
スケッチについて(新刊本からの抜粋)
新刊本「水墨画のアイデアとテクニック」が日貿出版社より発刊されました。以前出版された「水墨画の教科書」の続編としての位置付けとなっています。
今回は野外でのスケッチなども含め、3人の画家それぞれのの創作のアイデアや発想法などを紹介し創作の一助としてもらうための内容となります。
スケッチに関しては人それぞれ考え方や自身の中での位置付けも様々でしょう。
そこで本書に書いた私のスケッチ考を抜粋してここに紹介したいと思います。

私たちが自然を描写する時、目の前の自然をそのまま写し取ろうとする自然主義的な態度と、自然に自らの意思や理想を見出し反映させようとする理想主義的な態度、おおよそこの二つのうちのいずれかの手段を用いて表現することになります。
屋外でスケッチをすると同時に水彩画や油彩画を仕上げるというのは、前者の自然主義的な手法と言えます。
これに対して、古来水墨画は理想主義的な態度をとってきました。特に山水画は自然をそのまま写し取るのではなく、自然を掌握し、そこに自らを遊ばせる理想郷を作り上げてきたのでした。つまり水墨画で自然を描写するということは、胸中の丘壑(きょうちゅうのきゅうがく)すなわち心の中の理想郷を描くことに他なりませんでした。
時代の変遷とともに現代水墨では写実的な手法を取り入れるようになっていますが、やはり墨、筆、画仙紙といった水墨画特有の道具の使用ともあいまって、具象的な描画であっても筆技や墨技の妙が加えられ、単なる写実を超えた心象風景が生み出されるのです。
私の作品もまた自然主義的な態度を理解しながらも精神性や表現性に重きをおいています。ですから私にとってスケッチ、特に風景をスケッチすることは、これから描こうとする作品のおおよその方針を決めるツールと位置づけています。目の前の自然を逐一紙面に写し取ろうとするのではなく、あまり細かい部分にこだわらずに見ている風景のどの部分を描くかを記録し、後に作品として描く際のインスピレーションを喚起する主要な素材としてスケッチというものを捉えています。
もちろん植物や建造物などを描く場合は、対象の構造を把握するために詳細なスケッチが必要なこともあります。その上でそれを作品にする際には筆墨の表現力によって自ずと省略や取捨選択がなされます。
一方でスケッチしたもののどの部分を利用しどの部分を捨てるのか、あるいはどこをどう強調して表現するか、そこが描く者の個性が発揮されるところですので、翻って逆に考えればスケッチ自体も人それぞれの個性があってしかるべきで、スケッチがそのまま歴とした彼の作品ともなりえましょう。