食噚の泡を流しながら、倫は続けた。
    「別に、果穂の皌ぎがなくおもなんずかなるから。」
    次の日には時短期間延長の手続きのリンクが倫から送られおきた。違うの、お金の問題だけじゃなくお仕事に戻りたいの。そんな果穂の蚀葉に、奜きにしおいいよず蚀い぀぀倫はしんどかったらい぀でも盞談しお、ず最埌に付け加えた。
    「良い子は垰る時間だよ。」
    少し語尟を䌞ばしおみたが、杏里は黙々ずぶらんこを挕いでいる。
    地面を蹎り䞊げるピンク色の運動靎は、倫がネットで泚文した。杏里の足に合うサむズを調べ、転びにくそうなものを遞んでくれたらしい。杏里は氎色が奜きなのに、ずいう指摘を飲み蟌んで、返品するほどではないず履かせおいた。
    倫は銀行の先茩で、最初は食事に誘われおも断り続けた。でも、タむムラむンに毎月流れおくる指茪の写真に、果穂は断る理由を倱っおいった。
    初めおのデヌトは䌚瀟近くのむタリアン。グラスの觊れ合う音ず、控えめなゞャズが店内に流れおいた。趣味の話をする圌は子䟛のように瞳を茝かせおいお、果穂がぞえ、ず返したら延々ず喋った。
    カルボナヌラに乗った半熟卵をフォヌクで突いた埌に流れ出した黄身の艶かしさが目の裏にこびり付いた。ぬるくなった氎でパスタを流し蟌んだ。
    圌ずいる間は、誰もいない郚屋に垰る時間を先延ばしにできた。二幎埌のプロポヌズに、果穂は頷いおいた。
    ぶらんこの鎖が、きい、ず鳎った。
    今日の倜ご飯は䜕䜜ろう。冷蔵庫の野菜宀に残っおいたのはにんじんずキャベツずゞャガむモ。焌きそばの麺もあったはずだから、刻んだキャベツずにんじんに豚肉も入れお、焌きそばでいいかな。
    献立を考えながらランドセルを回収しようず、朚陰のベンチに向かっお歩いた。
    ベンチの衚面は朚がずころどころささくれだっおいるので、杏里を公園に連れお来る時には荷物だけ眮いおいた。以前、䞍泚意にもレヌススカヌトで座っお匕っかけおしたっおからは、公園に来るずきは汚れの目立ちにくいグレヌのパンツ姿だ。
    ベンチの䞊に眮かれたかばんずランドセルを手にする。
    杏里を呌がうず右を向くず、隣には自販機があった。癜い偎面ず空っぜの商品陳列棚。自販機の䞊郚ぞず目線を向けるず案の定、筆文字で『忘れ物自販機』ず曞いおあった。
    今回は忘れ物をした芚えはない。䜕が出お来るんだろう。ガチャガチャを回す時のようだ。
    果穂はかばんから財垃を出し、癟円玉をコむンスロットに入れた。
    ボタンを抌すず䞀拍の間の埌、カロン、ずいう音が響いた。果穂は姿勢を萜ずしお、手を商品取り出し口に䌞ばした。手を掠めるのは空気だけ。銖を暪に傟げお、䞭を芗き蟌んだ。
    あれ、䜕もない。でも、音がしたのだから、䜕かしら萜ちたはずだ。もう䞀床よく芋るず、底に鈍い銀色の䜕かが萜ちおいた。
    拟い䞊げるず、癟円玉だ。
    䞊を芋䞊げるず、売り切れの赀いランプが灯っおいた。釣り銭口ではなく、商品取り出し口から出おきた。
    癟円玉を芋た。平成四幎。
    有玗が生たれた幎だった。
    癟円玉の刻印に指が觊れた。
    初めお自販機を芋た時、有玗から借りた癟円玉。次の日に返し忘れたたた䞭孊校を卒業しおしたった。
    高校に入っおからは䌚うこず自䜓が少なかった。
    有玗の話に知らない名前が増えるたびに、果穂の盞槌は短くなった。有玗の隣に知らない誰かを想像するず、息が苊しくなった。
    子䟛っぜいから、ず自分に蚀い聞かせお、キりむの小銭入れはい぀からか䜿うのをやめた。抌入れの奥に入れたそれは端の糞がほ぀れおいた。
    高二の春に有玗からのメヌルだけ着信音を消した。通知が鳎るたびに送信者を確かめるのをやめたかった。自分から連絡するこずはできないたた、受信ボックスに残ったのは新幎の挚拶だけだった。
    それでも、数幎ぶりに䌚った成人匏では、振袖の有玗に駆け寄った。
    「テニス郚の先茩、やばかったよね。」
    あの頃の話をするず、有玗は目を现めお笑った。
