
ベンチャーファイナンスの全体像|シードからIPOまでの地図 #01
こんにちは!
株式会社T&Aフィナンシャルマネジメント代表の齋藤高広です。
今回から、新連載「CFOがいない会社のためのベンチャーファイナンスの歩き方」をスタートします。
全20回、どうぞよろしくお願いいたします。
【はじめての資金調達さくせん会議】
【プレシリーズA~シリーズAの資金調さくせん会議】
今回のテーマ
第1回となる今回は、まずこの連載を始めた理由と、連載を通じて目指すゴールをお伝えします。
そのうえで、シードからIPOまでのベンチャーファイナンスの全体像を、1枚の「地図」として整理します。
地図があれば、自社がいまどこにいて、次にどこへ向かうのか、そのために何を準備すべきかが見えてきます。
資金調達の細かなテクニックに入る前に、まずは全体を見渡すところから始めましょう。
なぜこの連載を始めたのか
多くのベンチャー企業では、創業から数年間、CFOがいません。
社長がプロダクト開発や採用、営業を進めながら、資金調達や資金繰りといった財務も一人で抱えている。
限られた人数で走るベンチャーにとって、それ自体はごく自然なことです。
ただ、財務には「知らなかった」では取り返しがつかない判断があります。
やり直しがきかない失敗
ベンチャー企業の資金調達では、次のような失敗が繰り返し起きています。
最初の資金調達で株式を出しすぎて、次のラウンドで身動きがとれなくなる
事業計画、資本政策、ピッチブックがバラバラで、投資家に数字の根拠を説明しきれない
出資だけで資金を集め、融資を組み合わせていれば手放さずに済んだ株式まで渡してしまう
調達したあとの資金管理が追いつかず、PMF(プロダクト・マーケット・フィット)の前に資金が尽きる
なかでも資本政策は、一度株式を渡してしまうと、後から修正することが非常に難しいものです。
最初の調達をどう設計したかが、次のラウンド、さらにはIPOまで影響し続けます。
こうした失敗の多くは、能力の問題ではありません。
最初に「全体像」を知っていれば避けられたものがほとんどです。

「出す側」と「受ける側」の両方を見てきた
私はこれまで、メガバンクで融資に携わり、東証プライム上場企業ではCVCの責任者としてベンチャー企業へのエクイティ投資を担当してきました。
いわば「お金を出す側」です。
一方で、同じ上場企業では管理部門を管掌する執行役員として、投資家や金融機関と向き合う「お金を受ける側」も経験しました。
M&AやIRのコンサルティングにも携わってきました。
出す側に立つと、事業の中身と同じくらい「その会社が自社の数字を自分の言葉で語れるかどうか」を見ていることに気づきます。
そして受ける側に立つと、それを社内で整えることがいかに大変かもよくわかります。
この連載では、その両方の視点から、CFOがいないベンチャー企業の経営者に向けて、ファイナンスの「考え方」と「準備の仕方」をお伝えしていきます。
この連載のゴール
この連載のゴールをひとことで言えば、「CFOがいなくても、CFOの視点を持てる経営者になる」ことです。
全20回を読み終えたとき、次の3つができる状態を目指します。
自社のステージに合わせて、いつ・誰から・どのように資金を調達するかを、自分で考えられる
事業計画・資本政策・ピッチブックの「3点セット」を作り込み、投資家や銀行に自分の言葉で説明できる
調達した資金をきちんと管理し、次のラウンドやIPOにつなげられる
CFOを採用するまでの間も、財務を「なんとなく」ではなく「設計して」進められるようにすること。
そして将来CFOを迎えたときに、対等に議論できる土台をつくっておくこと。それがこの連載の役割です。

シードからIPOまでの地図
ここからが本題です。
ベンチャーファイナンスの全体像は、「ステージ」「調達手段」「調達と管理のサイクル」、そしてそれらをつなぐ「3点セット」の4つで整理できます。
① ステージの地図:会社の成長段階ごとに、求められるものが変わる
ベンチャー企業の資金調達は、会社の成長段階に合わせて、いくつかの「ラウンド」に分けて行うのが一般的です。
