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1964年の中国の核実験に際して日本政府では核武装の可能性を検討していた

    1964年10月16日、中国はロプノール近郊の実験場において、最初の核実験を成功させました。これにより、米国、ソ連、英国、フランスに続いて、中国も核兵器国となりましたが、これに対して日本は1970年に核兵器不拡散条約(Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons)に署名することで対応しています。

    勢力均衡理論の枠組みで見れば、これは脅威の高まりに対する反応として不可解に思えるかもしれません。しかし、Fintan Hoey(2016)の見解によれば、これは日本の内外の状況を踏まえた対応でした。

    1964年11月に総理大臣に就任した佐藤栄作は、中国の核実験を踏まえ、米国大使に日本が独自に核兵器を保有することについて前向きな姿勢であることを明示しています。これに対して米国政府は核拡散を防止するという観点から、1965年1月にはリンドン・ジョンソン大統領と佐藤首相との首脳会談で日米安全保障条約に基づく日本の防衛を口頭で保証し、拡大抑止のコミットメントを強化します。

    米国の姿勢を見て、佐藤はいったん核保有の主張を後退させますが、政府内ではソ連と中国という二つの核兵器国に直面する日本が核兵器を開発する実現可能性について検討が続いていました。この検討作業を担ったのは内閣調査室であり、その成果は「核武装可能だが持てぬ」という表題でまとめられています(Hoey 2016: 10-11)。

    内閣調査室の研究は、1967年から2年半にわたり、著名な国際政治学者や科学者が十数名関わっており、1994年11月13日付の『朝日新聞』で初めて存在が明らかにされています。まず、内閣調査室の外郭団体として「民主主義研究会」を設置し、そこで東京工業大学教授の垣花秀武(かきばな ひでたけ、1920 - 2017)、東京工業大学教授の永井陽之助(ながい ようのすけ、1924 - 2008)、上智大学教授の蝋山道雄(ろうやま みちお、1928 - 2009)、朝日新聞社安全保障問題調査会研究員の前田寿(まえだ ひさし、1918 - 1991)らに共同研究が委託されました(黒崎「日本核武装研究(一九六八年)とは何だったか」126頁)。

    このプロジェクトの最初の報告書は1968年にまとめられ、少数の核爆弾を製造することは可能であるものの、有効な核戦力を創設するためには、組織面と財政面で困難が多いことが明らかにされています(同上)。さらに、1970年にまとめられた第二の報告書では、戦略的、外交的な観点から核武装の可能性が検討され、日本が核兵器を持てないことは、必ずしも日本の安全保障にとってマイナスではないと結論付けています(同上)。Hoeyの分析では、日本の国土の狭さと人口密度の高さにより、信頼性が高い第二撃能力を展開することが難しいことや、国民の核兵器に対する反発が実現を阻む重要な障害と見なされていることが指摘されています(Hoey 2016: 10)。

    この調査結果は非公開扱いで200部だけ印刷され、内閣官房、省庁幹部、自民党議員などに配布され、内閣調査室長を通じて佐藤首相にも配布されたと推測されています(黒崎「日本核武装研究(一九六八年)とは何だったか」133頁)。1968年1月に佐藤首相はすでに核四政策を表明し、米国の核抑止に依拠する方針を打ち出しています(同上、133頁)。将来的に核兵器開発が可能な能力、つまり潜在的核武装能力を保持する検討は続けられており、1969年9月25日に策定された外交政策企画委員会の「わが国の外交政策大綱」で潜在的核武装を可能とする経済的、技術的な潜在力を確保することが盛り込まれました(同上、134頁)。1970年に佐藤政権が核兵器不拡散条約に署名しています(同上)。

    ただし、注意が必要なのは、この潜在的核武装能力の保持という方針はあくまでも政府、特に外務省の安全保障関係者の中で共有されていたものであって、原子力開発に関わっていた通商産業省、科学技術庁、電力業界、原子力産業、政治家の間で共有されていなかったことです(同上、135頁)。このことを考慮に入れると、Hoey(2016)が日本の核政策に対して、論理的な一貫性を強調していることには疑問が生じます。むしろ、政府の内部で政治的意志の統一を図られていない状態で、潜在的核武装能力の保持という政策が実施されたという黒崎輝の評価がより実情に近いでしょう(黒崎「日本核武装研究(一九六八年)とは何だったか」135頁)。

    核兵器をめぐる議論は抽象論に陥りがちですが、こうした冷戦期の歴史的経験を踏まえた議論を積み重ねなければ、成熟していかないと思います。日米の核密約の議論も含めて、日本がこれまで核兵器にいかに向き合ってきたのかを知らなければ、これからの対応を見通すこともできないでしょう。

    参考文献

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    一般向けに政治学、地政学、軍事学の知識をお届けしています。大学で政治学も教えていますが、この筆名で『現代軍事学入門』を出しています。普段の文献の紹介ではAmazonアソシエイトの紹介料を受けています。

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