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コヌシャクを垂れる䟯爵短線小説4,000文字

    「キミ、ちょっず」
     それは、青果コヌナヌのヘルプに出おいたアタシが、ちょうどカヌトから舞茞を取り出しお、ゎンドラ陳列棚に積み䞊げおいる時だった。
    「それは舞茞マむタケだ」
    「  はい、そうですがっお、そう曞いおあるし  誰でも知っおるし」
     そのお客様は、幎霢は60がらみ、ブラりンチェックのゞャケット、臙脂色のアスコットタむ、りヌルの䞭折れ垜からはグレむの髪がのぞく。県鏡は薄い銀瞁で、ずにかく知的な感じだ。
    「その暪にあるのはヒラタケだ。䌌おいるが、異なる皮類だ」
    「  はあ」
     そりゃ、そうでしょ、同じなら区別なんかしない。
    「舞茞ずヒラタケの違いを知っおるかね」
     今、忙しいんですけど、ず蚀いたいが、ここはスヌパヌ・らくだ、客商売だ。
    「舞茞はカサの色が濃くっお薄い感じ、ヒラタケは色が薄くおカサは分厚い ── ですかね」
     玳士は悲しそうに銖を振った。
    「答えになっおないな。舞茞はサルノコシカケ科マむタケ属、ヒラタケはヒラタケ科ヒラタケ属だ。『科』からしお違うんだ。このヒラタケも、もずは『シメゞ』の名前でずしお売られおいたんだ。それが今は  」
     こりゃいかん、長くなりそう。
    「そうなんですかあ ありがずうございたすう では」
     ちょうどマむタケを陳列し終えたずころだったので、100の䜜り笑いを浮かべながら、カヌトを抌しお䞋がった  やれやれ。
     バックダヌドに戻ったアタシに、先茩バむトの優子さんが声をかけた。
    「歩矎あゆみちゃん、運悪く《䟯爵》に捕たっちゃったわね」
    「え、䟯爵っお」
     でも、優子さんは忙しいらしく、ピヌマンのカヌトを抌しお売り堎に出お行った。

     この日はよほど぀いおいないらしく、その埌本職のレゞに戻ったら、たたこのオゞサン ── 《䟯爵》に遭遇した。
    「これさあ ──」
     《䟯爵》がバスケットから刺身パックを取り出した時、既に嫌な予感はあった ── その埌ろには人のお客が順番を埅っおいるのに。
    「『本マグロ』っお貌っおあるだろ」
     アタシの目の前に突き付けられたのは、確かに䞭トロマグロだ ── 矎味しそう   いやいや、そうじゃない。
    「この『本マグロ』っおなんだい」
    「は」
    「『本マグロ』の『本』っおなんだい」
     《䟯爵》は銖を少しひねり、か぀少し傟け、唇を少し曲げ、芖線の端でアタシを芋䞋ろしおいる  。
    なんだいっお、難題 ── これは眠かもしれない。ストレヌトに答えない方が良さそうだ
    「えヌず、ホントのマグロっおこずですかあ」
     《䟯爵》は銖を振った。
    「じゃ、質問を倉えよう。この魚、正しくはなんおいう」
       長くなりそうだった。
    「『本マグロ』  じゃないんですよね、きっず」
    「クロマグロだ。どうしお正しい名称を蚘茉しないのかな」
    「そんなこず  アタシに蚀われおも  あの、次のお客さんが埅っおおられたすので  」
     気配を察しお他のレゞに䞊び倉える客も珟れた。
    「いや、これは倧事なこずだよ  おう」
     アタシは構わず『本マグロ』を《䟯爵》から匕ったくり、コヌドリヌダヌを通した。
    「はい、党郚で3684円になりたあす」
     ずころが、これにも絡からんでくる。
    「『 になりたす』」っお物蚀い、日本語ずしおおかしいでしょ。『3684円です』じゃないか」
    「はあい、申し蚳ありたせヌん、3684円でヌす。番セルフレゞでお願いしたヌす」
    「だいたい、最近の若者は  」
    「ありがずうございたヌす。はい、次のお客様、どうぞ」
     匷匕に芖界から远い払った。

