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都市伝説と不確かな歌、そしてマシュマロの海 第5話 動画の始まりと、オープンソースな呪いの構築(現ファ全11話24000字)

    一話目のリンク。

    第5話 動画の始まりと、オープンソースな呪いの構築

     サスリクヴァは愉快犯だ。オンラインで見る限り、幸運な呪まじないも不幸な呪のろいも、等しく世界にばら撒く。その効果に指向性は見られない。
    「智樹、ひとりかくれんぼって何だと思う?」
    「何って、こっくりさんみたいなもんでしょ?」
    「基本的にはそうだ。けれども本質的に大きく違うところがある。一つ目、こっくりさんは目的が定められていて、ひとりかくれんぼにはそれがない」
    「目的?」
     こっくりさんやヴィジャボードという降霊術の類は、何らかの霊を下ろすという目的がある。霊を呼んで何らかの知見を得たり、その霊自体を懐かしむ。
    「そう。ひとりかくれんぼは、人形が追いかけてくる」
     智樹はやはり、首を傾げた。
    「それは霊が入ったってことじゃないの?」
    「霊かもしれない」
    「じゃあ、同じじゃ?」
    「問題はそれが何か、術式の内側には定められていないことなんだよ。つまり、オープンソースなんだ」

     ひとりかくれんぼのぬいぐるみが何か、それはブラックボックスだ。なぜならその術式に名前を付けるのが、術者自身だからだ。人形に名前をつける。これが誰かの霊を求めたいのなら、その誰かの名前をつければいい。けれど、元々のぬいぐるみの名前をつければ、それはただ、そのぬいぐるみが呪物と化して動く、という結論となる。そして術者が自らの身体の一部をそのぬいぐるみに込めることの意味を考えれば、術者自身の写身ともなる。
    「つまり、どういうこと? ええと、術者の写身ってことは自分の生霊、みたいな?」
     智樹は整った眉をへの字に曲げる。考えてもわかるとは思えなかったから。
    「そう。意識してやれば、そうなるのかもな。つまりこの術式は極めて不完全なんだ。完全にパッケージングされていない」
    「不完全?」
     智樹には何が不なのかもよくわからない。
    「そう、何かの目的をもって行使するには、いくつかの変数を埋めなければならない」
    「目的って? サスリクヴァはいつも愉快犯じゃん」
     よくわからないときはオウム返しをするなとぼんやり考えた。
    「愉快犯的に、どんな効果を生むのか眺めてるんだよ、いつもどおりな。ひとりかくれんぼは使い勝手もいまいちだが、極めて汎用的で、その術式は知れ渡っている。だからこれで、人を殺せる。ひょっとしたら奈美子が乗せられて死ぬかもしれん。そんなわけこの企みを早々に潰す必要がある」
    「まぁ……いつものことだね」
     環にジロリと睨まれた智樹は、サスリクヴァだし奈美ちゃんは結局は動画を撮るだろうから、自分の責任じゃないんじゃないかなと呟いた。酷く面倒くさそうな環の様子に、智樹は漸く自身も巻き込まれたことを悟った。

     そうして翌日深夜。環は自身以外誰も知らない隠れ家にいた。ほんの小さな4畳半ほどの部屋だが、様々な結界によって外の世界とは隔絶した場所に存在する。部屋には今日のためにテレビを一台運び込んていた。中央に座る環の周囲にはたくさんの呪まじないを込めた石が配列に従って並んでいた。
    「そろそろだけど、大丈夫?」
    「まあ、気がすすまないけどね」
    「だ! 大丈夫です! この前と同じようにすればいいんですよね!」
     面倒くさそうな環のLINE通話から、やる気のない智樹とやる気に満ちた奈美子の声が響く。
     環の正面にはカメラがわりのタブレットが置かれ、その背面のカメラは現在もベリノイズのテレビを録画し続けている。根本的な解決には会いに行ってサシで話をつけるのも一つかもしれないが、サスリクヴァは一向に電子の海からでてこない。だから環に取れる対処は、同じく電子の海に浸かることだけだ。
     対処療法的にサスリクヴァと絡む時に環の使うユーザー名はBatrazバトラズという。これまたサスリクヴァと同様、この界隈ではすでに、それなりに人気の高い配信者だ。配信予告をしたのはたかだか六時間ほど前だが、今も千単位の人間が配信開始を見守っている。
    『サスリクヴァのひとりかくれんぼ検証』。
     それがこの実況のタイトル。茶番劇だなと環は独り言ちた。

     もうすぐ三時。
     三時になれば智樹と奈美子がひとりかくれんぼを行う。それからどうするか、実のところそれを環は決めかねていた。
     環は配信システムにマーケティングという名の課金をしていて、登録された視聴者のユーザー名、年齢や職業の目安などの属性を見ることができる。それによって対応を変えようと考えていた。
     一つ。サスリクヴァの魔法を再現し、危険性を示す。
     けれどもその方法ではナイフを持った神津之介が現れて、本来の目的を遂げられるとは結局のところ思えない。智樹や奈美子の様子をみても、危機感を覚えるよりは自ら呼び出したいと考える人間が増えそうで、本末転倒だ。それに万一刺されたら物理的に痛いじゃないか。
     二つ。サスリクヴァの魔法がトリックであることを示す。け
     れどもこれにはサスリクヴァ自身の協力が必要だ。ネットでは意見が対立したままでは解決にはならない。解決するにはサスリクヴァは自身がその意思を翻さなければ、結局何の解決にもならない。これが果たして可能なのだろうか。
     環はサスリクヴァが愉快犯であることに期待していた。環の認識ではサスリクヴァはインターネットという新しい媒体を用いる言霊使いの類だ。広範囲に影響を及ぼす新媒体を用いて常ならぬ現象を揺れ動かす。そうしてサスリクヴァはあの愉快そうな声音に隠れて、いつも冷徹に結果を観測している。

     環は事前に智樹に説明した内容を思い出しながら、サスリクヴァが何を目的に何を行ったかについて、既におおよそのあたりをつけていた。
     呪いが人に最も簡単に及ぼす効果は、心理的効果である。呪ったことを相手に告知する。それによって相手が自分が呪われていると認識すれば、そのこと自体によって対象は心を蝕み、次第に負が積み重なる。つまり病む。
     環は幽霊を見ることはない。環がサエコに憑いているものの本質と認識していたのは悪意やら不幸、呪いといった漠然としたもので、神津之介の姿ではなかった。一方で智樹がサエコに憑いたものとして認識したのはぬいぐるみの神津之介だ。それはその不可視の存在が神津之介の形を取っていたからだ。その意味するところが答えである。

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