プレシード:アイデアの検証からプロダクト開発の初期段階。資金の出し手は、創業者自身の資金、エンジェル投資家、創業融資などが中心です。投資家が見ているのは、主に「人」と「解こうとしている課題」です。
シード:プロダクトが形になり、初期の顧客の反応を確かめながらPMFを目指す段階。エンジェル投資家やシード期に特化したVCが主な出し手です。
シリーズA:PMFの手応えが見え、事業を伸ばす仕組みをつくる段階。VCが本格的に参加し、事業計画の数字の根拠が厳しく問われるようになります。
シリーズB以降:事業と組織を拡大していく段階。調達額が大きくなり、CVCや事業会社、レイター期の投資家も加わります。管理体制やガバナンスも見られるようになります。
IPO:株式を上場し、不特定多数の投資家から資金を集める段階。予実管理や内部統制、適時開示など、上場企業としての体制が求められます。
なお、ラウンドの呼び方や区切り方は、会社や投資家によって少しずつ異なります。
大切なのは名前ではなく、ステージが進むほど、投資家の見るものが「夢」から「数字」へ、「人」から「仕組み」へと移っていくという流れです。
各ステージで投資家が何を求めるのかは、次回くわしく解説します。
② 調達手段の地図:エクイティだけがベンチャーファイナンスではない
資金を集める方法は、大きく分けると次の3つです。
エクイティ(出資):株式を渡して資金を得る方法です。返済の必要はありませんが、創業者の持株比率が下がります。普通株式のほか、種類株式やJ-KISSといった手段があります。
デット(融資):金融機関などから資金を借りる方法です。返済が必要ですが、株式は渡さないため持株比率は下がりません。日本政策金融公庫の創業融資、自治体と信用保証協会が関わる制度融資、ベンチャーデットなどがあります。
その他:補助金・助成金やクラウドファンディングなど、株式も借入も伴わない方法です。
「ベンチャーの資金調達=VCからの出資」と考えられがちですが、エクイティとデットを組み合わせることで、手放す株式を必要以上に増やさずに済む場合があります。
それぞれの手段の使い分けは、第9回から第11回で、銀行からの調達は第18回と第19回でくわしく扱います。
③ 調達と管理のサイクル:調達はゴールではなくスタート
資金調達は、着金した瞬間がゴールではありません。
むしろ、そこからがスタートです。
事業計画にもとづいて、必要な資金を調達する
計画どおりに資金を使い、ランウェイ(資金が尽きるまでの残り期間)を管理する
予実管理で、計画と実績のずれを検証し、打ち手を修正する
積み上げた実績を武器に、次のラウンドの調達に臨む
このサイクルがうまく回っている会社は、次の調達で「計画を立て、そのとおりに実行できる会社」として評価されます。
逆に、調達後の管理がおろそかだと、資金が尽きかけてから慌てて次の調達に動くことになり、不利な条件をのまざるを得なくなります。
資金管理については、第12回と第13回で解説します。
④ すべてをつなぐ「3点セット」
そして、この地図のどこにいても土台になるのが、この連載で最も力を入れてお伝えしたい「3点セット」です。
事業計画:会社がどこへ向かい、どのように稼いでいくのかを示す設計図
資本政策:誰がどれだけの株式を持つのかを、上場までを見据えて設計した計画
ピッチブック:事業計画と資本政策を、投資家に伝わるストーリーにまとめた資料
この3つは、別々に作るものではありません。
事業計画の数字が必要な資金の額を決め、必要な資金と企業価値の評価が資本政策を決め、それらを一貫したストーリーとして伝えるのがピッチブックです。
どれか1つでも食い違っていると、投資家や銀行はすぐにそのずれに気づき、全体の信頼性が崩れてしまいます。
3点セットの考え方と、それぞれの作り方は、第3回から第8回で集中的に解説します。
この連載の歩き方
全20回は、次の8部で構成しています。
第1部 全体像をつかむ(第1〜2回):ベンチャーファイナンスの全体像と、ラウンドごとの資金調達
第2部 資金調達の「3点セット」を作り込む(第3〜8回):事業計画・資本政策・ピッチブックの作り方と、3つの整合性チェック
第3部 調達方法を選ぶ(第9〜11回):エクイティ、デット、J-KISS、補助金などの使い分けと、調達先の選び方
