【2026夏インターン Aまちづくり型③】南小国で出会った、“自分のまちを誇る”ということ
はじめに:自己紹介
はじめまして。九州大学共創学部4年の倉田陸離です。
私は福岡県北九州市の門司港で生まれ、幼少期から日本各地の多様な地域文化や魅力に触れながら育ちました。

大学では地域活性化や持続可能な観光まちづくりに関心を持ち、「現場で実際に地域を経営する試みや課題解決の取り組みを体感したい」という思いから、熊本県阿蘇郡南小国町での2週間のインターンシッププログラムに参加しました。
今回、私は「まちづくりコース」のメンバーとして、南小国町で新しい事業に挑む人々を支える「夢チャレンジ補助金」の現状と今後のあり方について考察しました。
実際の事業者様や町役場・SMO南小国の方々へのヒアリングを通して見えてきた、「自分のまちを誇り、挑戦を応援する風土」と「持続可能な観光の姿」についてお伝えしたいと思います。

インターン中に伺った、忘れられないお話
黒川温泉や美しい里山で知られる熊本県阿蘇郡南小国町。私はこの町で、2週間のインターンシップを経験させていただきました。
私は「まちづくりコース」の活動に参加し、南小国で新しい事業を始める人を支援する「夢チャレンジ補助金」について、その制度や今後のあり方を考えました。
実際に補助金を利用された方や町役場の方にお話を伺いながら、制度の仕組みだけでなく、南小国という地域がどのようなまちづくりを目指しているのかについても知ることができました。
その中で、特に忘れられないお話があります。
南小国町の子どもたちに「南小国の名産品は?」と聞くと、「小国杉!」「あか牛!」などすぐに答えが帰って来るそうです。
ここでは、子どもたちに地域の良さを伝え、「故郷愛」や地域への誇りを育てる取り組みが行われています。保育園で伝統文化に触れる機会があり、給食では町内のお米や、地域のお母さんたちが作った味噌を使った味噌汁を食べる。
そうした日々の経験や教育を通して、子どもたちは自然と自分たちの地域のことを知っていきます。
そして、たとえ進学などで町を離れることになっても、南小国で「キラキラしている大人」の姿を見て育った子どもたちは、いつか町の外で南小国のことを自慢してくれるのではないか。そんなお話でした。
私は、その言葉を聞いて、なぜか泣きそうになりました。
これは私たちまちづくりコースではなく、児童福祉コースの学生からの質問に対して、町の児童福祉に関わる方が答えてくださった内容でした。それにもかかわらず、私にとっては、南小国における「住民としての愛着や誇り」というものを象徴する言葉のように感じられたのです。
なぜ私は「自分のまちを誇る」という言葉に惹かれたのか
私は福岡県北九州市の門司港出身です。大正時代の建物やレトロな街並みが残り、観光地としても知られている場所です。
とはいえ、門司港で暮らしたのは物心がつく前のことで、すぐに東北へ引っ越したため、門司港には「ずっと暮らしてきた故郷」という感覚とは少し違うところがあります。
毎年夏に帰省する場所として訪れていたため、どこか半分観光客のような視点で門司港を楽しんできました。だからこそなのか、私は自分の地元に対する愛着がかなり強いと自負しています。
そして私は旅行も好きで、これまで日本各地を訪れてきました。そのたびに、それぞれの地域に異なる魅力があることを自分の目で知ってきました。そうした経験から、日本には自分の地元も含めて、「こんなにも素敵な場所がたくさんある国なのだ」と感じるようになりました。
一方で、「私の地元なんて何もない」「日本はもう昔ほどの経済力や国際競争力がないからダメだ」といった言葉を耳にすることもあります。
もちろん、地域によって観光資源やインフラに差はあるし、日本の経済力が以前ほどではないことも事実です。しかし、それでも私は、こうした言葉にどこか違和感を覚えていました。
地域が観光地として持続的に発展していくためには、そこに「自分たちの地域が好きだ」と思える人がいることが、とても重要なのではないでしょうか。
振り返ってみると、私が地域活性化や観光に興味を持ってきた原点も、実はここにあるのかもしれません。
日本の観光が抱える課題と「オーバーツーリズム」
そもそも、なぜ「地域を愛する人」の存在が、観光まちづくりにとって重要なのでしょうか。
現在、日本の各地域では、観光客を呼び込むことによる経済効果が期待される一方で、人口減少や担い手不足、地域文化の継承、交通や生活インフラの維持など、さまざまな課題を抱えています。
その中でも近年よく耳にするのが「オーバーツーリズム」です。
オーバーツーリズムとは、観光客が特定の地域や時間帯に集中することで、混雑や交通問題、騒音、ごみ、自然環境への負荷など、地域住民の生活や観光資源に悪影響が生じる状態を指します。
ここで重要なのは、観光客が多いことそのものが問題なのではなく、観光による利益と地域住民の暮らしとのバランスが崩れてしまうことだと思います。
そのため、観光客によるマナー違反や混雑が問題になったとき、「観光客が多すぎるから規制しよう」「迷惑だから来てもらわないようにしよう」という消極的な対応だけでは、根本的な解決にはならないのではないでしょうか。
