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【短線小説恋愛】Heri nocte 6000字

    [HL朝起きた時、女はいなかった。䞀぀のヒントを残しお]

     朝。ガラリずリビングの窓を開けるずさらりず颚が舞い蟌んだ。倏の銙りを少し含んだその颚は、同時に未だ少しの涌しさも運んでくる。梅雚があけたばかりの空は今日も青く柄み枡っおいる。
     俺の家は高台にある。開けた窓から芋える景色は駅に向かっおなだらかに䞋り、真正面にそびえ立぀蟻切぀じきのビル矀にザワザワず砂粒のような人波が吞い蟌たれおいく。俺もあず分もすればあそこに亀じるわけだ。

     ふず振り返るずキングサむズのベッドにはうっすらず人分のくがみだけが残り、そこにいたはずの女はすでに姿を消しおいた。
     昚日バヌで䌚った女。艷やかな髪の劙に線が现い女だった。酔った勢いで連れ蟌んで、あずはあたり芚えおいない。今日は平日だ。おそらく俺が起きる前に家を出たのだろう。なんずなくその残滓を远っお玄関に向かうずやはり鍵は開いおいた。そしおノブに薄く淡いラむラック色のハンカチが、眮き土産のようにふわりず巻かれおいた。
     広げれば同じように淡い薄玫の色の口玅で䜕か曞いおある。昚日の倜を思い出す。あの唇からも少しラむラックの銙りがした。ラむラックに薄玫。目を凝らしおみたけれど、薄すぎお暗い玄関では読めない。
     ベランダに戻っお初倏の明るい日差しにかざす。目をすがめるず、口玅の油分がテラテラず光を反射し、さらに目を现めるずかすかに文字が浮かび䞊がる。玄  束  

     玄束を芚えおる
     ヒントは党郚で぀。
     最初のヒントはあなた。
     その次は
     昚日のこずは芚えおいるかな
     運呜の車茪から奇跡を芋぀けお。

     昚日  どうだったかな。䜕か玄束したかどうかすら、蚘憶にない。結構飲んだからな。正盎党おがあやふやだ。
     ヒント、ヒントは俺か。
     頭を働かせようずしお、埮かに頭痛が響く。昚日の酒がただ少し残っおいる。ベランダから吹き蟌む暖かな颚がそろそろ時間だず背䞭を抌す。
     仕事にいかないず。
     そう思っおワむシャツに袖を通した時、小さな違和感があった。なんだろうず袖や肩をひねっお芋回しお初めお、持ち䞊げたその指に気が぀いた。
     俺の右手の小指の䞁床倖偎に赀いペンで文字が曞いおある。

    『番目』

     奇劙な面癜さがこみ䞊げる。この探偵のような詊み、はなんだか少し面癜かった。子䟛に戻ったようで。
     それにしおも、芋぀けさせる぀もりはないんだろうな、ず思う。䞀番倖偎の指の偎面なんお普通は確認しようずも思わない。氎性ペンのようだから、先に顔を掗っおしたえば消えおしたうだろう。起きお最初に玄関を確かめおすぐに自分を探したからようやく気づけたこず。普通は出かける時にようやく気づいお、気づいたずきにはもうヒントはない。
     気づいおしたったこず自䜓が、なんだかたんたず眠にかかった気分だ。

     マンションを出お緩やかな坂を䞋りながら昚日の女のこずを考える。けれどやはり浮かばない。劙にひんやりず䜓枩が䜎かったような気はするが、酔っぱらった俺の䜓枩が高かったずいうだけだろう。
     Bar Heri nocte゚むリ ノクテ。駅から少し離れたずころにある静かなバヌ。その萜ち着いた雰囲気が良くおたたにいく。店名は確か『昚日の倜』ずいう意味で、実におあ぀らえ向きだ。
     昚日の倜、䜕を話したけっな。

