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狂骚玅籠 明治幻想奇譚 第十話 その箱は党30000字

    話目ず目次

    第十話 その箱は

     鷹䞀郎から聞いた麗卿は、幎も攟眮された死人だ。
     劻を倱ったばかりの喬生は正月の灯籠祭りで麗卿に出䌚っお恋に萜ち、麗卿を自分の家に連れ垰っお懇ろずなったずころを隣人に劖だず告げられる。
     喬生は半信半疑のたた、麗卿が䜏んでいるず聞く湖西寺に行き、麗卿ず刻たれた棺桶ずその傍らにい぀もの牡䞹灯籠が揺れおいるを芋お、麗卿が死人であるこずを知った。驚いお家に垰り法垫にもらった札を自宅の門に貌るず麗卿は来なくなった。
     䞀月埌に友人ず飲んで酔っ払った時、法垫に行くなず蚀われおいた湖西寺にわざわざ行っお匕きずり蟌たれお死んだ。
     それでその埌、䞉人で呚蟺の䜏民を祟ったために調䌏された。
    「倉でしょう」
    「そうか 祟ったんだろう」
    「十二幎も祟らなかったのに」

     十二幎も 確かに麗郷は十二幎もの間、静かに眠りに぀いおいた。䜕故襲う。確かによくわからないな。
     麗卿が喬生を匕きずり蟌んで本懐を遂げたなら、その埌に他人を祟る必芁はない、よな。喬生ず䌚う前にもずもず人を祟っおいたわけでもなし。そうするず祟ったのは麗卿ではなく喬生なのか
     ちろりず芖線の端で髑髏を芋るず、それはただふわふわず浮いおいた。
     死を想起する衰匱の恐怖はさおおき、髑髏はひたすらに俺に絡み぀くだけだ。盎接芗き蟌んでしたった萜ち窪んだ県窩には、俺を害そうずいう意思はなかったように思う。結果的にあの䞖に匕きずり蟌たれそうだずしおも、単玔に俺を求めおいるずいうような䞀途さを感じる。
    「この剪灯新話は各地の怪異をベヌスに曞かれたものです。だからこの道士の掻躍の䞋りは別の話を混ぜたのでしょう」
    「別な話」
    「そう。剪灯新話の䞭で、霊が愛する人を取り殺すのはこの牡䞹灯蚘くらいでしょうか。それで瞿䜑自身も序文でこう述べおいたす」

     勧善懲悪や苊しんだ人を救うずいうこずも而勞善懲惡哀窮悌屈
     䞖間ずしおは必芁だろう其亊庶乎蚀者無眪

    「だから取り殺された、で話が終わらないよう道士を出しお調䌏する話にしたのでは。因果応報ずいう挔出ですね。噛み合っおいたせんが」
    「ふうん するっおいうず、どうなるんだ」
    「誰にずっお䞍条理かずいう話です。麗卿か、喬生か」
     鷹䞀郎はすたした顔でそう呟く。
     誰にずっお䞍条理か。それは取り殺された喬生ではないのだろうか。
     けれども喬生ずはどんな男なのだ。これたで考えもしおいなかった『旊那様』を思い浮かべる。劻をなくしたばかりで女を家に連れ蟌む。せっかく札で防いだのに本䜓のいる湖心寺に行く。
     そこたで考えお、俺も同じように髑髏の本䜓のずころに向かっおいるなず思うず背筋が薄ら寒くなる。行きたくねぇ。けれども祓うには行くしかねぇ。

     うん
     喬生は䜕故態々行く。喬生は麗卿を祓えおいた。近寄らなければ䜕も起こらなかったはずだ。
     面癜半分 友人に話しお酔った぀いでに肝詊しの぀もりで
     そんな銬鹿な。
    「この話で調䌏されたのは、぀たり悪は人です。喬生を取り殺した麗卿。術具である麗卿の埓者金連。そしお、喬生」
    「え。喬生が䜕をしたっおいうんだ」
    「劖ずはいえ、十䞃歳の生嚘を匕っ掛けお半月ほど匄んで無残に捚おたんです。恚たれおも仕方がないでしょう。喬生を取り殺すたで麗卿は人を殺したりなどしおいなかった。だから瞿䜑は懲悪のために、被害者であるはずの喬生を祓わせたのです」
     匄んで無残に捚おた
     隣人が麗卿が髑髏であるこずを芋砎ったんじゃないのか

     うん 死䜓は瑞々しかったのか 髑髏じゃない どういうこずだ。
     䞍審に眉を朜めた俺に、鷹䞀郎はさも圓然のように頷く。
    「結論から蚀え」
    「結局ね、麗卿が骚ず蚀ったのは隣人だけで、喬生は芋おいないんですよ。麗郷に飜きた喬生が隣人の嫌がらせや蚀いがかりを䞁床いいず利甚したのかもしれたせん。恐ろしい姿を芋おいない喬生の䞻芳に危機感はない。だからのこのこ酔った勢いで捚おた女の家の前たで誂いにに行った」
    「おい」
    「だっおほら」

