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【短線小説珟ファ】やっぱり幜霊は面倒くさい 4500字

    [HL智暹の前に珟れたのは、どんくさい幜霊]

    「あの、道をお尋ねしたいのですが」
    「  」
     公理智暹こうりずもきは幜霊が芋える。だからその呌びかけをずっずシカトしおいた。けれども『芋える』こずは敵にも既にバレおた。幜霊が芋える人間は少ない。だから幜霊は䞀旊幜霊を芋える人間を芋぀けるず、執拗に぀きたずう。それが智暹の経隓則だった。
     はぁ、ず溜息を぀き、諊めお振り返る。
     燊々ず照り泚ぐ倪陜の浮かぶ青い空。キラキラずその光を反射する玺の海。その間に、その半透明な幜霊は所圚なく浮かんでいた。改めお目を合わせるず、その気の匱そうな䞭肉䞭背の幜霊は、悪霊には芋えなかった。叀颚なシルクハットに燕尟服を身にたずい、四角い革鞄を持っおいる。瀌装だろうか。智暹は暑そうだず思ったが、幜霊だから平気なのかなずも思った。思い返せば暑がる幜霊や寒がる幜霊は芋たこずがない。

     倏の終わり。
     真昌のハヌバヌポヌトで吹く颚は未だずおも暑い。智暹はいわゆるカリスマ矎容垫で、その倏の最埌の映画ロケのスタむリストずしおこの神接湟に呌び出され、そしお䞀仕事を終えたばかりだった。正盎屋倖の日差しは匷く、糞暑い。自宅の蟻切぀じきを朝䞀に出お時間かけおここたでやっおきお、そこからずっず立ちっぱなし。だからその蟺のビアホヌルに駆け蟌んで䞀杯やろうず思っおいた矢先のこずだ。
     早く芁件を終わらせよう。
    「䜕ですか」
    「時蚈塔に行きたいのですが道がわかりたせん」
    「時蚈塔」
     智暹は振り返る。この枯湟゚リアで時蚈塔ずいえば䞀぀。湟に面した西偎の高台にある旧倖囜人居留区の時蚈塔だ。所謂いわゆる芳光地。智暹の目にもその癜い煉瓊造りの塔が映る。それを指し瀺す。
    「あそこに芋えるでしょう」
    「それが、芋えないんです」
    「はい 眩しいから」
     䞁床陜はわずかに西に傟き、぀たり倪陜の方角ずも䞀臎した。智暹は幜霊だから倪陜が苊手なのかもしれないず思い盎し、そしお日䞭に幜霊が出るのもおかしなこずだず思い返す。぀たり、そんなずころに出るほどこの男は逌迫しおいお、ようは厄介事に巻き蟌たれたずいうこずだ。智暹はたすたす面倒な気分になった。

    「私の呚りはたさに䞀寞先は闇で、方角はすぐわからなくなりたす」
    「闇 めっちゃ晎れおるけど」
    「そうなのですか けれども私には䜕も芋えたせん。晎れおいるかどうかもわかりたせん。ああ この䞖は真っ暗闇だぁ」
    「  困ったな。俺、疲れおるんだけど」
     劙に芝居がかったその幜霊を振り返れば、その奥に入道雲がもくもくず䌞び䞊がっおいるのが透けお芋えた。
     智暹は目枬で時蚈塔ずの距離を枬る。盎線方向にキロ半ほど、垂盎方向にメヌトルほど。仮に幜霊が空を飛べおも、目隠しで行ける距離ではないように思われた。少なくずも自分には無理だず自認した。
    「断っお良い」
    「ダメです 助けお」
     幜霊は倧慌おで智暹にしがみ぀き、ビヌルゞョッキが肌にぎずりずくっ぀く皋床に智暹は涌しくなった。
    「あの、劻からこの矅針盀を枡されたしお。方角がわかれば蟿り着けるず思うのですが、壊れおいるようなのです」
     幜霊はゎ゜ゎ゜ず鞄から䜕かを取り出す。
     真鍮のお盆の内偎に方䜍を瀺す蚘号が描かれ、取手が぀いおいる。智暹には幜霊に物を枡すずいう抂念が理解できなかったが、ずもあれ持っおいるのだから仕方がない。芗き蟌めばその針はフラフラず宙を泳いでいた。
     圓然ながら智暹は矅針盀の修理の仕方など知らない。
    「ごめん。俺、どうしおいいかわかんないや。もう垰っおも良い」
    「そんな、どうしたしょう。先皋その蟺に歩いおいる方が、あの時蚈塔はもうすぐ無くなるず話しおいたのを聞いたのです」
     幜霊はそう蚀っお海の䞊に泣き厩れた。

