
【連載】地理と鉄道 第7回 旅行に行けなくても地図がある! 地形図で旅する日本一○○な駅
文・写真=小林知之
「旅行に行きたい」。
40歳を過ぎるとその思いは加速します。
20代のときほどはっちゃけるわけでもなく、30代のときほど自分にご褒美をあげたいわけじゃない。ただ電車に乗ってできれば遠くに、遠くじゃなくてもせめて県外に、どうしてもっていうならとなり町でもいい。とにかく今いる場所から少しでも離れた場所で、日常から脱したいのだ。そう、旅行とは日常からの逃避なんだ。
どうも、いきなりこじらせ40代のこばやしです。
本音を言うと、おいしいものも食べたいし、素敵な景色も見たいし、ちょっといい旅館で源泉かけ流しの温泉に入ってクラフトビールを飲んで、地酒に合うお土産を買って帰りたいですよ。
でも、そんな旅行はなかなかできないじゃないですか。
忙しさもあるでしょうけど、お金もそんなに使えないし、家族で行くのとはちょっと違うし、ひとり旅は最初の一歩が出ないけど、誘う相手を探すのもおっくうだし、そもそもそんな相手はいないし。
ダメ! そんなネガティブになっちゃ! ということで、時間もお金も手間もかからずに行ける旅行を紹介したいと思います。
みんな、地形図で旅してみないかい?
PCを開けばすぐに現地! オンライン上の地図なら無料! ひとり旅も怖くない!
というわけで今回は、地形図旅行に行ってみましょう。

日本一高低差のある駅 JR上越線「土合駅」
せっかく旅するなら、日本一の場所に行ってみたいと思いました。
でも、調べた年代や、「いやいや、こっちのほうが日本一だろー」という場所もあると思いますので、こばやし的日本一とさせてください。
初日に訪れたのは、群馬県利根郡みなかみ町湯桧曽にある、日本一高低差のある駅、JR上越線「土合駅」です。
噂では聞いていました。ものすごい高低差がある駅が存在すると。地上の駅舎から下りのホームまで486段の階段を下る。その標高差は80m以上。
地形図で訪れてみて、びっくりしましたよ。駅と駅をつなぐトンネルのように、階段が描かれています。これを表現するのは大変だったろうなと、地下と地上を結ぶ階段を地図上に描こうと思うと、こうなるのかと。地上に出れば、きれいな湯檜曽川を眺めることができます。
そして、地形図旅行ならではの驚きが! 上越線と並行して通っている国道291号には、なんと点線国道があります。これは車両通行不能の区間なのです。どれだけ険しい場所なのかがわかります。
実際には10分かかる階段を想像しながら、次の駅へ向かいます。

日本一断崖絶壁にある駅 JR飯田線「田本駅」
次に訪ねたのは、長野県下伊那郡泰阜村田本にある、日本一断崖絶壁にある駅、JR飯田線「田本駅」です。
トンネルを抜けたら駅、そしてトンネル。目の前には天竜川が流れています。この天竜川が削った崖がそびえ立っています。この崖を登山道のように登っていくと、学校や民家があります。そして畑と神社。天竜川がつくり出した絶壁を目の当たりにしながら、しばしゆっくりとした時間を過ごしました。

日本一湖を堪能できる駅 大井川鐵道井川線「奥大井湖上駅」
続いて訪れたのは、静岡県榛原郡川根本町梅地にある、日本一湖を堪能できる駅、大井川鐵道井川線「奥大井湖上駅」です。
こちらはトンネルを抜けたら、もう目の前は湖。蛇行するダム湖に突き出た半島の先端に駅があります。湖の上にぽつんと駅が存在している、まさに絶景でしょう。これは特に用事がなくとも、この景色を見るために降り立つ意味があると思います。
なぜこのような場所に駅ができたのでしょうか?
長島ダムの建設により、もともとあった井川線の線路の一部がダム湖に沈むことになりました。そこで水没を避けるため、残った山の尾根の先端部分に新しい駅として1990年に開業することになりました。なので、生活のための駅ではなく、ダム建設によって生まれた駅なのです。それが功を奏して、いまでは絶景の秘境駅として人気を集めることになりました。もう1度訪れたくなる駅です。

日本一乗車人数の少ない駅 JR北海道室蘭本線「小幌駅」
続いて訪れたのは、北海道虻田郡豊浦町字礼文華にある、日本一乗車数の少ない駅、JR北海道室蘭本線「小幌駅」です。
こちらもトンネルを抜けたら駅で、またトンネル。息継ぎのために地上に出てきているような場所です。駅の長さは約80m。見たところ道路もないので、車で来ることはできません。切り取った地図上には民家もありません。あるのは岩屋観音のみ。
では、なぜこの駅ができたのか?
それは、開業したルーツに列車交換施設「信号場」があったから。そして、信号を扱う職員さんや、当時わずかにいたという住民のために駅になったそうです。でも現在は周囲に住んでいる人もいないため、乗車数の少ない秘境駅となっているのです。
ちなみに地図を見てみると、駅を突き刺すように点線があります。これは町の境界線で、小幌駅は豊浦町と長万部町の町境に位置しているのです。この短い駅が町境になっているなんて、おもしろいです。

日本一蛇行している区間 JR磐越西線「広田駅から更科信号場」
最後に訪れたのは、福島県会津若松市河東町広田字中島戊にある、日本一蛇行している区間、磐越西線「広田駅~更科信号場」です。
こちらは駅ではないですし、実際に乗車したことがあるので、番外編なのですが紹介します。
鉄道はできるだけ真っすぐつくりたい。そう聞きました。それがどうでしょう。広田駅から更科信号場までの区間は、幾度となくぐねっと曲がっています。こちらは一見、高低差があまりないように見えますが、およそ320mもの高低差があります。これを直線で一気に登っていくのは難しいので、蛇行しているのです。
この蛇行は、地図で見ると絶景です。
今回はなかなか旅行に行けないので、地形図で旅行をしてみました。使った地図は、国土地理院の地理院地図です。みなさんも気軽に使うことができるので、ぜひぜひ活用してみてください。等高線が描かれている地形図で見ると、また気分も違ってきます。
今回紹介した場所以外にも、地図で訪ねると楽しい駅や路線がたくさんあると思いますので、みなさんのおすすめを教えてもらえるとうれしいです!
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小林 知之(こばやし ともゆき)
1980年11月13日生まれ東京都出身。太田プロ所属。芸人/構成作家。大学で地理学を学び、高校社会の教職免許と地図地理検定資格を持つ異色の地図/地理芸人。 アウトドア雑誌「ランドネ」(エイ出版)で地図コラム「机上トレッキング」を好評連載中。2021年「いつの間にか覚えてる! 世界の国が好きになる国旗図鑑」刊行。構成作家としてNHK「レジェンドの目撃者」「笑ったび」等担当するほか、地図会社の東京カートグラフィックで広報も担当。
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