    二次䌚で入った居酒屋では薄いサワヌのグラスを傟けお近況を報告した。有玗が赀い口玅を塗り盎しながらさらりず蚀った。
    「最近ラりンゞのバむト、始めたんだよね。」
    「そうなんだ。」
    唇の茪郭をなぞるような玅から目が離せなかった。ラりンゞずいう単語が尟を匕きずっお脳内に䟵入した。
    「しゃべるだけで時絊が高いよっお蚀われおさ。」
    「うん。」
    「ただ、ボックス垭だず調子乗っお觊っおくるおっさんいお、マゞで最悪。」
    有玗が毒づいた。
    殺気っおこんなにさらりず湧くものなんだ、ず果穂はわずかに口の端を䞊げた。
    そんなダツ、有玗に觊れお良いわけない。有玗は私にずっおは倧切な 。そこたで思考が動いお急停車する。䜕だず蚀えるのだろう。
    「最悪だね。」
    こだたのように返す果穂の声は、居酒屋の喧隒に玛れた。
    「たあ、人生経隓になるし、今だけだから。」
    髪をかき䞊げながら語る有玗を芋぀めながら、果穂は机の䞊のおしがりを䜕床も折り返した。
    店を出るず、息が癜かった。駅ぞ向かう道で、有玗が前を向いたたた蚀った。
    「ねえ、どっか行きたくない 遠いずこ。二人で。」
    軜い声だった。でも、暪顔は笑っおいない気がした。
    「海倖旅行ずか、今しかできないし。」
    取り繕うように付け加えた。
    「お金ないよ、私。」
    果穂はそう返しお、笑っおみせた。仕送りのない果穂は孊食でも䞀番安いうどんばかり食べおいた。自分に蚱す莅沢はたたに枩泉卵を远加で泚文するこずだった。
    「だよね。」
    有玗も笑った。
    「たた連絡するね。」
    そのたたが、どちらからも来ないたた、今日たで来た。
    この癟円、どうしよう。果穂は癟円玉の瞁のギザギザを指先でなぞった。
    もう有玗ずは䜕幎も連絡しおいない。同玚生のネットワヌクを蟿れば、連絡は぀くかもしれない。でも、連絡したずころで、果穂は䜕を求めおいるのだろうか。
    銀行口座に結婚前の貯金が手付かずで残っおいる。数癟䞇円あるはず。生掻費の倚くは、倫が払っおくれおいたおかげだ。
    入籍したずきのこずを思い出す。改姓の手続きのために人事郚宛に曞類を送った。名前を曞くずころに『䜐藀果穂』の人偏たで曞いお二重線で消した。新しい姓の印鑑を抌すず今たでの自分が䞊曞きされるようだった。
    このお金があれば、有玗ずどこか遠くに行けるかもしれない。今の自分を汚れた衣服のように脱ぎ捚おたら。果穂、ぶっ飛んでおりケる、なんお蚀いながら有玗は぀いお来おくれるだろうか。
    どくどくず心臓の音が肋骚の間で反響しおいた。
    「ママ、䜕しおるの」
    幌い声に、はっず振り返った。小さい指先がシャツの裟を぀たんでいた。嚘の杏里だ、ず気づくのに数秒かかった。
    「ごめんね。」
    果穂は肩にかばんをかけ盎した。䞞く芋開かれた目に目線を合わせた。
    「ママね、忘れ物をしたのに気づいたの。」
    「䜕を忘れたの」
    杏里が銖を傟げた。
    「䜕だろうね。ママもよく分からない。」
    ぀た先を芋ながら呟いた。
    「取りに行くの」
    䜕も蚀わずに右手を差し出しお、ふくふくず匟力のある小さな手に觊れた。
    反察の手には有玗の癟円を握っおいた。
    「取りに行けない忘れ物もあるのよ。」
    巊手をポケットに入れ、コむンを手攟した。癟円玉がポケットの底に萜ちお、垃越しに僅かな重みが䌝わる。コむンはじきに自分の手の枩かさを倱うだろう。杏里の手の枩もりを感じながら、果穂はぎゅっず右手を握った。
    前を向いたたた、杏里の手を匕いおゆっくりず遠ざかっおいった。


    最埌たで読んでいただきありがずうございたす。
    初投皿です。スキ、コメント頂けたしたら飛び䞊がっお喜びたす^^
    集英瀟新人短線賞に応募しおいたす。

     
     
    方向音痎のロマンチスト 慶應経枈卒の䞞の内OL 機胜䞍党家庭のメンヘラ 蚀葉を玡いで生きおゆく

    あなたぞのおすすめ