メインコンテンツへスキップ
見出し画像

過激な淑女

    こちらの企画に参加させていただきました✨ ⏬

    私の中で思い描く淑女像……それはオードリー・ヘプバーンが演じる『ローマの休日のアン王女』だ。

    映画『ローマの休日』は、ヨーロッパ某国のアン王女がローマ滞在中に大使館を抜け出し、偶然出会ったアメリカ人新聞記者ジョーと過ごす、切なくも美しい一日限りの恋を描いた名作ロマンス

    Wikipediaより

    身分を隠してローマの休日を楽しんだアン王女。

    一般庶民にとっての日常も、アン王女にとっては過激な経験だったに違いない。

    ただ今回のタイトルは『過激な淑女』

    アン王女のイメージではない。

    なのでここからは、私の空想で、ちょっぴり過激になっていただきました。


    ローマの休日、その翌日

    翌朝。アン王女は、いつものように宮殿の食堂にいた。

    白いテーブルクロスの上のティーカップから紅茶の香りが漂っていた。

    昨夜までの出来事が、まるで夢だったかのようだ。

    「新聞を」

    侍女が差し出した朝刊を、アン王女は静かに受け取った。

    一面には、昨日の自分の写真が載っていた。

    ローマの街を歩き、ジェラートを食べ、スクーターに乗り、理髪店で髪を切った王女。

    アン王女は記事を読み終えると、新聞をきれいに畳んだ。

    「昨日は……楽しかったわ」

    侍女が微笑む。

    「そのようで……」

    「でも」

    アン王女は紅茶を一口飲んだ。

    「今日は、もっと楽しいことをしたいの」

    侍女が首をかしげる。

    「何をなさるおつもりですか?」

    アン王女は笑って答えなかった。

    その頃。

    ローマ郊外の小さな競馬場では、午後のレースに向けて騎手たちが準備をしていた。

    その中に、一人だけ見慣れない女性がいた。

    黒い騎手帽。

    真っ赤な色の勝負服。

    細身の身体を馬に預け、栗毛色の競走馬の首を優しく撫でている。

    彼女の名前は、

    アン。

    それだけだった。

    「新人か?」

    調教師が尋ねる。

    「ええ」

    「乗れるのか?」

    アンは馬の鼻先に手を添えた。

    「昨日、スクーターを嗜みましたわ」

    「スクーター?」

    「今日は、こちらにしてみます」

    調教師は笑った。

    「こいつは気性が荒いぞ。昨日も二人振り落としたばかりだ」

    アンは馬の目を見つめた。

    「では、仲良くするところから始めるといたしましょう」

    やがて、レースの時間が来た。

    ゲートが開く。

    一斉に馬が飛び出す。

    アンの馬は出遅れた。

    観客席からため息が漏れる。

    ところが、アンは焦らなかった。

    前を走る馬たちをじっと見つめている。

    第3コーナー。

    一頭を抜く。

    第4コーナー。

    さらに一頭。

    最後の直線。

    アンは身体を低く伏せた。

    「参りますわよ」

    馬が加速する。

    歓声が大きくなる。

    残り100メートル。

    先頭との差は、まだある。

    アンは手綱を握り直した。

    「よくって? あなたなら、できてよ」

    馬がさらに伸びる。

    一頭。

    また一頭。

    そしてゴール直前。

    先頭の馬をかわし、

    ゴール。

    場内がどよめいた。

    誰も、この新人騎手が何者なのか知らない。

    アンは静かに息を整え、馬の首を優しく撫でる。

    そして帽子を少し上げる。

    その横顔には、昨日ローマの街を自由に歩いていた少女と同じ笑顔が浮かんでいた。

    その夜。

    宮殿。

    アン王女は何事もなかったように夕食の席についていた。

    侍従が興奮した様子で新聞を広げる。

    「殿下、ご覧ください!」

    「何かしら?」

    「今日の競馬です! 無名の女性騎手が1着になったそうです」

    アン王女は新聞を受け取った。

    競馬欄には、大きな見出し。

    『謎の新人騎手、鮮烈なデビュー』

    アン王女は記事を読み、微笑んだ。

    侍従が言う。

    「この騎手、殿下によく似ていると思いませんか?」

    アン王女は紅茶を飲んだ。そして、ほんの少しだけ口元を緩めたて言った。

    「世の中には、私によく似た女性がいるものですね」

    侍従は納得したように頷いた。

    アン王女は新聞を閉じた。

    窓の外には、ローマの夜景。

    昨日はスクーター。

    今日は競走馬。

    明日は何に乗ろうかしら。アン王女は楽しそうに考えた。

    王女の休日は、まだまだ続く。


    #アマノ文筆クラブ
    #過激な淑女

     
     
    介護の仕事にまつわる話、親の介護の話、その他、趣味や日常の話など語って行きたいと思います。 Amazon.co.jpアソシエイトを利用してます。

    あなたへのおすすめ