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昭和、渋谷で、恋をしたり 2-4|歩け!メロス

    前回のあらすじ(2-3)
    決死の思いで告白するが、あっさりと振られた泰輔。意気消沈して座り込んでいるうちに終電を逃してしまう。それからタクシーの列を見つけ、衝動的に乗ってしまうのだが、タクシーの運転手からは乗車拒否されそうに…
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    歩け、メロス!


    「う〜ん、走るしかないかな」

    私は真面目に考え抜いた答えだったが、運転手は笑い声を上げた。

    おそらく50代くらいの、話し好きな個人タクシーの運転手だったこともあり、ついさっき告白して振られたことまで話してしまった。
    すると、「しょうがねぇな」と、2千円で国立から3つ手前の武蔵小金井駅まで乗せてくれることになったのだ。

    深夜の武蔵小金井駅のロータリーで2千円を渡すと、財布にはタバコ一箱分の小銭しか残っていなかった。時計はまもなく2時になろうとしていた。

    「ありがとうございました」

    「おお、走れメロス!」

    タクシーが停車場から走り出すのを見送ると、私は線路だけを頼りに、国立方面へ向かって走り出した。

    運動だけは本当に苦手だった。こと長距離走は高校の時のスポーツテストでも学年で最下位争いを繰り広げるようなタイプだった。

    そのうえ不案内な土地を深夜に迷いながら走ったのだ。いや、正確には歩いていた。足はすぐに棒になり、ジュースを1本だけ自販機で買い、路肩に座り込んでしまった。

    星の見えない漆黒の夜空を見上げ、ため息をついた。

    ふと冷静になると、なぜ、こんな夜中に振られた相手を追いかけているのだろうと思った。なぜ、こんなことをしているのか。衝動的な行動だとしても、あんまりじゃないか、と。

    そして和美を思い出した。

    もし和美に振られていたら、私は同じことをしただろうか?

    当然、しないだろう。それなのに、夏奈恵は追いかけている。好きだと伝えて、振られて、また会いに行って、夏奈恵のことを好きだと言えるのだろうか?

    両足が棒になるほどの疲労の中で、答えの出せない自問自答を繰り返した。

    しかし、ここまで無鉄砲に行動を起こしてしまっているのだ。後戻りする方法もわからず、気持ちだけは走ろうとしていた。


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    気づけばうっすらと空が明るんでいた。何とか歩き続けて3時間が過ぎていた。

    そして辿り着いた長い一本道。そこに並ぶ街灯に「国立駅前商店街」という文字を見つけることができた。その瞬間、嘘のように力がみなぎり、さらに10分ほど歩くと、目の前に三角屋根の国立駅舎が現れてくれたのだ。

    ロータリーの真ん中に立つ時計の針は、もうすぐ6時に届きそうになっていた。バス停脇に電話ボックスを見つけると、すがりつくようにドアを開けた。始発だろうか、電車の走る音が騒々しく耳に入ったが、電話ボックスのドアを閉めると、小さく、鈍く、中がざわついた。

    そしてありったけの10円玉を電話に入れ、ゆっくりダイヤルした。振り返ると、こんな早朝に電話をかけるなんて迷惑な話だが、そんなことはまったく気にも留めず、夢中でダイヤルを回していた。

    プルルルルル……プルルルルル……

    呼び出し音を耳にすると、途端に緊張感が溢れた。

    「お願い、出て」

    そう強く念じ、受話器を持つ手に力が入った。

    ずいぶん長くコールしてから、不安そうに「もしもし」と夏奈恵の声が聞こえた。こんな時間の電話だ。電話を取るか迷っていたのだろう。

    「あ、オレ、溝口だけど」

    「え? どうしたの?」

    「いまから会いたい。いま国立駅の前にいるんだけど、少しでもいいから話したくて」

    「どうして国立にいるの?」

    「いや、走ってきて、ここまで……」

    「走ってってどこから?」

    「吉祥寺、いや、途中の駅、武蔵……なんだっけ?」

    「武蔵小金井から走ってきたの?」

    「うん」

    「なんで、何してるの? 寝てないの?」

    吉祥寺駅で別れて、座り込んだまま終電を逃したこと。2千円握り締めてタクシーに乗ったこと。途中で下ろされて国立まで走ってきたこと、すべてをありのままに夏奈恵に伝えた。

    「ウソでしょ? 信じられない。なんで?」

    夏奈恵はそう繰り返し、大笑いしていた。そして……

    「じゃあ、ウチきていいよ」

    その声を聞いた瞬間、安堵のあまり力が抜け、私は電話ボックスの中でしゃがみ込んでしまった。


    2-5へつづく

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