
信号機ぶどう味【毎週ショートショートnote】サムライ・スキャンダル外伝 『文章+マンガ』
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夜の稽古帰り、交差点の赤信号でユウトは足を止めた。
「なあフミヤ。赤って、何の味だと思う」
フミヤは竹刀袋を担ぎ直して、変な顔をした。「味? 信号に?」
「俺には味がするんだよ。子供の頃からずっと。赤は――ぶどう。それも、皮ごと噛んだときの、渋くて甘いやつ」
嘘だと笑われると思った。刃を突きつけ合う世界で、こんな柔らかい話は武器にならないから、誰にも言ったことがなかった。
けれどフミヤは笑わなかった。赤信号を見上げて、しばらく黙って、それから言った。
「じゃあ青は」
「マスカット。薄くて、すぐ消える。……青の間は、いつも急いで渡るから、味わう暇がないんだ」
信号が青に変わる。フミヤは歩き出さなかった。横断歩道の白線の手前で、腕を組んだまま突っ立っている。
「おい、青だぞ」
「味わってんだよ。お前の代わりに」
マスカット味の光の下で、フミヤの横顔は真剣だった。試合で喉元に刃を突きつけるときと、同じ目をしていた。勝負あり、の目だ。
――ずるい、とユウトは思った。そんな目で日常を斬りに来るのは、ルール違反だ。
青が点滅して、また赤に戻る。ぶどうの味が濃くなる。フミヤが意地悪に言い放つ
「いいのか?渋くて甘いやつだぜ」
ユウトが小さく「えっ!?あっ」と言うと、フミヤはようやく笑って、空いているほうの手を差し出した。
「次の青は、ゆっくり渡るぞ。二人ならマスカットも長持ちするだろ」
根拠なんてどこにもないんだけど。でもその手を取ったら、不思議と、渡り切るまで味は消えなかった。
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