メインコンテンツへスキップ
見出し画像

忘年怪異|毎週ショートショートnote

    「カミさんに帰るコールしないと……」
    「裸で待ってろって?」
    「元気っすねぇ」
    「ギャハハハ!」

     泥酔した同僚と先輩の下品な笑い声が車の中に響き渡り、俺の鼓膜が悲鳴を上げていた。
     今日は会社の忘年会だった。ド田舎なので、わざわざ山をひとつ越えて隣町の居酒屋に行かなければならず、順番で運転係を担当するのだが、今回は俺だった。運転代とガソリン代として3000円もらえるし、別に運転はいいのだが、自分の車に猿どもを乗せるのが心底嫌だ。俺にとって3000円は迷惑料に他ならない。

     ――明日、車内を掃除しよう。

     心の中で決意する。

    「あれー? 道間違えてない?」
    「合ってますよ? 来た時と同じ道です」
    「ホントにー?」
    「一本道ですから、間違えようがありませんよ」

     呂律の回ってない助手席の猿を刺激しないように、慎重に言葉を選ぶ。騒ぐのは良いとしても、絡まれると厄介だ。

    「あと20分くらいですから、もう少し我慢してください」
    「えー! 我慢できなーい! 近道ないのー?」

     これ以上喋ると、間違いなく暴言を吐いてしまう。俺は歯を食いしばった。

     ――ん?

     突然、車の中から音が消えた。うるさいのは嫌だが、突然訪れた静寂に驚く。

    「あれ? どうかしました?」

     助手席の先輩を見ると、糸が切れた人形のように、だらんとシートにもたれかかっていた。ただ、目は開いている。ルームミラーで後部座席の3人を見ても、同じような感じだ。

    「ちょっと! ふざけてるんですか?」

     叫んだが、全員無反応。

     ――落ち着け、俺……。

     俺は自分にそう言い聞かせてハンドルを握る。知っている道とは言え、真っ暗な山道だ。気を抜くと間違いなく事故を起こす。

    「うー……うー……」

     助手席の先輩が唸り始めた。

    「しっかりしてくださいよ! このバカ! アホ! ヘンタイ!」

     怒鳴っても、先輩はただ「うー……」と繰り返すばかり。

     ――これはいよいよヤバくなってきた。

    「ふざけんなコラッ! 一体何しに来た!? 負けねーぞチクショウめ!」

     恐怖心を吹き飛ばすため、ひたすら叫ぶ。こういう時は、気持ちで負けたら終わりだ。そして、短いトンネルを抜けた瞬間……。

    「あ、コンビニ寄って」
    「やっと戻って来ましたか。勘弁してくださいよ……」

     みんなはさっきの数分間を全く覚えていない様子だったが、俺はあえて黙っておいた。

     先輩が車から降りて、ドアを閉める瞬間に言った。

    「運の良い奴だ」

    (了)


    たらはかにさんの企画「毎週ショートショートnote」に参加しています。
    今週のお題は「忘年怪異」です。

    個人的に、会社の忘新年会なんてゴミだと思っています。はい。
    私の仕事は物流関係で24時間365日稼働しているので、会社行事というものはほとんどありません。
    会社行事が大大大嫌いな私にとって、この点は助かっていますね。

    ちなみにこの話は、北海道のとある町役場に勤務する友人の実体験をもとにしています。
    その友人も私と同様に霊感というものはなく、これまで怖い目に遭ったことは皆無だったそうですが、この出来事以降、身の回りで不思議なことがちょくちょく起こるそうな。
    凄いのは、友人が平然と「もう慣れた」と言っていること。
    人間の適応能力って凄いんですねぇ。


    こちらもどうぞ。

    この記事が参加している募集

     
     
    現代ドラマの掌編、短編小説をメインに投稿中。 たまにピアノで西村由紀江さんとジョージ・ウィンストンと日吉真澄さんの曲を弾きます。 ソリスピア第6回超短編小説祭入選。 第1回文苑堂54字の物語コンテスト最優秀賞&特別賞。 第12回自作小説の一節コンテスト最優秀賞。

    あなたへのおすすめ