
【TRPG小説化 #2】『昨日から、俺が二人いる』後編

空手家パパさん自作のアプリでTRPGをプレイし、その内容を前編/後編の2本立てで小説化しました。前編⬇️
空手家パパさんのプレイ結果⬇️

🍤『二つの昨夜を歩んだ男』前編のあらすじ
ある日の18時42分。
桐生マコトは「もしあの時、別の道を選んでたら」と思い浮かべたことをきっかけに、二人に分かれてしまうという超常現象が発生。
ここまでいくつかの超常現象を解決してきたしげちーがその場に居合わせ、マコトの恋人・高瀬ナナと事情を聴くことに。
そして、どこからか嗅ぎつけた、超常対策局の魔の手が迫る。追っ手を紙一重でかわし、なんとかレンタルスペースに逃げ込む。
話を聞くうちに、「選ばなかった可能性の自分を感じ取る」という、マコトのごく弱い超能力が原因らしいことまで突き止めた。
果たしてマコトは元に戻れるのか。それとも・・・。
🍤登場人物
しげちー
主人公。
いつの間にか、魂カード《光》を持っていた。カードの正体は不明。
いくつかの超常現象に巻き込まれ、いつも「超常対策局」に目をつけられているが、シラを切り通している(つもり)。
ルミナ
魂カード《光》とほぼ同時に現れた精霊。味方のようだが正体不明。実はラスボスなんじゃないかと、しげちーは心のどこかで疑っている。
超常対策局
黒づくめの組織。
しげちーが逃げ隠れしているため、どのような組織か不明。いつもどこからか、超常現象を嗅ぎつけてくる。
桐生マコト
今回の超常現象の中心人物。
弱い超能力があるらしく、AとBの二人に分かれている。
高瀬ナナ
桐生マコトの恋人。一般人。

🍤『二つの昨夜を歩んだ男』後編
3️⃣光の導きと拒絶の摩擦
「しげちー……二人とも、追手から逃げるので手一杯で、魂の波長がパニックを起こしかけてるよ」
レンタルスペースの静かな室内で、ルミナが私の肩口から不安そうに二人のマコトを見つめた。
机の上に置かれた二台のスマートフォン、二人分の財布、そして高瀬ナナの涙。
長年、広告のわずかなノイズや不整合を見抜いてきた私の目には、この異常事態の全貌がはっきりと見えていた。
彼らは「偽物」と「本物」ではない。18時42分というたった一つの瞬間を境界にして、一人の人間が二つの異なる過去を抱えて分かれてしまったのだ。
「……マコトさん、二人とも聞いてください」
私は二人とまっすぐに向き合い、静かな、しかし確信に満ちた声で語りかけた。
「君たちが二人になったきっかけは、昨日の18時42分……『家に帰るか、コンビニに寄るか』という、ほんのわずかな迷いでした。選ばなかった可能性の自分が、現実として分岐してしまった」
「……選ばなかった可能性……」
マコトAが自分の掌を見つめ、呟く。
「なら、逆もまた然りです」私は二人の間を指し示した。
「もし、二人が『同じ一つの未来』を本気で思い描くことができれば……二つの時間はもう一度、一つに結びつくはずだ」
「同じ……未来を……?」
マコトBが息を呑み、隣のマコトAと顔を見合わせた。
「そんなこと……本当にできるんですか……? でも……」
「やってみよう、あいつ……いや、俺。このままじゃ、ナナを傷つけ続けるだけだ。口座も、家も、社会的な存在も……俺たちには二人分ないんだから」
二人は意を決したように互いの右手を伸ばした。
二人の掌が重なり合った瞬間、空気の中に波紋のような透明な歪みが発生し、低い振動音が室内に響き渡る。
「しげちー! 二人の魂が強力に共鳴し始めた!」
ルミナの叫びと同時に、私は胸元から《魂カード》を取り出した。
カードから溢れ出た淡い《光》の粒子が、二人を包み込み、空間の軋みを和らげていく。
しかし——二人の表情が、急速に苦悶へと歪み始めた。
「ぐっ……! なんだ……これ……!? 俺の……俺の昨日が、書き換わろうとしてる……!?」
「あいつの記憶が……入ってくる……! でも、ダメだ……俺が昨日過ごした時間も、確かにここにあるんだ……!」
重なり合おうとする二人の身体が、光の中で激しくブレ始める。
マコトAがそのまま帰宅して過ごした、一人静かな夜の時間。
マコトBがコンビニで買った弁当を食べ、テレビを見て過ごした夜の時間。
二つの「昨夜の経験」が物理的に一つへ収束しようとするとき、強い拒絶の摩擦が生じていた。二人とも「相手が本物である」と知っているからこそ、「自分という人間が消されてしまう」という無意識の恐怖に囚われていたのだ。
「しげちー! だめ、二人とも『自分が過ごした昨夜の記憶と存在』を手放せなくて、魂が融合するのを拒絶し合ってる!」