もちろん、必要なルールや規制は存在します。しかし、それと同時に、「この地域の良さを守りながら、住民にも観光客にも愛される場所であり続けるためにはどうすればいいのか」と考えることが必要なのではないでしょうか。
単なる集客だけでは地域は豊かにならない
観光による地域活性化というと、「観光客を呼び、地域の商品やサービスを消費してもらい、お金を落としてもらう」という側面が注目されがちです。しかし、それだけでは観光地は長く続きません。
地域の人が自分たちのまちに愛着を持ち、その魅力を外部に伝え、同時にその魅力を守っていく。そうした営みがあってこそ、地域は観光地としても持続可能になっていくのではないでしょうか。
南小国で活動するSMO南小国も、単に観光客を呼び込む「観光プロモーション」だけではなく、「地域を経営する観光」を掲げています。観光を手段として、地域住民の暮らしを豊かにすること。
そして、観光によって得られたものを交通や医療、教育などの地域の生活に還元し、「南小国町に住んでいてよかった」と思える循環をつくることを目指しています。
その先にあるのが、地域の自然や文化を未来の世代に引き継ぐ「上質な里山の維持・継承」や、地域資産を責任を持って守る「スチュワードシップ」という考え方です。
つまり、観光は「外から人を呼んで終わり」ではありません。観光によって地域の魅力が知られ、訪れる人が増え、その利益や交流が地域の暮らしや文化の維持につながり、住民自身も「このまちを大切にしたい」と思える。そして、その姿がまた次の世代に受け継がれていく。
私は、そんな循環こそが、これからの観光まちづくりには必要なのではないかと考えています。
南小国で見た「地域の誇り」の循環
ここで、最初に紹介した南小国の子どもたちの話に戻りたいと思います。
南小国では、幼い頃から地域の文化や食、自然に触れることで、子どもたちが自分たちのまちの魅力を知る機会がつくられています。
そして、町には「挑戦したい人を応援する」という風土があり、夢チャレンジ補助金をはじめ、起業や新しい挑戦を支える仕組みも用意されています。
子どもたちは、地域の魅力だけでなく、そこで何かに挑戦している大人たちの姿を見ることができます。
南小国には大学がなく、近隣の高校も少ないため、多くの子どもたちは進学を機に一度町を離れてしまいます。しかし、そこで終わりではないのです。
地域への誇りを持ったまま外へ出て、そこで「南小国ってこんなにいいところなんだ」と誰かに伝えることができます。
私は、この「町に残ることだけが地域への貢献ではない」という考え方が、とても印象に残りました。
町の外に出た人が南小国を自慢すれば、「南小国ってどんなところなんだろう」と興味を持つ人が生まれる。
そこから実際に南小国を訪れる人が増えれば、観光客や関係人口の増加にもつながるかもしれません。
さらに、その人自身が将来南小国に戻ってきて、新しい事業に挑戦することもあるかもしれません。
あるいは、町の外で暮らしながら、南小国の特産品を活用した商品を開発したり、地域の事業者と連携したり、伝統文化の継承を支援したりすることもできます。
つまり、「町を離れる=地域との関係が切れる」わけではないのです。
むしろ、地域への誇りを持った人が外へ羽ばたくことで、外から地域を見る新しい視点や人とのつながりを持ち帰ることができます。
そして、その人を通して、地域の魅力がさらに外へ広がっていきます。
そう考えると、「自分のまちを誇る」ということは、単なる精神的な愛着ではなく、人や情報、経済、文化を地域の内外につなぐ力にもなり得るのではないでしょうか。
これからの日本の地域が目指すべき姿
2週間の南小国でのインターンシップを通して、私は「持続可能な観光」とは、観光客を増やし続けることだけではないのだと改めて感じました。
そこに住む人が、自分たちのまちを大切に思えること。
そのまちで挑戦する大人の姿を、次の世代の子どもたちが見られること。
そして、たとえ町を離れても、その地域への誇りを持ち続け、外の世界でその魅力を語れること。
そうした人が増えていけば、地域の魅力を知る人が増え、訪れてみたいと思う人が生まれます。
さらに、その中から地域を支えたいと思う人や、実際に地域で挑戦する人が生まれるかもしれません。
それは、観光客を「消費者」として呼び込むだけではなく、もっと長期的な地域との関係をつくることにつながります。
もちろん、「誰もが自分の地元を愛すべきだ」というわけではありません。故郷との距離の取り方は、人それぞれでいい。
それでも、南小国で聞いた「町を離れても、きっと南小国のことを自慢してくれる」という言葉は、私にとって、これからの地域づくりを考えるうえで大切な問いを残してくれました。
誰もが自分の生まれた場所や暮らす場所を好きになる必要はないけれど、好きになった人が、その魅力を誰かに伝えられる社会であってほしい。
そして、その「好き」が人から人へ、地域から地域へと広がっていくことこそ、これからの日本の観光や地域づくりを支える力になるのではないでしょうか。
南小国で出会った「自分のまちを誇る」という考え方を、私はこれからも大切にしていきたいです。
