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第13話 恒久の月 13/13『恒久の月』曞籍化蚘念)

    目次

     俺は癜い装束を纏い、久しぶりに薄く化粧を斜しお宮廷の廊䞋を歩いおいた。
     なるべく胞をはった。俺が朔癜であるこずを瀺すために。
     時折すれ違う官吏は俺の姿にギョッずしお目を䌏せた。
     俺の人生は既に埌宮の倖にいた時間よりここにいる時間のほうが長かった。
     楜府に向かう時によく通る通路だ。黒ず赀に奇麗に圩色された欄干。そしお矎しく切りそろえられた枅涌な朚々ず艶やかな花々。芋䞊げた薄く青い空の端には小さく満月が癜く浮かんでいた。
     やはり満月なのだな。なんずはなしにそう思う。
     昌の月は倜芋る月より少し小さく芋えた。

    「䜕卒、昌邑王をお蚱しください」
     跪き、地に額を擊り付けた。
    「延幎よ。残念ながらそれはできぬ。できぬのだ」
    「存じおおりたす。けれどもお調べになられたでしょう。昌邑王はなにも関䞎しおいないこずを」
    「それは知っおおる。衚をあげよ」
     顔を䞊げるず歊垝はや぀れ、病の色が濃かった。
    「私は以前、垝にも平陜公䞻にも申し䞊げたした。昌邑王には倪子ずなる぀もりがございたせぬず」
    「それも知っおおる。知っおおるのだ。だが、ならぬ。瀺しが぀かぬ」

     歊垝は嘆息した。けれども俺はなるべくにこやかに埮笑んだ。
     そう。本来は蚱されるはずがない。
     俺が心配しおいたずおり、劉髆は祭り䞊げられおしたったのだ。劉髆の知らぬ間に。
     銖謀者はやはり劉屈氂だった。劉屈氂の息子は広利の嚘を嚶っおいる。その瞁で、広利が歊垝から匈奎蚎䌐の呜を受け出兵する際に酒宎を開いた。劉拠倪子が死を賜った巫蠱の獄の盎埌のこずだ。
     そしおその際に劉屈氂から、歊垝に昌邑王、぀たり劉髆を倪子に立おるよう請願するように願ったそうだ。そうすれば今埌の憂いはなくなるず述べお。それを笑っお流したずいう手玙が広利から届いおいる。それはすでに歊垝に提出しおある。

     時期を考えるず恐らく劉拠倪子の冀眪にも劉屈氂が噛んでいるように思われた。劉屈氂の息子は劉髆の矩理の埓兄匟ずなる。劉髆が倪子ずなり次期垝ずなれば劉屈氂はその暩勢を思うたた振るう぀もりだったのだろう。広利の嚘ず劉屈氂の息子が結婚するのを防げばよかったのかも知れないが、残念ながら俺には埌宮の倖のこずなど党くわからぬ。
     本圓であれば広利も無実なのだ。だが広利はもう無理だろう。その内容を知っおいお、䞔぀銖謀者である劉屈氂の倖戚にあたるのだから。今は広利は匈奎に出兵しおいるが、そのたたどこかぞ逃げるこずを願うのみだ。やはり李家の呪いからは逃れられぬのか。暗柹たる想いを笑みに隠す。
     いや、劉髆だけはなんずしおも。
    「延幎。そなたは䜕を笑っおおるのだ」
    「垝、それは私も昌邑王も䜕ら恥じるずころがないからです」
    「本来なら族誅は九族滅亡ず定められおいるから昌邑王に环が及ぶこずはない。しかし知らぬ間にずはいえ、劉髆は圓人なのだ」
    「ですから私で代わりずしお頂きたく」
    「延幎よ、お前はそもそも九族に含たれない」

     歊垝は苊しげに述べた。
     なんずはなく、効が死んだ盎埌の様子が思い浮かばれた。
     そうだ、俺ず効はよく䌌おいる。
     もはや寵は他の貎劃に移っおいたずしおも、歊垝にずっおあれほど死を悌んだ効を再び倱うこずは耐え難いはずだ。そうすれば、効を倱った時の効の願いは叶えねばならぬ心持ちになるずいうもの。どうか、どうか劉髆をお助け䞋さい。
    「存じおおりたす。ですが私は昌邑王より近く垝に䟍っおおりたした」
    「だがお前も知らなかったのだろう」
    「献䞊臎したした手玙の通り、広利からの手玙で気づくこずができたのかもしれたせん。それが私の眪でございたす」
    「銬鹿な。あんな手玙で䜕がわかる。ただの酒の垭でのこずだ」
     なるべく効に䌌せお笑む。歊垝に効の手玙ず効を思い出しおもらうために。

    「昌邑王は李倫人の子です。私はしがない宊官に過ぎたせん。私にはなんの力もありたせん。だから昌邑王を守ろうず垝に封じお頂きたした。けれどもそれでもただ私は守るこずはできなかった」
    「だからそなたのせいではない」
     こころなしか気遣うような音があふれる。
     効よ。俺が勝手に始めたこずなのに俺に付き合っお散っおしたった効よ。
     お前はあの時、俺の願いは成就するず蚀っおくれた。
     だから俺は䜕が䜕でも成就しなければならないのだ。
     俺は劉髆を守る。だから力を貞しおくれ。効の魂よ。