    「なんですか、あの《䟯爵》っおオゞサン やたら絡からんでくるんですけど」
     䌑憩宀で文句を蚀うず、優子さんが反応した。
    「だから《䟯爵》なのよ やたらコヌシャクを垂れるの」
    「あ、そっちのコヌシャク 『講釈を垂れる䟯爵』っおわけ」
     アタシは絶句した。
    「私もこないだ、やられたわよ」
     鮮魚担圓の石川さんが割り蟌んできた。
    「最近出回るようになったメヒカリを䞊べおいたらね、《䟯爵》がやっおきお蚀うのよ ── 『メヒカリっおのは俗称だ、正匏名称のアオメ゚゜を䜿うべきではないかね』っお」
    「で、どうしたんですか」
    「面倒だから、『ありがずうございたす、䞊叞に䌝えおおきたす』っお蚀っお远い払ったのよ。そしたら  」
    「そしたら」
    「別の日にたた珟れお、『ただメヒカリっお曞いおるじゃないか、先日ボクが教えおあげたのに』っお」
    「教えおあげた ── 䞊から目線」
    「そうなの ホント、嫌になっちゃう」
    「私は、商品名で挢字間違いを指摘されたこずがある 簡略字を䜿うんじゃないっお」
    「こちずら客商売だから、喧嘩するわけにもいかないしね」
    「  ったく、盞手しおたら時間ずられるし、偉そうで腹立っおくるし  
    「ムシ、ムシ」
    「完党な無芖はマズむっしょ ねえ、チヌフ」
    「そうねえ  」
     䞭島チヌフにも難題だった。
    「あのオゞサン、服装は䞊品だし、こずば遣いも䞁寧ではありたすよね、講釈垂れるからっおだけじゃなくっお、《䟯爵》っおニックネヌム、なんだかぎったりしおいたすよね、ダンゎトナキ人、なんですかあ」
    「  そういう噂はあるのよ。ほら、䞉䞁目の坂を登ったずころに掋通みたいな家、あるじゃない 倧倉さんっおいうんだけど、倧孊の先生だったみたい」
    「奥さん、いないのかしら。い぀もひずりだけど」
    「うヌん、そこたではわからないわ。でもね、家族がいるかいないかわからないけど、ああやっおりンチクを垂れるのは、淋しいんじゃないかしら」
    「うヌん」
     みんな考え蟌んでしたった。

    **********

    「歩矎あゆみちゃん 今日も《䟯爵》が䜕か蚀っおたみたいじゃない」
    「あ、小池さん、ええ、スルメむカずダリむカの違いに぀いお、コヌシャク、受けおいたした」
    「それ、先週も同じこず蚀っおたんじゃない 倧䞈倫 うたく察応できた」
    「もちろんです」
    「どうしたの なんだか機嫌いいわねえ。《䟯爵》のこず、気にならなくなったの」
    「ええ 問題ないです」
    「あ、䜕やっおるの」
    「ぞぞ  バレたか」
     アタシは耳たぶを芋せた。そこには、最近買った赀いピアスがぶら䞋がっおる。
    「䜕それ タ  タコじゃない」
    「そうなんです 先週ネットで買ったの」

    画像
    タコピアス

     《䟯爵》が䜕かコヌシャクを垂れるたびにアタシはこのタコに指先で觊れる。
    耳タコ、耳タコ、耳タコ  
     ず念じながら。
    「それ、『耳にタコができおる』っおわけね」
    「ええ、そう。口には出しおないけど。でも、これを始めおから、《䟯爵》の垂れるコヌシャク、たったく気にならなくなったんです」
    「倩才だわ、歩矎あゆみちゃん そ、そ、それ、どの通販 私にも教えおよ」
     小池さんはアタシの耳に指を䌞ばしおきた。

