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「戦争トラウマ」の行く先とは。僧侶が読み解く映画「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」

    「仏教と関わりがある映画」や「深読みすれば仏教的な動画」などを『仏教シネマ』と称して取り上げていくコラム「松本智量のようこそ、仏教シネマへ」。気軽にお読みください。
     
    第127回
    塚本晋也監督 2026年日本作品

     
    なぜか当初の予定から上映館が大きく減らされての上映中ですが、どこも満席が続いています。上映館が増えることを期待します。

    実在した元兵士の体験をほぼ忠実に作品化したものです。日本でも近年になってやっと認識が広まってきた「戦争トラウマ」が、当人のみならず、家族を苦しめ、世代を超えて連鎖しかねない事実を伝えます。

    アフリカ系アメリカ人のアレン・ネルソンは、18歳で海兵隊に入隊します。それが差別と貧困から抜け出す道と考えたからですが、送り込まれたベトナムの体験は、ネルソンの精神を破壊します。

    除隊して帰国後もPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しむネルソンはカウンセリングを受けますが、なかなか症状は改善しません。カウンセラーを何人も替えた後に出会った精神科医・ダニエルズは、ネルソンの体験をただただ傾聴したのち、決まって最後にこう訊ねます。

    「ネルソンさん、あなたはなぜ殺したのですか?」

    命令されたから。殺さなければこちらが殺されてしまうから。それが戦争というものなんだ。同じ質問に対して激高しながら同じ答えを返すネルソン。それが数年に及びます。しかしやがて、ネルソンの内側の何かが変わっていきます。

    私はこのやりとりが、親鸞聖人が著した『教行信証』の中の、阿闍世王と耆婆大医との対話に重なって見えました。父を殺した罪に苦しむ阿闍世に対して耆婆は、他の者がしてきたような慰めも説得もしませんでした。その耆婆の導きで阿闍世は救われていきます。ではネルソンは救われるのか。はい。ただしそれは「楽」ではない形で。その意味は劇場でご確認ください。
     
    松本 智量(まつもと ちりょう)
    1960年、東京生まれ。龍谷大学文学部卒業。浄土真宗本願寺派延立寺前住職、本願寺派布教使。自死・自殺に向き合う僧侶の会事務局長。認定NPO法人アーユス仏教国際協力ネットワーク理事長。

    ※本記事は『築地本願寺新報』掲載の記事を転載したものです。本誌やバックナンバーをご覧になりたい方はこちらからどうぞ。

     
     
    東京・築地にある築地本願寺(浄土真宗本願寺派)の発行する「築地本願寺新報」の公式noteです。築地本願寺新報の掲載記事や取材の裏話、築地や仏教、宗教にまつわるコラムやインタビューなどを掲載していきます。

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