メインコンテンツへスキップ
見出し画像

おとぎ話症候群|毎週ショートショートnote

    「猫と会話できるようになりました」
    「恋人ができました。幽霊ですけど」
    「宇宙人にさらわれました」

     最近、ウチの病院には、こんな人達ばかり来る。

     ――おとぎ話症候群。

     そう呼ばれている。どう考えても単なる妄想なのだが、表現の自由とか、個人の考え方の尊重とかで、「おとぎ話症候群」という、やんわりした呼び方をしなければならなくなった。変な世の中だ。

    「次の方、どうぞ」

     リクルートスーツがよく似合う、若い女性だ。かなりしっかりした印象を受ける。

    「どうしましたか? 何か困りごとでも?」
    「親友に彼氏を寝取られて、頭にきたから、殺して山に埋めたんです」
    「なるほど。まぁ、頭の中で殺す分には、犯罪にはなりませんからね」
    「いえ、ナイフでめった刺しにしたんですよ。アメリカ軍のネイビーシールズが使っている、セラミック製のサバイバルナイフで」

     背筋を伸ばし、笑顔でハキハキと喋る姿は、就職面接を彷彿とさせる。反応に困っている私をよそに、女性は続ける。

    「でも、結局死体が見つかっちゃったんですよ。そしたら、全然知らない人が捕まっちゃって。冤罪って、こうやって起こるんだなぁって」

    「そうですか。少々お待ちください」

     私は診察室を出て、隣の部屋のパソコンで事件を調べた。

    「奥秩父おくちちぶの国師岳こくしだけで女性の他殺体……これか」

    ――ん?

     被害者女性の顔写真を見た瞬間、私は固まった。

     まさに今、そこにいる女性……。

     ――どういうことだ?

     急いで診察室に戻ると、もう女性の姿はなかった。

    「キャー!」

     振り返ると、看護師が私を見ながら腰を抜かしている。

    「おい! 何事だ!」

     ――あれ?

     私の手には、血が付いた大きなナイフが握られていた。

    (了)


    たらはかにさんの企画「毎週ショートショートnote」に参加しています。
    今週のお題は「おとぎ話診療所」です。


    こちらもどうぞ。


    テーマ「創作」でCONGRATULATIONSを頂きました!

    画像

    この記事が参加している募集

     
     
    現代ドラマの掌編、短編小説をメインに投稿中。 たまにピアノで西村由紀江さんとジョージ・ウィンストンと日吉真澄さんの曲を弾きます。 ソリスピア第6回超短編小説祭入選。 第1回文苑堂54字の物語コンテスト最優秀賞&特別賞。 第12回自作小説の一節コンテスト最優秀賞。

    あなたへのおすすめ