
35年かけてあなたに帰る。【第二章】第五話|小さな家族の毎日
[第二章]第四話 | 父になるという喜び
私と正人の間にも、三人の子どもが生まれた。
慌ただしい毎日だったけれど、その忙しささえ愛おしかった。
泣いたり、笑ったり。
小さな成長に喜び、何気ない毎日に幸せを感じる。
子どもたちは、少しずつ大きくなっていった。
長男が四歳になった頃。
私たち家族に、大きな転機が訪れる。
正人の仕事の都合で、オーストラリアへ移住することになったのだ。
海外で暮らす。
その言葉は簡単でも、現実は想像以上に大きな決断だった。
言葉も文化も違う。
生活習慣も、人との関わり方も、日本とは違う世界。
大人の私でさえ、不安だった。
まして、小さな子どもたちにとっては、初めての言葉、初めての環境、初めての毎日。
この子たちは、新しい場所でどんな毎日を過ごすのだろう。
ちゃんと友達はできるだろうか。
寂しい思いをさせてしまわないだろうか。
考え始めると、不安は尽きなかった。
それでも、母親として決めたことがあった。
「何があっても、この子たちを守ろう。」
その想いだけは、揺らがなかった。
出発が決まると、私は六人の仲間にそのことを伝えた。
驚きながらも、みんな笑顔で送り出してくれた。
「寂しくなるね」
「でも、香澄なら大丈夫」
「いつでも帰っておいで」
「離れていても、ずっと友達だから」
その言葉が、どれほど心強かったことだろう。
空港で交わした「いってらっしゃい」は、涙で少し滲んでいた。

私は家族とともに、新しい国へ向かった。
八人で笑い合っていた日々から離れるのは、とても寂しかった。
けれど、それは別れではない。
それぞれが大切な人と、自分たちの人生を歩んでいくということ。
そう思うことにした。
飛行機の窓から、日本の景色が小さくなっていく。
私はその景色を見つめながら、心の中でそっとつぶやいた。
「また、みんなで笑える日が来ますように。」
その願いを胸に、私は新しい暮らしへの一歩を踏み出した。
バスで出会う人々 | TALES
バスに乗れば、いろいろな人に出会う。
主人公・加奈がバスの中で出会う人々の、小さな物語を綴っています。
毎週土曜日・日曜日の夜に、一話ずつ更新します。
公開したお話はマガジンにまとめていきますので、いつでも最初から読み返していただけます。
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