第4部 資金を管理する(第12〜13回):ランウェイ、資金繰り表、予実管理
第5部 バリュエーションを理解する(第14〜15回):企業価値の考え方と、高すぎるバリュエーションの落とし穴
第6部 投資家と交渉する(第16〜17回):面談からデューデリジェンス、タームシートと投資契約まで
第7部 銀行から調達する(第18〜19回):創業融資・制度融資と、銀行が見ているポイント
第8部 総仕上げ(第20回):IPOに向けたファイナンス
順番に読んでいただくのがいちばんですが、いまの状況に合わせて、次のように読み進めていただくこともできます。
はじめての資金調達を考えている方:第1部から順番に。特に第2部の3点セットは、資料を作り始める前に読んでおくことをおすすめします。
次のラウンドを控えている方:第2部の3点セットで手元の資料を点検し、第5部のバリュエーション、第6部の投資家交渉へ。
銀行からの融資を検討している方:第7部から。あわせて第4部の資金管理も読んでおくと、銀行との対話がスムーズになります。
まとめ
今回のポイントは、次の3つです。
多くのベンチャー企業はCFOが不在で、社長が財務を兼務している。しかし資本政策をはじめ、財務にはやり直しのきかない判断がある
「ステージ」「調達手段」「調達と管理のサイクル」という地図を持つことで、自社の現在地と次の一手が見えてくる
地図のどこにいても土台になるのが、事業計画・資本政策・ピッチブックの「3点セット」である
この連載を通じて、CFOがいなくても、CFOの視点で資金調達と経営管理を設計できる経営者を一人でも増やしていきたいと考えています。
次回予告
次回は「ラウンドごとの資金調達:各ステージで投資家は何を求めるのか」です。
今回の地図のうち「ステージ」を掘り下げ、プレシードからシリーズB以降まで、投資家がそれぞれの段階で何を見て判断しているのかを、出資する側の視点から解説します。
お問い合わせ・ご相談について
「はじめての資金調達、何から準備すればいいのかわからない」「次のラウンドに向けて、3点セットをきちんと作り込みたい」とお考えの経営者様へ。
弊社、株式会社T&Aフィナンシャルマネジメントでは、CFOがいないベンチャー企業の「財務部門」として、資金調達の設計から、事業計画・資本政策・ピッチブックの「3点セット」の作成、調達後の資金管理・予実管理の体制づくりまでを伴走支援する「社外CFO」サービスを提供しております。
銀行、投資する側、上場企業の管理部門という3つの立場を経験してきた視点から、投資家と金融機関の双方に「この会社なら応援したい」と思っていただける状態を、貴社の中に一緒につくります。
この連載でお伝えしてきた内容を、貴社の実情に合わせて、一つずつ形にしていくのが私たちの仕事です。
また、資金調達を控えたベンチャー企業様向けに、1社限定・参加費無料の「資金調達さくせん会議」をご用意しています。
セミナー60分と個別相談30分の計90分で、エクイティ×デットを組み合わせた調達の設計図と、調達後18か月の勝ち筋を一緒に描きます。
▶ はじめての資金調達をお考えの方へ
「はじめての資金調達さくせん会議」
はじめての資金調達は、やり直しがききません。
デットとエクイティの違いやバリュエーションといった基本用語からやさしく解説し、PMFに向けた最初の一手を一緒に設計します。
3点セットを作り始める前の段階でのご相談がおすすめです。
▶ 2回目以降の資金調達をお考えの方へ
「プレシリーズA~シリーズAの資金調達さくせん会議」
前回の調達は乗り切ったものの、次のラウンドの準備に不安がある方に向けた内容です。
お手元の3点セットを事前にご共有いただければ、資料同士の整合性や数字の根拠まで踏み込んでご相談に乗ります。
いずれもオンラインで、ご都合のよい日時をお選びいただけます。
「まだ資料が何もない」という段階でも構いません。
私たちは、ベンチャー企業の経営者様のいちばん近くで、同じ目線に立って考える「社外のCFO」でありたいと考えています。
「こんなことを聞いてもいいのだろうか」という小さな疑問で構いません。
資金調達や資金繰り、資本政策に関するご相談がございましたら、いつでもお気軽にお問い合わせください。
ご連絡を心よりお待ちしております。