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「地経学(geoeconomics)」とは何か、安全保障とどのように関連するか

    最近、地政学(geopolitics)という言葉の一部分を変えた地経学(geoeconomics)という用語が広く使われるようになっています。BlackwillとHarrisは、地経学を「国益を増進または維持し、望ましい地政学的な帰結を生み出すための経済的手段の使用」と定義しました(Blackwill & Harris 2016: 20)。

    このような研究が活発な背景として、グローバル化した経済が政治的な思惑から分断され、損害を受ける事例が増えているという状況があります。大国間の利害対立から国際的な貿易と投資の自由化が妨げられ、世界経済の成長が鈍化しているところで、武力紛争による資源供給の基盤の破壊が起きており、結果として各国で同時に物価の上昇が起きています。

    このような状況で懸念されているのが米中対立です。米国のトランプ政権は2018年9月に通商法301条に基づく対中追加関税措置を発動したことがあり、その対象品目は5745品目、規模は2000億ドルに相当しました(トランプ政権、2,000億ドル相当の対中追加関税第3弾を9月24日発動)。

    このトランプの動きに対して中国の習近平政権も報復関税を発動して対応したことにより、米中双方の経済は打撃を受けました。この出来事は、決して地方レベルの経済活動と無関係だったわけではなく、例えば中国の報復関税はトランプに投票した有権者の割合が多かった地方の所得を減少させるように調整されていたことが報告されています(Fajgelbaum &Goldberg 2020)。

    こうした問題を分析するため、クレイトン(Christopher Clayton)らは「地経学の枠組み(A framework for geoeconomics)」(初版2023;最新版2026)の中で、地経学の数学的モデルを提案しています(Clayton et al. 2026)。これは国際政治経済学の覇権安定論(hegemonic stability theory)で説明されているメカニズムを形式化したものです。覇権国は世界で広く使われており、代替性が乏しく、同時に生産性が高い戦略的産業部門を確立しておくことで、自国に有利なグローバル・サプライチェーンを作り出します。このようなグローバル・サプライチェーンを構築しておけば、特定の外国が歯向かってきたときに、複数の供給経路を同時に遮断して経済的に大きな損害を与えることが可能です。

    このようなモデルが示唆しているのは、戦略的産業集積の地理的な立地が重要な意味を持つということです。この問題は経済安全保障(economic security)とも呼ばれており、各国の経済政策、産業政策の焦点となっています。例えば、9nmプロセス以下のロジック半導体の生産拠点はもともと台湾、韓国、米国に偏っており、特に台湾には高度な技術がありました。このようなグローバル・サプライチェーンの構造では、日本の経済安全保障にとってリスクが大きいことが課題でした。中国の軍事活動によって台湾海峡の情勢が緊迫していることを踏まえ、日本政府は次世代半導体技術の研究開発投資を官民連携の下で進める政策を進めています。

    2022年には半導体メーカーとしてRapidusが設立され、経済産業省の研究開発委託として採用されました。北海道千歳市に工場を建設しており、2027年から生産を開始することを目指しています(Nakamura et al. 2025)。台湾積体電路製造(TSMC)の工場を熊本県菊陽町に誘致していることも、サプライチェーン上のリスクを軽減することに寄与しています。

    世界経済が分断される時代においては、こうした経済安全保障を考慮した政策体系を発展させることが必要であり、地経学は、それをサポートする研究領域として期待されています。日本でも、この分野の成果を紹介する入門書が刊行されています(鈴木 2025)。

    参考文献

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    一般向けに政治学、地政学、軍事学の知識をお届けしています。大学で政治学も教えていますが、この筆名で『現代軍事学入門』を出しています。普段の文献の紹介ではAmazonアソシエイトの紹介料を受けています。

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