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Photo bydongmu

錯覚#風まかせ文芸部


    冬の夕方、駅前のガラス越しに、私は“あの人”を見た。
    黒いコートの背中。歩幅の癖。ふと振り返る仕草まで、全部、同じだった。

    急いで外に出て、思わず名前を呼びかけて、足が前に出る。
    でも、近づくたびに胸がざわつく。
    こんなはずない。
    だって、その人はもう遠くの街へ行ってしまったはずだ。
    彼はスマホを耳に当てながら笑っている。声は聞こえないのに、笑い声だけははっきり思い出せた。

    「そんなわけないよね」

    呟いた途端、視線がぶれて、彼の顔が別の人のものにすり替わった。
    私の心が勝手に描いた幻。

    風がコートの裾を揺らし、幻は雑踏に紛れて消えていく。
    私は深呼吸をして、駅前の灯りの下を歩き出した。


    #風まかせ文芸部

     
     

    てみ

     
     
    書くことが好きです。映画感想文、読書感想文、短歌、小説、体験談、エッセイなど書いています。宮沢賢治、新美南吉の童話好きです。柳田國男の「遠野物語」は大好きです。初noteは、20240222です。

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