
【文フリ東京43】少女よ、その日の薔薇を摘め(試読用)
これは決して恋じゃない。
あの娘の過去がドス黒い
あの娘の未来がドス黒い。
あの娘の怨嗟がドス黒い。
あの娘の胸中がドス黒い。
あらゆるドス黒さを孕む、あの娘とあの娘のふたりだけ集めたアンソロジー。
文学フリマ東京43にて、ドス黒い百合を詰め合わせた大満足のアンソロジー「リスノワールズ」が頒布されます!
(本アンソロジーは、文フリ東京42が初頒布となります)
イベント詳細
🕙11/8(日) 12:00〜17:00開催
📍東京ビッグサイト
南3・4ホール【う-43〜44】
✒️イベント詳細→https://bunfree.net/event/tokyo43/
アンソロジーの詳細
🖤リスノワールズ
💍主催:善之新(敬称略)
🌑総勢60名超えの大ボリューム!
📓A5判 二段組
💴2,000円(セットで4,000円)
‼️本アンソロジーは、二冊に分かれて発行されています。‼️
【SIDE:Lys】
……切ない青春や百合要素強め作品収録
【SIDE:Noir】
……ホラーやサスペンス中心に作品収録
各本一冊からお買い求め可能ですが、表紙の百合カプをならべて飾るのも大変おすすめです🥰
またセット売りで通販もされているそうです。
わたしの寄稿作は、今を生きている親友相手に一人相撲をとりながら、香りで青春を取り戻そうとする調香師のお話です。
(SIDE:Lysに収録されています!)
その名も……
少女よ、その日の薔薇を摘め
※各サンプルは趣旨を損なわない形で、文章構成の一部を変更しています。
【横書きサンプル】
突き刺すような悪臭に、嗇微(しきび)スミレの顔が歪む。
眼前にある試香紙からは、腐ったミルクと甘すぎる死の匂いが染み出していた。
死肉の腐敗臭(カダベリン)を、香水に用いるのは難しい。
調香師の繊細な嗅覚を潰さんばかりの個性があり、いくら薄めても調和が図れない。
ため息とともに、スミレは試香紙を捨てた。
せっかく取り寄せた香料だが、今のスミレには早すぎる素材だった。
「どうしたものかなぁ……」
スミレは珍しく、気弱につぶやいた。
とっくに冷めたコーヒーをすするも、慰めにはならなかった。
嗇微スミレは、天才調香師である。
通常の調香師は三年ほどかけて香りと向き合い、ようやく一本の香水を完成させる。
しかしスミレの嗅覚は鋭敏かつ貪欲だった。
彼女は、たった一年で香水を完成させることができた。
スミレが送り出した作品は、挑戦的な香りでも必ず世間に受け入れられた。
今回の作品も、そうなるはずだった。
「はぁ~……」
ご覧の通り、彼女はスランプの只中にあった。
香りの構想は、完成している。表現したいものも明確だった。
しかし実際は、和音(アコード)には至らない、お粗末な試作品ばかりが量産されていく。
やる気を失し、スミレが香料を片付け始めた時だった。身につけているスマートウォッチから、リマインダーが届いた。
『光莉(ひかり)に会う』
たった一文で、スミレの心は生き返った。
~~Collige, virgo, rosas~~
「まあ、あっという間だよね。こんな愚痴を言ってても、すぐ恋人ができて、結婚とか子どもができたとかさ」
光莉の言葉は、真実味を帯びていた。うなずきながら、スミレは答える。
「子どもの成長って、本当に早いわよね」
スミレの胸中には、光莉との日々がよぎっていた。
いつも想っている少女時代よりも、少し後―中学時代の記憶である。
交換したシーブリーズの蓋からただよう、清らかでフレッシュな香り。
二人乗りした自転車が、わだちに乗りあげた時の衝撃。
そのせいで、教科書もカバンもシーブリーズの匂いに染まったこと。
寂しげにつくろった笑みにも気づかず、光莉も笑う。
「ほんと、子ども育ててるとあっという間だよ。年々、時間が経つのが早く感じちゃう」
「そうね。もっと大切に、子どもの頃を過ごせばよかったって思ってる」
光莉の相槌は、軽率な同調を帯びていた。スミレは、その愚かしさに救われていた。
もう戻らない日々の切なさに、スミレの鼻腔がツンと痛む。
――中学生の少女は、いわば青春の生前式だ。高校生は晩年で、いよいよ大人にならざるをえない、仏花の頃。
残酷な時の残り香を、スミレはコーヒーでリセットする。
「……――夕飯、食べていけばいいのに」
玄関で靴を履くスミレに、光莉は残念そうに言った。
時刻は、十九時過ぎ。スミレは振り返らず、応答する。
「いいの、まだ仕事が残ってるから」
「……無理しないでよね。アレだったら、お茶の回数減らしてもいいんだから」「それはダメ」
履き心地を確かめるように、スミレは踵を鳴らす。ようやく光莉と向き合い、彼女は言う。
「新作が出来たら、また着けてくれる?」
「いいけど、『いい匂い』以外の感想は出せないよ?」
「うん。それで充分だから」
スミレは、光莉に別れを告げた。次の第三火曜日を迎えるまで。
引き続きスミレは、少女時代を蒸留する使命があった。
【縦書きサンプル】




ご興味が湧いた方は、ぜひぜひ南3・4ホール【う-43〜44】へお立ち寄りください☺️✨