
我が家の食卓は、ときどき危ない
うどんって不思議なものだ。その名を聞くだけでも、そのつるっとした食感と、程よいつゆの味がありありと浮かんでくる。よだれが垂れる。
とある休日の午後。ゴロゴロしていた夫が「うどんを食べよう」と言い出したときもそうだった。
「いいよ。茹でてくるね。」
「待って待って!」
お湯を沸かそうと立ち上がったら、夫に止められた。暑いから座って待ってと。
そ、そう?あなただって暑いでしょ。
私が作りたいのは山々だけど、
そこまで言うなら…。
仕方ないね!
もともとあなたのうどんの方が10倍は美味しいしね!
ほんの少しだけ浮いていたお尻を素早く座布団に貼り付けた。

少ししたら、夫はぶっかけうどんを作って持ってきた。いつの間に用意したのか、温泉卵となめこまで乗っている。麺つゆの加減もちょうどよかった。自然と箸が進む。しかし問題はなめこを噛んだときだった。何かが違う。
「なめこって味噌汁に入ってるものしか食べたことないけど、こんなもんだっけ」
「んー、そう?」
「もしかして…茹でてない?」
「うん。」
「えっ、これ生なめこなの?」
「うん。」
どうやら夫は「市販のなめこ=調理済みのもの」と思っていたらしく、私は生なめこだと気づかない夫の鈍さにショックを受けた。時々、夫を不思議な生き物だと思ってはいたけれど、まさかここまでとは。(向こうも私をそう思っているようだが)
一方、せっかく作ってくれたのに文句言うのもあれかなと思いつつ、そのまま食べるわけにもいかないから、なめこだけを掬い上げ、電子レンジで加熱することにした。
私が「作業」を続けているうち、夫は少ししょんぼりしている様子だった。雨に濡れた子犬のような彼の姿を見ると、つい先日あった、私の「前科」を思い出した。
実は、夫に腐った豆乳で作ったホットケーキを食べさせたことがある。
よりによって牛乳が切れたときだった。代わりに、冷蔵庫の片隅から見つけたのが豆乳だった。ラッキー。そのままホットケーキミックスが入ったボウルに勢いよく注いだ。
注ぎ口からぐにゅっと出てくる塊は今まで見たことないものだったけど、「冷蔵庫に長くいた分、よく濃縮された豆乳エキス」だと甘く考えた。
豆乳エキスが「腐った固形物」であることがわかったのは翌日の朝。残りを飲み干そうとカップに注いだら、さすがに見た目も、においも変だった。賞味期限はなんと1ヶ月も切れていた。
滑稽にも、私たちは腐った豆乳で作ったホットケーキを頬張りながら、「歴代最高のおいしさだ」なんてことを言っていた。

「まあ、これで1対1だね。ほら、前のめちゃくちゃ美味しかったホットケーキ」
「あぁ、その危なっかしいやつな」
やっと夫の顔がパッと明るくなった。
生なめこと傷んだ豆乳、どちらがマシだろうなんて思いながら、そんなこと思っている自分がおかしくて私も笑った。
いくら年を重ねてもこの人生は初めてだから。不慣れや無知もいまだにたくさん出てくる。振り返れば、その中で失敗もすれば、だからこそ得たものもあった。今の夫(前も同じ夫だが)になめこの扱いがわかってきたのも、私が豆乳の沈殿物と腐敗の見分けがつくようになったのも、また、生なめこ以外にも度々見えてくる夫の奇行を「変」ではなく、「あの人だけのチャームポイント」と思えるようになったのも。
きっと私たちはしっかりと成長している。
なんちゃら菌たちにさらされる危機と見えない戦いを続けながら。(免疫細胞には心から感謝している)
いくらしくじったな、と思うことも、受け止め方を少し変えてみたら「思い出」と呼べるものになるものだ。
幸いなことに、生なめこも、ホットケーキも、救急車を呼ぶような大事には至らずに済んだ。日頃からこまめに行っている「胃腸のアルコール消毒」のおかげだと思うことにした。そうすると、この失敗談も、一気に「だから飲まないとな~」と、これからも安心して飲める素敵な言い訳になって、毎日楽しい晩酌祭りも続けられる。
そうやって似た者同士の私たちは今日も驚いて、笑って、ごまかしながら、健気に今を生きていく。
あ、パッケージの賞味期限や注意書きはしっかり読むことにしよう。