
モッコウバラが咲く頃|♪花の匂い
青い空、白い雲、そしてモッコウバラの黄色。
しあわせの黄色いアーチをくぐると、木漏れ日を縫うようにミツバチが飛び交う。
日に何度も裏庭をショートカットする。モッコウバラのアーチが黄色く色づく頃はハイシーズンで毎日忙しい。私もミツバチのように駆け足でくぐりぬける。
ある日、満開のモッコウバラを写真におさめようとスマホをかざしたら、うっかり落としてしまい画面が割れてしまった。バラはこんなに綺麗に咲いているのに、ついてないな~
しかし溜め息をつく前に、あとさきを入れ替えてみることにする。
スマホ落として画面割れたけど、モッコウバラのアーチは今日もきれいだった、と。
今日も一つ 悲しいことがあった
今日もまた一つ 嬉しいことがあった
そしてこれらの一つ一つを
柔らかく包んでくれた
数えきれないほど沢山の
平凡なことがあった
*
母の日が近づくと、花屋さんは大忙しだ。
母の日までの1週間はウェディングの打合せができませんと花屋さんに言われていた。レストランで使うアレンジも、いつもは配達してくれるけれど、きっと忙しいだろうと思いお店まで取りに行った。店主の彼女はいなかった。
お店はとても賑わっていて、スタッフさん達は忙しく働いていた。いつもみたいに雑談をしている暇はない。きっと彼女も裏で作業をしているのだろう。
「すがゆきさん、ごめんなさいね。」
オーダーしていたアレンジメントを受取り、早々に店を出た。
彼女を信頼してお任せする事20年、どんなリクエストにもイメージ通り、いや、それ以上に素敵なお花を作ってくれる唯一無二のスペシャリストだ。
一体いつ寝ているんだろう。
そう思うほど働き者の彼女は、ハリネズミが好きだと言っていた。
クルクルと動き回る愛らしいハリネズミにどこか似ていると思った。
*
母の日が終わり、その次のウェディングの時にも彼女の姿はなかった。その訳を知ったのは、しばらく後のことだった。
あの日、スマホを落として画面が割れた日、彼女はいなくなってしまった。もう二度と会えなくなってしまったのだった。

今年もまたモッコウバラが咲く。
ミツバチを目で追ってアーチの下を覗き込んだら、撮影をしている新郎新婦のうしろで忙しそうに手を動かしていたハリネズミがちょっとだけ顔を上げて、
「あら、すがゆきさん」とニコッと笑った。そんな気がした。
花の匂いに導かれて
淡い木漏れ日に手を伸ばしたら
その温もりに
あなたが手を繋いでいてくれているような気がした