    **********

     スヌパヌ・らくだの女子店員のほずんどに ── ずいっおも、耳に穎をあけるのに抵抗がある鯖朚さばきさんのようなシニア局は別にしお ── タコピアスが行き枡るのに、ひず月もかからなかった。
     そしお、ホントにみんな、《䟯爵》の垂れるコヌシャクが気にならなくなったのだ。
     コヌシャクが始たるず誰も、衚情はにこやかに、けれど指先は耳のタコをいじり始める。そうするず、タコピアスの魔法なのか、䞊から目線で䜕を蚀われようが、
    ハむハむ、そうですか、勉匷になりたあっす
     ずいう優しい気持ちになるのだ。

    **********

    「ねえねえ、《䟯爵》っお、最近、コヌシャク垂れなくなった気がしない」
    「あ、アタシにもそう たたに芋るけど、なんだか元気がないみたいで  。アタシたちみんな、戞惑いを芋せずにニコニコ察応するから、匵り合いがなくなったのかしら」
    「私もそう思った」
     そこに䞭島チヌフが口をはさんだ。
    「残念ながら、違うのよ。《䟯爵》の方でも様子が倉だ、ずは感じおいたみたい。それに、話を聞きながら、みんな耳のタコピアスをいじっおいるじゃない ある時、『ゆっくりレゞ』の方に䞊んで、鯖朚さばきさんに尋ねたんだっお、『このスヌパヌではタコを耳に付けるのが流行っおるのかね』っお」
    「あ、むダな予感」
    「そう 鯖朚さばきさん、サバサバしおるから、耳タコ魔法に぀いお、党郚、話しちゃったのよ、本人に」
    「あちゃあ 怒った  かしら」
    「それがね、がっくり項垂うなだれおたっお」
    「はあ  それ以来、元気なくなっちゃったっおこずですか」
    「ふうん。  なんだかかわいそうね」
    「今さらだけど、実害があったわけじゃないからね」

     䞀番ショックなのはアタシだった。
     自分が銖謀者になっおクラスでむゞメを行ったような、ずっおも埌味が悪い気分だ。
    なんずか  しなくっちゃ

    **********

    「歩矎あゆみちゃん、さっき《䟯爵》、鮮魚売り堎に来おたわよ」
    「あ、知っおたす。昚日POP案をファむルで送っお来たからOKしおおいたので」
    「なんか、匵り切っおたわよう もう、発衚䌚の日の子䟛みたい」
    「そうですかあ、良かった」
    「あれ、無償でやっおくれおるんでしょ」
    「ええ、ボランティアでもやりたいっお」

     《䟯爵》に䟝頌した責任者ずしお、䞀応、鮮魚売り堎に芋に行った。
     朱色が鮮やかな倧振りのタラバガニの暪に、その《POP》── 商品説明甚のカヌド ── が掲げおあった。

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    スヌパヌ・らくだの専属POPラむタヌ
    『らくだ䟯爵』が垂れる『今週のコヌシャク』
    タラバガニPOP

     少し離れた所に《䟯爵》は立ち、腕組みしながらお客が《POP》を読むのを眺めおいた。
    「お぀かれさたです 評刀、いいみたいですよう」
     アタシが声をかけるず、照れたように頬を掻いた。
    「いや、こういうの、倧孊にいた頃に孊䌚発衚で慣れおいるからねえ。この字、ボクの奜きなフォントなんだ。『HGS創英角ポップ䜓』っおいっおね、特城ずしおは  」

       長くなりそうだった。
     アタシは髪をかき䞊げ、耳たぶに指を䌞ばした。



    鯖朚さばきさんが登堎するお話は

     
     
    小説家執筆掻動再開したした。 「朚村家の人びず小説新朮新人賞⇒映画化」「東京郜倧孊の人びず映画化」など。 有料蚘事も無料領域がかなり長めですので気軜に芗いおやっおください。 たずは江戞期にいた、ずお぀もなく匱い力士の物語から  。

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