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食レポの旅(ハイファ) 11話 伝説の毒魚ドルダギオ(全57000字)連載中

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    11.伝説の毒魚ドルダギオ

     店員さんは信じられないものを見たような表情をして、奥に駆け込んて、もっと厳ついおじさんを連れて帰ってきた。
    「おめェか。シルブゲリの腐毒を飲んだって奴は」
    「腐毒……?」
     おじさんはいきなり僕の顔をガシリと掴んで僕のまぶたをめくったり口の中を覗いたり、おなかを押したりしたらゲップがでた。
    「ふむぅ。信じられねェが無事なようだ」
    「料理長⁉︎ まじッスか?」
    「しかも汁だけで甘みがわかったんだろう?」
     こくこくと頷いた。
     おいしかったから止められたら嫌だなと思って、お兄さんがいない隙にペロッと食べちゃった。その身はまるでフロマージュチーズみたいにとろけるようにしっとり濃厚に甘くて、今も口の中に余韻が残ってこっそりウットリしている。奥の方の汁は味が濃かったけど旨味の塊みたいというか、海の幸を胸いっぱいに吸い込んだような満足感。
     思い出して殻をチラッと見たら、僕の視線を追いかけたお兄さんがすごい顔をした。
    「うげぇまじか。あの汁を全部飲んだのか。意味わかんねェ」
    「うむ。これであればドルダギオも食えるかもしれぬ。ちょっと待ってろ」
    「料理長‼︎」
    「ドルダギオって何ですか」
     お兄さんは両手で顔を覆って見てはいけないようなものを見るような目で僕を見る。
     えぇ? なんで?

    「あんな、ドルダギオてなぁこの辺の深い海の底に住んでいる毒魚の王様だ。どんな猛毒よりも強い毒を持ち、天国が見えるほど美味い、らしい」
    「らしい?」
    「真面目に味わった奴はみんな死ぬか、味覚障害になって味なんて覚えてねぇんだよ。ただ死ぬ間際とか気絶する間際に、『美味かった』っていう声と満足そうな微笑み残すんだ。それでついたあだ名がデス・スマイル」
    「うわぁどんな味なんですか?」
    「うちは毒料理専門店だ。俺も食ったこたぁねぇが、店の冷凍室には常に一食分は置いてある」
    「なんで食べたこと無いんですか?」
    「死ぬからだよ‼︎‼︎」
     はぁ、本当に人の話を聞かぬな、と帽子から声がした。
     そんなこといわれたってメニューにあるんでしょ?
    「坊主、これだ」
     料理長が緊張した面持ちでものすごく高級そうな皿を捧げ持ってきた。えーと、ひょっとしてすごく高いのかな。編集長は払ってくれるんだろうか。なんだか心配になってきた。
    「あの、おまかせでお願いしてたけど、支払いは僕じゃないんです。すごく高かったりしますか?」
    「お代はいらねぇ。仕入れはするが誰も食わねぇしな。もし味がわかれば教えて欲しい」
    「もし? 料理長も食べたことないんスか?」
    「だってお前、食ったら死ぬだろ」
    「えぇ〜」

     これそんなにやばい魚なのかな。
     見た感じは赤身魚の塩焼き。煎ったクラッシュナッツみたいな香ばしい香りはするけれど、特にソースは何もかかっていない。くんくん匂いを嗅いでみたけど、毒っぽい香り以外にそんなに変な香りもしないような。
     意を決して一口大にナイフで切ってフォークを刺す。まわりの緊張が僕の指に伝わり、僕までわずかにプルルと揺れた。
     大丈夫だと思うけど、ひょっとしたら死んじゃったりするのかな。僕はまだ10歳だけど……昔の思い出が走馬灯のように頭を駆け巡ったりはしなかったから大丈夫な気はする。どちらかというと天国が見えるほど美味い、が気になって仕方がない。では気を取り直して。
     少しの不安と大きな期待と共に、満を辞してその一切れを口に含む。僕は思わずフォークを取り落として叫んだ。
    「行った!」
     おじさんの興奮する声の傍ら、口の中に広がる味に僕は酷い混乱に陥った。
    「なんで!?」
    「どうした坊主‼︎ 大丈夫か⁉︎」
    「ダメだったらすぐに吐き出せ!」
    「あ、大丈夫です」
    「「はあ?」」
     困惑するおじさんとお兄さん。寧ろ叩く背中が痛いです。ん……体はちょっと気持ち悪い、でも別に死ぬほどではない。
     でもなんていうか……。

    「あの、このお魚……」
    「うむ」
    「あんま味がしない」
    「「え」」
     身はちょっと硬めでパサパサして、赤身魚らしく少し血生臭い。でも別にそれほど気にならないというか、そんなのでもアクセントになるくらい身に味がなかった。毒的にピリリとして毒の味自体は美味しい部類だと思うんだけど、それも身の味に合ってはいない感じ。とても美味い焼豚に美味しいサンマを乗せてもあまり美味しくないとかそんな感じで、そんなわけで全体的にどこか薄ぼんやりした味になっている。
     僕のこの高まりきった期待値はどうしたらいいんだろう。

    次話


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