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Photo byshiori44yso

どうか縛らないでください#アマノ文筆クラブ

    友だちの紹介で付き合うようになった彼から、LINEが頻繁に来るようになったのは、付き合い始めて二週間が経った頃だ。

    別に用事がある訳ではなく、
    「今どこにいるの」
    というLINE。

    最初の頃は、まめな人なんだな、と思った。
    けれど、毎日、何度も送ってくる。
    同じ大学内にいるのだから、
    「どうというわけでは無いのでは」と思う私は、
    彼からLINEが来るたびに、
    胸の奥に小さな重石を置かれたような気持ちになっていた。

    彼は優しい人だ。
    会って食事をする時は、いつも私を気遣ってくれて、
    私の好みの店に連れて行ってくれる。

    でも、逆に言えば、
    私の話から私の好みを拾い上げ、
    私の輪郭を自分の中に写し取るように見えた。

    ある日、私は彼にLINEを送った。
    「あなたは、何が好み? 何か好きな食べものってある?」

    返信は、
    「キミの好きなものが、僕の好みだ」

    その一文を見た瞬間、
    どこか遠くで扉が閉まる音がしたような気がした。

    私たち、これからどこに向かうんだろう。

    木の葉が散らばる歩道を歩きながら、
    私は彼の思いが自分の足に絡みつくように重く感じられ、
    ため息が自然とこぼれた。


    ある日の夜、大雨が降っていた。
    すごい音を立てて雨が降るので、
    カーテン越しに外を見た時、
    彼が傘を差して、私の部屋が見える場所に立っていた。

    彼は、私が見たことに気づいていないようなので、LINEを送った。
    「今、どこ? こっちはすごい雨が降ってるよ」

    すぐに返信が来た。
    「僕もアパートの部屋にいるよ。こっちは大した雨じゃないよ。気をつけてね」

    心臓の奥で、冷たいものが静かに広がった。
    なぜ嘘をつくの。
    なぜ、そんなふうに私を見ているの。


    次の日、彼と会って話した。

    「昨夜、私の部屋の近くにいたでしょ。
    大雨の時、カーテン越しにあなたを見たの。
    でも、あなたは部屋にいると言ったわ。
    何故、そんなことを言うの」

    「キミをいつも守りたいからだよ。
    でも、僕がキミにそのことを話したら嫌がるだろう?
    だから、黙って見守っているんだよ」

    「……私にそんなこと、しなくていいわ。
    ごめんなさい、あなたが正直言って、怖い」

    「心外だなぁ。僕はキミを守っているだけなのに」

    「だから、それをやめて欲しいの」

    私の手は震えていた。

    「わかった。キミがそんなに嫌がるなら、辞めるよ」

    「ありがとう、分かってくれて」

    「いいのさ。これからはキミを縛って、僕の部屋にいてもらうよ」

    空気がひと息止まった。
    その瞬間、私は走り出した。


    彼は追って来る。
    けれど、陸上部にいた私の方が速い。
    夜の道を走る足音が、すぐ後ろまで迫っては離れていく。
    そして、大学の門外にある交番に駆け込んだ。

    「助けてください!」

    そう言って、さっきの会話を録音していたテープを差し出した。

    彼はいなかった。

    警察に話したことで、ようやく息を吸い込めた気がした。


    次の日の朝、玄関を出ると、彼が立っていた。
    驚いた私は、昨日交番でもらったブザーを鳴らした。
    金属が悲鳴を上げるような音が響き、彼は逃げだした。
    アパートの住人たちが外に出て来た。

    「今度、また来たら家に逃げていらっしゃい」

    「おー、みんなで連帯しようぜ!」

    その声が、冷たくなっていた心に灯をともすように聞こえた。

    「ありがとうございます」
    と言いながら、私は泣いていた。


    彼を紹介してくれた友にも話した。

    「そっか。あの人はそんなことをしてたんだ。
    それ、私がそうだから、あの人にも感染したのかも……ふふ」

    その笑みが、ひび割れた鏡を見ているようで、
    私は何も言えなくなった。




    ※アマノ文筆クラブ、初参加させていただきました。
    m(_ _)m


    #どうか縛らないでください
    #アマノ文筆クラブ

     
     

    てみ

     
     
    書くことが好きです。映画感想文、読書感想文、短歌、小説、体験談、エッセイなど書いています。宮沢賢治、新美南吉の童話好きです。柳田國男の「遠野物語」は大好きです。初noteは、20240222です。

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