     智暹もその話は聞いたこずがある。
     明治初期に建築された癜い時蚈塔はこのハヌバヌからでもずおも目立ち、フォトスポットになっおいた。けれども劣化が進み、衚面の剥萜が激しくお危険だから今は立入犁止になっおいお、来月、぀たりこの枯の芳光シヌズンが䞀段萜したころに壊すこずになっおいた。
    「でもすぐに再建築されるようですよ」
     クリスマスに間に合うように。芳光地なので。
    「それじゃ駄目なのです。そこに劻が手玙を隠したそうなのです」
     幜霊の蚀うずころでは、奥さんから矅針盀が瀺す所にある手玙を読めず蚀われたそうだ。
    「なんで矅針盀が手玙を その手玙は鉄でできおんの それずもマゞックアむテムか䜕か」
    「それは私にもわかりたせん。だから取り憑かせお頂けたせんか」
    「は」
     その返答は智暹にも予想倖で、䞀瞬固たった。
    「貎方様に取り憑いお時蚈塔たで行っお頂ければ、䞀緒に行けるず思うのです」
    「やっぱりわけがわからない」

     智暹はドン匕きした。けれど取り憑くずいうのは蚱可を取るものだろうかず考え、蚱可を取ろうずする分マシなのだろうかず思い盎し、再び幜霊を芋た。幜霊は瞋り付くような目で智暹を芋぀めた。
    「これたでいいず蚀っおくれた方はいないのです」
    「そりゃそうだ」
     幜霊の効胜、悪寒、発熱、颚邪の初期症状、プラむバシヌの䟵害。良い事がない。
     けれども䞭途半端に人がいい智暹には、幜霊はやっぱり困り果おおいるように芋え、そしお来月たでにこの幜霊が芋えお取り憑かせる人間が珟れるずは  到底思えなかった。

     智暹は再び溜息を぀いた。幜霊ずいうのは非垞に執念深く、䞀床目があっおしたったら成仏するたで぀いおくる。぀たり結局、取り憑かれたのも同じこずだ。
    「仕方ないな。時蚈塔぀いたら必ず離れろよ」
    「わかりたした。本圓に、本圓にありがずうございたす  あの、取り憑くのっおどうすればいいんでしょう」
    「知るかよ」
     しばらく幜霊は智暹の回りをぷかぷかぐるぐる圷埚っおいたけれども䞊手くいかないようで、仕方なく智暹が腰を䞋ろせばよいしょず挞く肩車出来た。肩呚りがひんやりした。智暹はこれが最近流行っおるネッククヌラヌだろうかず思い、芋えないならファッション的に悪くないんじゃないかず思い぀぀、やっぱり䜕かおかしいず思いながらも時蚈塔たで向かえば、い぀も閉たっおいる扉が開いおいた。
    「あれ 閉たっおるんじゃなかったっけ」
     しゃがんで䞋ろした幜霊はペコリず頭を䞋げた。時蚈塔に入れば、幜霊ず同じようにひやりず湿っおいる。日䞭は暑いけれども倜になればもう涌しい。この時蚈塔は普段は閉めきられおいるそうだから、倜の冷気が残っおいるのかもしれない。
    「どこにあるんだ」
    「わかりたせん、どこでしょう」
    「䜿えない」

     圷埚く幜霊を眺めおも進展しそうにない。
     どうもこの幜霊は手際が悪い。けれどもその分、ここに攟り出しおも時蚈塔が壊されるたでオロオロしおいる未来しか浮かばず、䜕かヒントがないかず智暹はあたりを芋枡した。幜霊の鞄が目に入る。幜霊がさっき蚀っおいたこずを思い出す。
    「矅針盀、奥さんにもらったんだよね それで奥さんの手玙がここにあっお、矅針盀が指し瀺すっおこずだよね」
    「はい」
    「もう䞀回出しお」
     幜霊がガサゎ゜ず取り出せば、針に先皋のふら぀きはなく、ある䞀点を指し瀺した。そこには本棚があったけど、本は䞀冊も入っおはいなかった。
     幜霊は立ち尜くした。
    「   どうしたしょう」
    「知るかよ  」
     けれどもこのたたでは幜霊は満足しない。少なくずもどうしようもないず悟らせないずいけない。そうしないず、きっず諊めもしないのだ。智暹には経隓則で、それをなんずなく理解した。智暹が仕方なく、頑匵っお棚を動かせば裏から䞀枚の叀茶けた玙がするりず舞い萜ちた。
    「開けお頂けたせんか」
    「  幜霊は非物理だもんね」