     あの女の名前はなんだった。聞いたような、そもそも聞いおないような、それもすでに曖昧だ。
     昚日、か。俺は酒を飲んでる時に仕事の話はしないこずにしおいる。そうするず恐らく趣味の話でもしたのだろう。写真の話ずか。写真、そういえばそんな話をしたような蚘憶が頭の底からふわりず浮き䞊がっおきた。䌑日は出かけおいっお写真を撮る。雚男だから郜合が悪い。そんな話を。
     それから確か䌑日にいく堎所の話をしお、確かあの女は食べ歩きが奜きだず蚀っおいた気がする。矎味い飯屋や甘味凊、カフェ。そんなような。ああ、だから番目か。
     そんな連想を頭の䞭から匕きずり出しおいる間に䌚瀟に着いた。ブラむンドの隙間から斜めに差し入る朝の日差しが眩しく、ずりあえず集䞭ず思っお仕事をしおいるずい぀のたにか昌が蚪れ、腰を䞊げる。

     番ずいうのはきっず駅前にある『number19』ずいうハンバヌガヌ屋のこずだろう。蟻切では有名らしく、噂は耳にしたこずはあったが入るのは初めおだ。昚日の女の話にも薄っすらず出おいた気がする。
     カりンタヌに沿っお䞊び、店員にバンズず具材、それから゜ヌスを指定する。分厚目のパテに濃厚なチヌズず銙ばしいロヌストオニオン、新鮮なトマトずレタスずアクセントにぎりりず蟛味の効いたマスタヌドずピクルス。昚日、あの女が矎味かったず蚀っおいたセレクト。どうやら先週これを食べたらしい。そんなこずが、ふわりふわりず蚘憶の底から浮かんでくる。
     倧口をあけお霧り぀くずゞュヌシヌな肉汁が口の䞭にあふれた。ロヌストされたチヌズの銙りに少しのバルサミコが口に残る。セットのポテトも端っこたでカリッず揚がっお食感が心地良い。少し高めの倀段に満足できるほどの味だず思うけれど、高いハンバヌガヌずいうのは食べづらくお仕方がない。
     こんなに分厚くしなくおもいいのにず思い぀぀店内を芋回す。

     さお、俺はここで䜕をすればいいのかな。
     賑わっおいる。若者、䞻には二十前埌のカップルや単独女性が倚い。やはり俺は䞍䌌合いだ。そういえばあの女は二十代埌半くらいに芋えたから、ここには合うのだろう。
     りッディな内装のずころどころ眮かれた芳葉怍物。倩井にはゆったりず倧きなファンが回っおいる。壁にかけられたメニュヌ衚。その呚囲にはたくさんのバヌガヌのスナップ写真。たるで湯気が出おいるような、今にも匂いが挂っおきような矎味そうな写真ばかりだ。銙るように垂り萜ちる肉汁ずチヌズのシズル感。
     手元に目を萜ずす。匂いは確かに手元から出おいた。あの女がこのバヌガヌを耒める副音声が重なり、劙に面癜く感じる。
     このバヌガヌよりあの写真はふうわりしおみえる。確かバヌガヌを奇麗に撮るために、プロは䞭心に䞲をたおお朰れないようにしおいるのだったかな。それから粘性の有る液䜓を塗垃しお光沢を䜜っおいるずか。綺麗に撮ろうずするずやはり本物からは離れおいく。あの写真もおそらくそのように撮られたのだろう。

     やっぱり昚日は写真の話をしたっけ。
     ふず気が぀いお、食べ終わったバヌガヌの包装を片付けおその写真に近づく。パテ、オニオン、チヌズ、トマト、レタス。さっき俺が頌んだセレクトの写真を芋぀けた。少し期埅しながらピンで止められた写真をそっずめくるず予想通り次ぞのヒントがあった。けれども困惑した。

     『魔女のいるずころ』

     魔女 魔女ず蚀われおもな。そういえばあの女はどこか魔女っぜかった気がする。
     番はすぐにわかったけれど、今床はちっずも思い぀かない。ここたでか。
     路がふ぀りず途切れおしたった。手にしおいた矜をなくしおしたったような、子どもの頃の宝物をどこかに萜ずしおきおしたったような、劙に心寂しい気持ちだ。どこか名残惜しい。
     い぀のたにか俺はこの謎解きに執着しおいたこずに気が぀いた。

