
普通じゃないの壁
アンティーク家具にオレンジ色のランプが揺らめく。大きな窓から見える芝生の庭は少し傾斜していて、中央のシンボルツリーが木陰を作る。
床はフローリングで、庭が見えるカウンター席と、4人掛けの長方形のテーブルが点在している。おおよそ普通の結婚式場の雰囲気とはかけ離れたそのレストランに来るカップルは皆、口を揃えてこう言う。
「普通の披露宴みたいなのは嫌なんです。」
望むところさWELCOME!
普通の披露宴に飽き飽きしていたのは私も同じだ。もっとこう、自由で個性的で楽しめる場を作るんだ!
ここは「人と同じなんて大嫌い」「普通って何?」という志向の人々が集うところだ。
カルチャーショック
新婦が友だちと肩を組んで踊っている。黄色いドレスの腰についた巨大なリボンが上下に飛び跳ねているのを見て「あのリボン大きすぎるな~」と思っていたら、そのドレスは新婦のお母さんお手製のものだった。七五三の子どものような手作りドレスを喜んで着て、楽しそうに踊り、生き生きと笑っている。
2000年代の初め。プロデュース事務所に入って最初について行った現場でカルチャーショックを受けた。式場育ちの私は、新婦のこんなに嬉々とした表情を見たのは初めてだった。
そうそう!これこれ!スイッチが入った私は、普通の披露宴アレルギーを発症し、披露宴ぽさを排除しようとした。
”普通の披露宴ぽいもの”って何だろう。
フォーマル感?スポットライト?キャンドルサービス?新郎新婦入場ですジャーン?主賓が知らない人?
『披露宴』てワード自体全部まとめて排除だ。
*
皆と同じはイヤだ、普通の披露宴はしたくないという新郎が、
「庭でスイカ割りをしたい!」と言った。
やりましょう、やりましょう!ただし割るっていうワードは支障があるんで『スイカ開き』ってことでひとつ。物言いがつくポイントは心得ている。割ってバラバラになるのではなく、開いて増えるのだ!笑
全員が外に出て、スイカ開きゲーム&デザートタイムを楽しんで、そのままの雰囲気で外でおひらきにしよう。
爽やかな緑の風吹くガーデンで花束贈呈し、新郎父の謝辞となった。
するとお父さんはスピーチの途中で言葉を詰まらせ、泣き出した。
息子の門出にさぞ感無量なんだろうと皆が思った次の瞬間、お父さんはこう言った。
「こんな結婚式で…すみません」
本当はもっと呼びたい人もたくさんいた、どんな式なのかも全然わからずに今日来たけれど…こんな…本当だったらもっとちゃんと失礼のないようにしたかった。不行届きで申し訳ありません。。。
悔し涙を流しながらそうスピーチしたのだった。
(思ってたんと違う…これが結婚式か?)
お父さんにとってカルチャーショックだったのかもしれない。
両家代表謝辞でダメ出しされたのは、後にも先にもこの1度だけだ。
スイカ開きの残骸が虚しく芝生に転がっていた。
普通じゃないの壁
私はその時初めて、新郎とお父さんの意思疎通がなされていなかったことを知った。
普通じゃない披露宴をするにあたっては、物言いがつかないよう、要所要所で家族へ聞いてみるよう促していたが、その新郎はいつも「大丈夫です」と言っていた。
昔の披露宴を取り巻く諸々を知っているからこそ、物言いがつきそうなポイントも分かる。型破りではあるけれど非常識レベルではない…はず。披露宴ぽさの一つ、『○○家 ○○家』という言い回しも排除していた私だが、親や家族をないがしろにしていい訳はない。
お父さんは地元の会社の社長で、新郎は跡取り息子だった。
お父さんの言い分も分かるし、抵抗したい新郎の気持ちも分かる。しかし「こんな結婚式」と言われたプランナーの気持ちも分かってお願い。泣
私はこの一件で『普通じゃないの壁』にぶち当たり、普通って楽しくはないが楽だったんだと思った。
*
初めての事をする時、やり直しがきかない大一番の時、人は安全パイを探る。思い入れや期待の大きさに関わらず、失敗しないようせめて普通であろうとすることはごく当然で自然な行為だ。
皆と同じはイヤ、自分らしくと言いつつも「普通はどうなんですか?」と聞かれることもしばしば。新郎新婦のピュアな質問を受けるたびに、壁のあっちとこっちを行ったり来たりする。
普通はブーケを持ちます。でも無くても気にならないと思います。
普通は黒は忌み色です。でも黒いドレス流行ってますもんね!
普通は水や緑茶は出しません。でもバーに準備しますね。
普通は友人は3万円です。でも会費15000円にしますか。
普通は家族は一番後ろの席です。でも近くで見たいですよね。
普通とは一般的という意味だ。不安な心の拠り所だ。
法律や宗教、文化やマナー、いろんな側面がある。アレンジの基準となるから知っておいて損はない。
普通を知るものこそが、普通じゃないを制するのだ。
*
あれから20年。
普通じゃないことも、皆がやっていればそのうち普通のことになる。
かつての型破りも今では「どっかで見たことある」ような既視感が嫌いな人にとってはいまいちピンとこないのである。
そろそろ、皆と同じ『自分らしく』に飽きた人たちが、一周まわって敢えてのTHE披露宴でケーキ入刀する頃合いだ。オリジナルな工夫も手作りアイテムもサプライズも何も起こらないという『普通じゃない』披露宴。すまし顔の高砂席で
「こんな結婚式ですみません」と言って舌を出すのだ。
Just the ”FUTSU” of Us(わしら普通なだけじゃ)
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