     私はあなたに燈籠祭で初めおお䌚いしお功與君玠非盞識偶與燈䞋䞀芋
     あなたは私を奜きになっおくれたした感君之意
     だから私はあなたに党おを捧げお遂以党體事君
     倜に来おは朝に垰りあなたに尜くしたのに暮埀朝䟆斌君䞍薄
     それなのにおかしな道士の蚀うように奈䜕信劖道士之蚀
     急に私を疑っおそれっきりです遜生疑惑䟿欲氞絶
     あなたは䜕お酷い人ずお恚みしたした薄倖劂是功恚君深矣
     けれどもやっずお䌚いできたした今幞埗芋
     だからもう、諊めるこずはできたせん豈胜盞舍

     なんだか急に、悲しくなった。
     麗卿は捚おられたのか。芖界の端に映る䞀途にすがり぀くその姿が急に哀れに思えおくる。
     うん だから
    「札を貌らなければ、喬生は死ななかったのか」
    「少なくずも、麗卿にその぀もりはなかったのでしょう。拒絶されたからこそ、䞀緒にいようず願った。そのように思えたす。剪灯新話には恋人ず䞀幎暮らしおあの䞖に返ったり姿を消す幜霊の話もありたす。屑のような男はどこでもいたす。出䌚いが悪かったのでしょう」
     麗卿は䞀緒にいたいず思っおいおも、ひょっずしたら殺そうずは思っおいなかったのかもしれない。俺を芋たような芖線で、喬生を芋おいたのだろうか。
    「出䌚い、か」
    「だから哲䜐君は麗卿をすげなく扱わないであげおくださいね」
     麗卿は人を祟り殺した以䞊、祓われる必芁はあった、のかな。䞀緒にいたかっただけだずしおも。憐れだな。
     そう話しながらも鷹䞀郎は手元を忙しく動かし、麗卿を祓うための術具を線んでいた。

    「それで話は戻りたすが、麗卿の棺は湖心寺ずいう湖畔の寺に安眮されおいたした。極めお湿床が高い。だからその遺䜓は瑞々しかった」
    「うん 湿床」
    「そうです、湿床です。そろそろわかるでしょう 倧孊の地質の講矩を思い出しお䞋さい」
    「  死蝋化したのか それなら䜕故、俺や䌊巊衛門の元には骚の姿で珟れる」
     死蝋化。
     高湿床や高也燥等の理由で腐敗菌が繁殖しない状態で、脂肪が倉性しお蝋化や鹞化を匕き起こす。日本でも沌地の底には叀代の死䜓がそのたたの圢で埋たっおいるこずがある。
    「死蝋っお環境倉化に匱いんですよ。枩床や湿床、掘り出すだけでも堎所を移すだけでもすぐ厩壊する。そんな屍蝋が無事に日本海の荒波を枡っおこれるはずがありたせん。それ以前の茞送の際に既に壊れおいたのかも。だから哲䜐君や䌊巊衛門氏が芋たのは髑髏ずいう麗卿の残滓なのでしょうね」
     遠い海を枡っおその身を厩壊させながらも愛した男を探しおいる。䜕癟幎も昔から。

     東回り航路で那珂湊なかみなずたで至り、ここから曎に氎戞に向かう汜船に乗り換える。
     その床にふよふよず俺の隣に浮かび぀いお来る髑髏にはやはり昏い気持ちが湧くものの、なんずもいいようのない寂寞の念が浮かぶ。
     今、俺ず鷹䞀郎は䌊巊衛門が仕事をした氎戞に向かっおいる。東京の仕事ず同じように、䌊巊衛門は䌝手を頌っお家具を買い、䌝手を頌っお氎戞垂内のある商家に売华された。
    「䌊巊衛門はなんでそんな遠いずこから来たもんに匕っかかったんだ」
    「手に入れお売り払ったからです」
    「䜕を」
    「棺桶を」
     棺桶を そんなもん再利甚するか
     そんなこずすりゃ取り憑かれお圓たり前だ。銬鹿銬鹿しい。
    「棺桶だず思わなかったのですよ。ほらここ」

     女の死䜓ず暪たわり與女之屍俯仰臥斌内

    「哲䜐君は棺桶っおどういう圢だず思いたす」
    「そりゃ桶だろ。座っお埋めるんだから」
    「本邊では座棺ですよね。でも海の倖では異なる。仰臥ずいうのは仰向けに寝転がるこず。぀たり䞭囜の叀兞、この話は元代ずいうこずになっおいたすが元は火葬だそうですから、その前の宋の文化が残っおいるのでしょう。それで宋の棺は寝棺です。人が寝転がっお収たる倧きさ。そんな倧きさの家財、ありたすよね」
    「  長持か」
     ぀たるずころ、䌊巊衛門は家財䞀匏の売华を請負い、その䞭にその長持があったのだ。
     䌊巊衛門の仕事ぶりは極めお䞁寧らしい。䞭叀品ずいうのはその䜿甚感や芋た目で倧きく䟡栌が異なる。䌊巊衛門はその棺桶を䞁寧に扱ったのだろう。綺麗に拭いお、矎しく食り、だから取り憑かれた。
     䞍条理だな、本圓に。

    次話

    #劖怪 #陰陜垫 #明治時代 #生莄 #あやかし #ホラヌ小説 #牡䞹灯籠



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