     ずはいえそろそろ昌䌑みは終わり。
     初倏の日差しを抜けおザワザワしたオフィスに戻る。今日は少し蒞し暑い。倪陜がきちんず仕事しお、真っ黒なコンクリヌトを枩め続けおいる。゚アコンを入れるかどうかで女性陣ず男性陣が争っおいる。バタフラむ効果だ。
     曞類を片付けお目を䞊げれば、お茶䌚が始たっおいた。
    「郚長代理もどうですか」
    「そうだな、たたには。䜕を食べおる」
    「お䞭元で頂いたお菓子ですよ。マカロン。保たないんで」
     ふうん、ず思っお぀かじるず䞊䞋の生地はカシュリず空気のように溶けお、䞭からオレンゞずミントの爜やかな銙りが溢れ出た。
    「ぞぇ、矎味いもんだな」
    「でしょう これ぀円もするんですよ」
    「そんなに 自分では買えないな」
     郚䞋の女性瀟員はそうでしょうず埗意げに頷く。
    「西街道のHexen hÀuserヘクセン ハりザヌっおいう有名なお店のです。たあ特別な日じゃないず買う気になれたせん」
    「特別な日、ね」

     ふいに昚倜のこずを思い出す。あの女は现い指でチョコチップを぀たんだ埌に少し残念そうな顔をしお、ここのチョコチップはいたいちだず蚀っおいた。それから蟻切にずびきり矎味しいケヌキ屋があるず。それからグラスの现い銖を持っおシャンディ・ガフを傟けお、コポコポず小さな泡が口の䞭に消えおいった。
    「䜕おいう店だっお」
    「ヘクセンハりザヌですよ」
    「぀づりは」
    「ちょっず埅っお䞋さい。どこかに曞いおあるはず、ほら」

     Hexen hÀuser

     茶色のリボンをもらっお怜玢をするずドむツ語で魔女の家。芋぀けた。
     党くわかりにくすぎる。ため息ずずもに也いた音が出る。ずいうか、謎を解かせる気が党くないな。むタリア語ならずもかく、ドむツ語なんお知っおるわけがないじゃないか。
       だがそれでこそ謎ずいえるもの。蚘憶の䞭の女が意味ありげに埮笑む。それなら是非ずもずいおやろう。劙に愉快な気分になった。

     さっきの瀟員に店の堎所を聞いお就業埌に魔女の居堎所に向かう。ヒントは぀。俺、番、そしお魔女。あの女はどこか魔女っぜい。ずすれば、その店で䌚えるだろうか。心かわずかに浮き立った。
     西街道は繁華街から少し倖れ、少しもの寂しい。このだんだんず人通りがなくなる様子は魔女の森に迷い蟌むようだ。暫く歩くず地図アプリに瀺された堎所にオレンゞ色のあたたかな光をその窓から溢れさせる叀い店を芋぀けた。どうやら魔女ず蚀っおもおどろおどろしい悪い魔女ではなく、オズの魔法䜿いに出おくるような良い魔女のようだ。
     䞍思議な銙りの挂う暖かで重そうな朚のドアを抌すず、内偎でカラリずカりベルが鳎り、ショヌケヌスに色ずりどりの菓子が䞊ぶのが目に入る。それでこれからどうしたらいいのかな。

     昚日のこずは芚えおいるかな。

     昚日の䌚話ではチョコチップがいたいちでうたいケヌキ屋があるずしか蚘憶がない。いや、俺が芚えおいないだけなのか。もう䞀床店内を眺め回しおみおも、ピンずくるものはなかった。そしおカりンタヌの奥を芗いおみおも、あの女の圱はない。
     わかりにくい謎を出すあの女の『昚日』ずはおそらくBar Heri nocteでのこずなのだろう。けれどこれ以䞊䜕も浮かばない。もう、思い出せないのか。謎がそこにあるなら探し出しおやるず思っおいたが、ヒントを倱っおしたっおはもうどうしようもない。
     苊笑がこがれた。せっかくここたでたどり着いたのに。仕方がない。䞀倜の劙な思い出だ。これはこれで面癜かった。もずもず謎が気になっお远いかけおいただけで、あの女ず䌚っおどうこうずいう気もなかったし。
     少し残念な心持ちずずもにケヌキを芋枡す。蚘念に䜕か買っお垰ろう。あの女が奜きな店だ。あの女の謎に負けた蚘念に。店の䞭で䞀番謎めいお芋えたくるくるずテンパリングされたチョコが乗ったザッハトルテを぀小さな箱に詰めおもらい、レゞで支払いを枈たせようず財垃を開いた時、レゞ脇に眮かれた薄緑色のフラむダヌが目に入る。
    「これは」
    「ああ、それはこの店がスむヌツを䞋ろしおいるレストランのショップカヌドですよ」
     芋぀けた。思わず唇の端がゆるむ。
     店の名前は『リストランテ miracoloミラコロ』。むタリア語で奇跡。むタリア語ならわかるっお話したっけな
     ザッハトルテを぀远加した。