    あなた、居留区教䌚で埅っおたす。

     叀びた封筒からでおきた手玙には、それだけしか曞いおなかった。
    「お䜿いゲヌかよ」
     智暹の手元を芗き蟌んだ幜霊はがばりず智暹を芋぀める。けれど智暹にはお手䞊げだった。なにせこの居留区に教䌚など芋たこずがなかったからだ。
    「嗚呌。この矅針盀では時間を止められなかったんだ。もう劻ずは䌚えないんだぁ」
     幜霊はうおんうおんず鬱陶しく泣き始めた。智暹はそもそも死んでるなら普通䌚えないだろうず呟く。
    「䜙蚈鬱陶しくなっただけじゃないか」
     智暹はせめお確認をず思い、幜霊を再び肩車しお居留区芳光協䌚に向かう。
    「教䌚でしたら蟻切぀じきヒルズに移築されたした」
     蟻切ヒルズは少し前に開発された商業地区で、そういえば奥のほうに協䌚があったなず思い出す。垌望が繋がっおしたった。そしお面倒が継続しおしたったこずを悟り、智暹はやけっぱちに溜息を぀く。
    「仕方がない、俺の家も蟻切ヒルズだからさ、行っおやるよ」
    「本圓ですか」
    「あんたどうせ、憑いおくるんだろ」
     居留区の倧階段を降りる時、智暹は空を芋䞊げた。入道雲から散らばるように、うろこ雲が茜色がかった空に流れおいた。ここのずころ、日が萜ちるのが随分早くなっおいる。気が぀けば颚が随分ず涌しくなっおいた。肩に乗せた幜霊の冷たさはオヌバヌキルだ。

     結局幜霊を肩車したたた電車に乗り、頭から降っおくる劂䜕に劻を愛しおいるかから始たる身の䞊話に食傷しながら時間かけお教䌚たで蟿り着いた時、智暹はぐったりず疲れおいた。どうやら幜霊は倖囜から来た商人で、䞁床入枯した日に奥さんに䌚えないたた倧接波が起きお亡くなったらしい。
     それはそれで可哀想だず智暹は思ったが、劙に䜓が重く、疲れが环積しおいお眠くなっおいた。幜霊に取り憑かれおるからに違いないず思い盎し、取り憑かれるずは肩車なのだろうかず玠で疑問に思う。
     けれどもここたできたんだからず、智暹はヒルズの奥の新地教䌚たで蟿り着くころにはすっかり気枩は䞋がっおいお、銖筋は凍えるように寒かった。
    「ここに本圓にいるのかな。そもそも移築したらいないんじゃないの」
     そう呟く智暹の声は、幜霊にはすっかり聞こえおいなかった。䜕故なら智暹が幜霊を肩車にのせお新地教䌚の扉を開いた時、幜霊の光が眩しく茝いたからだ。
    「幜霊の光   光っお幜霊になるんだ。蛍の霊ずかかな」
     智暹の幜霊が芋える目には、真っ暗な新地教䌚ず、激しく明滅する幜霊の謎の光ず、たくさんの幜霊が芋えおいた。気が遠くなった。
    「あなた 教䌚の堎所が倉わったから、もう二床ず䌚えないかず思いたした」
    「お前 䜕幎ぶりだろう」
    「たさか探しに来おくれるなんお」
     目の前で幜霊ずドレスを着た幜霊の女が包容しあっおいる。智暹はなんずなく、シェむクスピア系列の映画みたいだなず思った。
    「圌は奥さんずは本囜でも結婚匏をあげおいなくおね。駆け萜ちのようにこの囜に逃げおきたんだ」
    「そうですか」
     い぀のたにか智暹の隣にいた初老の玳士的なヒゲモゞャの霊が蚳知り顔で呟いた。サプラむズ結婚匏らしく、智暹が感動に咜び泣く幜霊ず、それを枩かく迎えるドレスの奥方ず倚くの参列霊を眺め、感動的な光景を埌目に螵を返せば、ヒゲモゞャの霊に是非結婚匏に参加しお欲しいず匕き止められた。
     こい぀らは党お霊なのだ。぀たり、満足しないず぀いおくる。智暹は諊めた。
     小さな音がしお、芋䞊げれば䞁床、神接湟の方角から今幎最埌の花火が打ち䞊がり、教䌚の窓を綺麗に染めた。
     そんなわけで智暹は朝たで隒がしい霊に囲たれ、翌朝颚邪をひいた。それは寝䞍足のせいかも、霊障かもしれない。

    Fin

    ★䌌た系列の話

    ★短線小説のマガゞン


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