ルミナの悲痛な声が響く。このままカードの光で力押しすれば、二人の精神そのものが崩壊してしまうか、二度と元に戻らない歪みを残してしまう。
ナナが溢れる涙を拭うことも忘れ、息を飲んでその光景を見つめていた。
「マコト……! やめて……! もう、お願いだから傷つき合わないで……!」
4. 二つの時間を愛するということ
互いの存在を消害し合おうとする記憶の奔流。
その中心で、私はカードの《光》の波動を深く、穏やかにコントロールした。
力で一つに押し潰すのではない。
どちらか片方を「偽物」として消去するのでもない。

長年、言葉の裏にある「双方の言い分」を読み解いてきた私の声が、光の粒子を通じて、二人の魂の領域へと直接響いていく。
「昨日の出来事は……どちらも本物だ。手放す必要なんて、最初からないんだよ」
重なり合う二人の身体が、一瞬ピタリと動きを止めた。
「どちらの時間を消す必要もない。
家へ直行した昨夜も、コンビニへ寄った昨夜も、どちらも桐生マコトが生き抜いた大切な人生だ。
片方を捨てるのではなく……その両方を『自分』として受け入れるんだ」
「両方を……俺の……時間として……?」
「消さなくて……いいのか……?」
苦悶の表情を浮かべていた二人の瞳に、あたたかな光が宿る。
あふれ出る《光》の中で、弾き合い、争っていた二つの魂の波長が、次第に柔らかな調和へと変わっていく。
家で静かに過ごした時間の静寂と、コンビニの弁当の味。
ナナへかけた電話の声と、深夜に送ったLINEの言葉。
二つの異なる昨夜の記憶が、ジグソーパズルの欠片のように、寸分の狂いもなく一人の意識の中で重なり合っていく。

光の粒子が収束し、静寂が部屋を包み込んだ。
そこに立っていたのは——一人の桐生マコトだった。
彼はゆっくりと己の両手を開き、それから深く、長い息を吐き出した。
「……そうか。
俺は、まっすぐ家にも帰ったし……コンビニにも寄ったんだ。どちらも……俺だったんだな」
その言葉には、もう迷いも困惑もなかった。
二つの異なる昨夜を抱えた、新しく、そして少しだけ豊かな思い出を持つ一人の人間が、そこに立っていた。
「マコト……? 一人に……戻ったの……?」
高瀬ナナが足をもつれさせながら歩み寄る。
桐生マコトは優しく微笑むと、彼女の震える両手をしっかりと握りしめた。
「ああ、ナナ……心配かけてごめん。……昨夜君に電話したことも、そのあとLINEを送ったことも……全部、俺だよ」
「マコト……! マコト……っ!」
ナナは彼の胸に顔を埋め、声を上げて泣き崩れた。マコトは彼女を愛おしそうに抱きしめ、感謝の眼差しを私へと向けてきた。
肩口で、ルミナが満足そうに胸を撫でおろす。
「すごいや、しげちー。
二つの魂を争わせるんじゃなくて、どちらも肯定されたことで……一つのより大きな魂へと昇華されたんだね」
追手の足音は、もう路地の遠くへと去っていた。
一人の人間が持ち得る「選ばなかった可能性」。それを切り捨てるのではなく、すべて自分自身として愛すること。
深夜の繁華街の片隅で、静かな奇跡が一つ、幕を閉じた。

(了)
以上で後編完結です。
読んでくださった方、ありがとうございました😊

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