
拝啓 気まぐれな猫へ
拝啓 気まぐれな猫へ
あなたは今日も、少し離れたところからこちらを見ていますね。
呼んでも来ないのに、呼んでいないと来る。
撫でようとすると去るのに、こちらが忙しいと近くに来る。
寝ようとした瞬間だけ、急に甘えたくなる。
人はこういうあなたを「気まぐれ」と呼びます。
でも最近、少し違うのではないかと思うようになりました。
あなたにも、あなたなりの予定があるのかもしれません。
朝はここで寝る。
昼は窓を見る。
夕方は少し甘える。
夜は走る。
ただ、その予定表が人間には共有されていない。
思えば人間だって、あなたから見れば相当気まぐれでしょう。
急に出かける。
休日はずっといる。
突然掃除を始める。
冷蔵庫を開けたのに、何も取らずに閉める。
最後のものについては、自分でも少し意味が分かっていません。
それでも人間は、自分の行動には理由があると思っています。
そして、理由の分からないあなたを見て、
「猫は気まぐれだねえ」
と言うのです。
ずいぶん勝手な話です。
今日もあなたが何を考えているのか、私は分かりません。
でも、全部分からないくらいでちょうどいいのかもしれません。
分からないままでも、あなたがそこにいてくれるだけで、部屋の空気は少しやわらかくなります。
こちらの都合ばかり押しつけて、撫でたい、そばにいてほしい、返事をしてほしいと願っているのは、たぶん私のほうです。
ですから明日も、予定は教えなくて結構です。
ただ、できれば私が忙しいときに限って近くに来るのだけ、少し控えていただけると助かります。
まあ、聞いてくれないと思いますが、聞いてくれないあなたのことを、私はきっと明日も好きでいるのでしょう。
どうかこれからも、気まぐれなままでいてください。
そしてたまには、何の用もなく、私のそばにいてください。
敬具
こちらの企画に参加させていただきました。