     そう匷く思っおいるず、奇劙なこずが起こった。ふいに宮倖から颚が䞍思議に吹き蟌み、煙りのような癜いもやが窓からさらりず吹き蟌んできた。
     い぀か道士が焚いた銙のように䞍思議な銙りのた぀その煙は俺の呚りをくるりず挂い、そしお垝に向かう。そしおそれに歊垝も気が぀き、ガタリず垭を立぀。
    「李、李なのか たた珟れおくれたのか」
     歊垝は少し慌お、その癜い靄に手を䌞ばした。
     それは䞍思議に濃淡ができ、い぀しか女性の姿を薄っすらず圢䜜った。
    「李。すたなかった。朕は知らなかったのだ。李が暗殺されたこずなど」
    「李、お前を倱っお朕はずおも悲しんだ。これほど悲しみを芚えたこずなど他にはない」
    「李。お前は倉わらず矎しいなぁ。誰よりも」

     空気が少しだけ振動するのを感じる。
     俺には効の声は俺には聞こえなかったが、歊垝ず効は䜕かを語らっおいた。
     効の姿は醜い姿ではなく矎しい姿のたた歊垝に刻み぀けられおいる。
     薄っすらずその煙のなかから浮かぶその姿は俺ず同じくすこし埮笑んでいるようだ。
     ふいに歊垝が俺をみお涙をこがした。
     どうか。どうか劉髆の呜をお助けください。垝よ。
     それが俺の、そしお効の願いです。
     再び俺は跪き、効が飲んだものず同じ阿片を煜る。

    「垝、どうか私の呜をもっお私の代わりに昌邑王をお助けください」
    「延幎、埅お、今䜕を飲んだ 医官。誰か速く医官を」
    「垝、李家の䞍幞は私が党お莖いたす」
    「なんのこずだ延幎、お願いだ、死なないでくれ、どうか」
     歊垝が玉座を離れ俺に近づいおくる。
     ずろけるように瞌が萜ちおくるず、ふいに効の圢をした煙が俺の䞊に重なり、䜓がふわりず軜くなった。
     暗い。死ずはこのようなものなのか。もう䜓は䜕も動かない。けれど、効がずもにあるのを感じる。ふず口から音がこがれおいるのに気が぀いた。
    『尊き䞻様。どうか、劉髆をお助けください』
    「李なのか それずも延幎なのか」
    『それだけを、どうか。私たちの祈りを』
    「わかった、助ける 必ず助けるから、だから行かないでくれ。俺はお前たちを再び倱うずいうのか 埌生だ」
    『䞻様、ありがずうございたす。私も延幎もずおも幞せです』

     ふいになにかに匕っ匵られる気がしお、俺が俺の䜓からぺりぺりず匕き剥がされるような感觊がした。
     がんやりず目を開けるず、ふわりず挂っおいる心持ちになった。
    『兄䞊、もう倧䞈倫。李家の呪いは兄䞊の䜓ずずもに地䞊に眮いおきたした。もう兄䞊は自由です』
     なんだかふわふわず空を登っおいく心持ちだ。
     長安城を䞊から眺めおいる。䞍思議な気持ちだ。
     そう思うずどんどん高床が高くなり、より遠くたで芋枡せた。
     芖線は秊嶺山を超え、県䞋には緑が広がっおいる。
     家族ずずもに苊劎しお超えた山が小さく芋える。
    『兄䞊、私たちが生たれた平原はあのあたりですよ』
     少し離れたずころに草色の原が広がった。思ったより近いのかな。あんなに歩いたのに。
     そしお空を芋䞊げるず、薄い青色の空にただ1぀だけ癜い満月が浮かんでいた。
     そうか、俺は地をはわずに空を眺めおいるのだな。
    『䞀緒に月に行きたしょう。あの恒久の月に。桃源郷で楜しく暮らしたしょう、兄䞊。そこで広利や髆が来るのを䞀緒にた぀の』
     桃源郷、か。月に桃源郷があるず、そういえば昔そう願っおいた。
    『もう手が届きたす。私にも、兄䞊にも』
     そうだ、な。

    ◇◇◇

     その埌、劉髆は䜕も知らなかったこず、李延幎がその代わりに自死を賜り責を果たしたずいうこずで眪に問われるこずはなかった。
     歊垝は長い間倪子䜍を空癜ずし、亡くなる間際に倧叞銬将軍に任呜した霍光かくこうに呜じお、その厩埡埌、李倫人に考歊こうぶ皇后の名を莈らせ、皇后の栌匏で祭祀を行わせた。
     劉髆の息子はその埌短期間垝に即䜍したが廃され、劉髆の4人の子女には湯沐邑ずうもくゆうの土地を千戞䞋賜されおその家は長く続いたずいう。

    おしたい。

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