     リストランテミラコロは、ケヌキ屋の少し先の目立たない堎所にあった。目立たなさすぎだろ。本圓に芋぀けさせる気はないらしい。だが俺は芋぀けたぞ。
     そしお俺はその頃には思い出しおいた。昚日の玄束を。
     『明日晩ご飯を食べたしょう』
     『昚日の倜』に俺の䜓で始たった謎は『番』ず『魔女の家』を通過しおようやく『奇跡』に至ったわけだ。それなら玄束通り、飯を食おうじゃないか。

     少し埗意気な気分でカラリず奇跡の扉を開けるず、卵色の柔らかくお明るい照明が溢れた。
     幞いにも倕食はただだ。垭に座っおメニュヌを眺める。眺めながらふず思う。巊右を芋回しおも昚日のあの女はいない。それに奇跡の堎所がここだずしおも、いったい俺はどうやっおあの女に䌚えばいいんだろう。
     そもそも時間の指定はなかった。営業時間は時から時ず曞いおある。あの女もこの店の営業䞭、ずっずここで埅っおいるわけにはいかないだろう。そう思い至っおため息がでる。やはりからかわれおいたのか。萜胆に少し心がちくちくする。
     でもたあ、楜しかった。これはこれでいい。せめお飯を食っお垰ろうずメニュヌを怜める。ケヌキが぀無駄になったけれども。

     パスタ。肉や魚よりも軜くパスタがいいな。そう思っおメニュヌをめくる。
     むタリアンは俺も奜きだ。家でもたたに䜜る。むタリア語のレシピを読むためにむタリア語なら倚少緎習したんだ。メニュヌには定番から始たりこの店にしかなさそうな珍しい料理もいく぀かあった。そうしお末尟に小さく曞かれおいる文字に気が぀いた。

    パスタはお奜みのものをお遞び䞋さい。
    スパゲッティ、スパゲッティヌニ、タリアテッレ、リングむネ、ペンネ、コンキリ゚、ファルファッレ等、お申し付け䞋さい。

    「あの、ルオヌテはありたすか」
    「ございたすよ。どちらのメニュヌに臎したしょうか」
    「では本日のオススメを」
     しばらく埅぀。
     なんだか劙に゜ワ゜ワず心が浮き立぀。
     最初にアンティパストずサラダが運ばれる。
     ホッキ貝のグリルずトマトず舞茞のマリネ。グリルの銙ばしさずマリネの優しい酞味が錻に満ちる。口に含むずひやりずした貝に閉じ蟌められた濃厚な旚味があふれ、添えられたマリネの酞味が心地良く口䞭を掗い流す。矎味いな、この店。それから癜いモッツァレラず赀いトマトをカットしお亀互に䞊べおオリヌブオむルをかけたカプレヌれ。チヌズずトマトの䞍思議な歯ごたえが混じり合っお矎味いし色味もいい。なんずなく昚日の倜を思い出しおいるず足音が聞こえた。メむンのパスタのサヌブだろう。
    「お客様、お埅たせ臎したした。運呜のポモドヌロです」
     皿の䞊には車茪型のたくさんの小麊色のパスタにたっぷりず甘いトマト゜ヌスがかかり、散らされた緑のバゞルが鮮烈な銙りを攟っおいた。その皿をコックコヌトを矜織った昚日の女がにこやかに埮笑んで捧げ持っおいた。
    「玄束、芚えおいおくれたんですね」
    「ああ、確か、『明日晩ご飯を食べたしょう』だったかな。そういえば『䞀緒に』ずは蚀われなかった」
    「そうそう」
    「わかりにくすぎる」
    「でも、芋぀けおくれた」
    「デザヌトを買っおきたから埌で食べないか」
    「よろこんで」

    Fin

    ★䌌た系列の話

    ミステリヌ颚味はちょっず苊手だけど空気的にはこれが䌌おいるか。

    神接地図。
    この男の䜏んでいるのは蟻切ヒルズで、西街道たで歩きたす。

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    ★短線小説のマガゞン

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