
【読書記録 -193】『上司をマネジメントする』ハーバード・ビジネス・レビュー 2026年9月号
「経営者の視点で考えろ」の違和感
ー 経営者の視点で考えろ ー
ビジネスの現場ではよく耳にする言葉だが、ボクにはこの言い回しに若干の違和感がある。
そもそも、経営者になったことのない人に、経営者の視点で考えることは難しい。しかも、経営者だって未来のことはわからない。不確実な状況の中で、投資や人員配置、事業の撤退などを判断している。ある意味、経営判断とは「賭け」のようなものだ。そして、オーナー経営者と雇われ経営者では、失敗したときに背負うものも違う。
では「経営者の視点」とはいったい何なのか。
『ハーバード・ビジネス・レビュー』2026年9月号の特集は「上司をマネジメントする」だ。

ボクはそんな問いを抱えながら、本号の特集を読み始めた。
社長の頭で考えろ
特集「上司をマネジメントする」の冒頭は、日本製鉄の会長兼CEO 橋本英二のインタビューからスタートする。
彼は1979年に新日本製鐵へ入社し、営業や海外事業などを経験した後、2019年に社長に就任した、いわゆる生え抜きの経営者だ。その橋本英二は、部下に対して「社長の頭で考えろ」と繰り返し伝えているんだそうだ。
インタビューを読み進めていくと、彼は「部分最適ではなく全体最適を考えろ」という表現をしている。つまり、彼が言わんとしていることは「自分の担当部門の利益だけを考えるのではなく、会社全体にとって何がよいのかを考えろ」ということなのだろう。
そもそも、全体最適とはなにか。
それは「会社の利益を最大化すること」とも言え、且つ「社員の雇用を守ること」と言えるかもしれない。だけど「顧客によりよい商品やサービスを提供すること」も忘れてはいけない。
これらは時として相反する。何をもって最適とするのかを決定する判断基準がなければ、全体最適など考えようがないのだ。
だから、橋本英二は「大義が必要」というのだろう。
上司もステークホルダーのひとり
ボクはそれを「企業理念」と置き換えたいと思う。
企業理念に基づいた判断基準のことを「大義」と呼ぶとするなら、いろいろ理解がしやすくなるような気がするからだ。
ジム・コリンズは、その著書『ビジョナリー・カンパニー』の中で、企業理念(書籍中では「基本理念」と表現されている)とは「自分たちが何者で、何のために存在し、何をやっているのかを明確に内外に宣言するもの」と説いている。
それであれば、オーナー経営者でも雇われ経営者でも、上司であっても部下であっても変わりはない。一社員が経営者と同じ情報や権限を持つことはできないが、企業理念を共有することはできるはずだ。
今回の特集には、ジョン・J・ガバロとジョン・P・コッターによる1980年の論文「上司をマネジメントする」も再録されている。彼らはその論文の中で「上司と部下は互いに依存する関係にあり、相手の目標や制約、仕事の進め方を理解する必要がある」ということを主張している。
つまりそれは、顧客や取引先との関係性に近い。
そう、上司をステークホルダーの一人と捉えてみると、この「上司をマネジメントする」の本質がすっきり見えてくる。
仕事には顧客や取引先、他部門、社員など、さまざまなステークホルダーが存在する。それぞれに異なる期待や利害があり、ときには衝突する。
上司もその一人なのだ。
ただし上司は、同じ「企業理念(基本理念)」を共有しているステークホルダーだ。上司の意向と会社の大義が衝突することもある。そのときに優先すべきなのは上司の機嫌ではなく、会社の大義であるべきだ。
だから、上司とうまく付き合おうとする必要はないのだ。
本号の特集である「上司をマネジメントする」とは、上司を自分に都合の良いように動かすことではなく、企業理念の実現に向けて「上司との関係をマネジメントすること」なのだろう。
参考リンク
Amazon:DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2026年9月号