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「お月さまがついてくる」と跳ねる5歳の孫と、お風呂の夜

    「ねぇ見て、お月さまがついてくるよ」
    「わたしがジャンプすると、一緒にジャンプする」


    そう言って、ピョンとジャンプした。
    ビルの谷間に満月がぽっかり浮かんでる。
    満月も孫と一緒にピョンと跳ねた。


    花火大会の帰り道。
    5歳の孫娘は、何度もピョン、ピョンと飛んでいる。
    そのたびにお月さまを指差している。

    つないだ小さな手が温かい。
    ばあばも一緒にピョンと跳ねた。


    花火の余韻を連れてみんな歩いてる。
    浴衣を着た女の子が、綿あめを舐めながらお母さんと歩いてる。
    この子にも浴衣を着せてやればよかったかな。


    「ついてくるよ。いつまでもついてくる。お家まで着いて来たらどうしよう」

    振り向いた顔が少し泣きそうになっている。
    私は、孫の小さな手をぎゅっと握った。


    孫が生まれて12か月が5回過ぎた。
    生まれて60か月の子には、月がついてくる。


    では、その十倍、600か月生きた人には、何がついてくるのだろう、とふと考えた。

    50歳だったあの頃、振り返れば私にもいろんなものがついてきていた。

    小さい字が読みにくい、がついてくる
    肌にシミがついてくる
    あぁ、人生残り半分か、がついてくる


    90歳でも1080回、月がめぐるだけ。
    そう考えると、人生ってだいたい1000個ぐらいの「今月」しかない。

    今まで生きてきて1000個の桃は食べてないけれど、1000個のみかんなら余裕で食べているだろう。

    ぱくぱくと食べてきた今月。
    人生がカレンダーのマスになる。
    今月も一個使った。


    家に着くと、孫は夜空を見上げて、
    「あー。ばあばのお家までついてきちゃったね」と言った。

    「うん。そうだね」
    「じゃあ、一緒にお風呂に入ろうっか。お月さまは、きっと入れないよ」
    と私は答えた。

    今夜は、ばあばとじいじの家に一人でお泊まりするそうだ。


    生まれた時、この子は980gだった。
    母親は妊娠高血圧症候群でかなり危険な状態に陥った。

    コロナ禍で病室に近づけなかった私は、総合病院の広い駐車場に一人立ち、娘の病室の灯りを頼りに必死で手を合わせた。 

    「お願い助けて、お母さん。娘を助けて」

    8か月で取り出された孫も危険だったが、何とか持ちこたえた。


    あれから60個のマスが埋まった。
    娘も孫も助けられた。

    湯船でオモチャの水鉄砲にお湯を入れて、キャッキャとはしゃいでる。

    この子を見ると、真っ暗な駐車場から見上げたあの窓の灯りを思い出す。

    これからこの子も今月を重ねていく。
    どんな今月がこの子を待ち受けているんだろう。

    5歳の孫にはお月さまがついてくる。
    私の600回の今月には、人生そのものがついてきてた。

    その頃は重たかった足取りが、今は少しずつ軽くなってきてるように感じる。
    一つずつ何かを手放してきているのかもしれない。


    ぼんやりしていた私の湯桶の防御がゆるんだ。

    ーーピシュ!

    「当たったぁ。ばあばをやっつけたー」
    まんまるお月さんの孫の笑顔がはじけた。


    「やられたー」
    孫の水鉄砲攻撃に胸を射抜かれた私は、ぶくぶくとお湯に沈んだ。



    #600note祭りに参加させていただきました。

    他にも、こんなものを書いています。
    記憶をたどる話。日常の可笑しな話。
    AIと潜っている話。
    気になる扉があったら、どうぞ。


     
     
    方向音痴で、時々ナビやAIと喧嘩しながら生きています。 フラを踊り、栗蒸し羊羹を作り、孫のお遊戯に泣く。 日々の「なんでそうなる?」から、家族の記憶や、働いていた頃のことまで。 自分の言葉で書いています。

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