
古い友人
古い友人の舞台を見に行った。
彼は若いころのアルバイト仲間だ。
当時、彼は駆け出しの舞台俳優であったが、某有名劇団で頭角を現していたと記憶している。今では自分で劇団を主宰して、都内の小劇場で年1回の定期公演を行っている。
ボクは毎年その公演を観に行くようにしている。
本人も出演するからだ。そして終演後に劇場のロビーで彼と少し会話して、握手して帰る。それだけだ。
よく考えてみると、彼の本業がなんなのかボクはよく知らない。おそらく彼の方も同じだろう。だから毎回「もう知り合って何年くらいになるかねえ」「お互い身体に気を付けような」くらいの会話しかしていない。
まあ、生存確認みたいなもんだ。
彼が定期公演を開催している限り、生活は順調なんだろうとボクは思う。逆に定期公演にボクが行く限り、彼はボクの生活が順調なんだと思うだろう。
― SNSで確認すれば早いのに ―
自分でもそう思う。
だけど、そんな関係性があってもいいような気がしている。
彼が取ってくれた席は、最後列の通路脇だった。
外は結構雨が降っていたが、会場は満員だ。
ボクは傘を畳み、持参したペットボトルの水を飲んだ。湿度は高いものの、気温がさほど高くないのが幸いだ。
開演と同時にボクの隣の通路のドアが開いた。
そこから彼が飛び出してきて、舞台へ駆けあがっていき、第一声を発する。今回はそんな演出だ。
彼がチラッとボクの方を見たような気がした。
ボクがそこに座っているかどうかを確認するように。