
【短編小説(SS)】 ある蝉の一生 1500字
[HL:みーんみーん(ものすごくやる気のない話です)]
※最後にセミの抜け殻の写真があるので、苦手な人は注意。
その日は待ちに待った羽化の日だった。苦節7年、いやそれ以上の長きを土中でじっと耐え難きを耐え、偲び難きを偲んで漸くたどり着いた地上。吾輩は目の前の木をうんとこしょどっこいしょと登って一息感慨を吐き、最後の力を込めて背中を割り破って随分と久しぶりに外の空気というものに触れた。
「良き哉」
さわさわと柔らかく全身を撫でる風は爽やかで、じりじりと全身を焦がすように陽光が突き刺さる。生まれた直後に幼虫として歩いたしっとりした地面を僅かに思い出したけれど、それとは全く異なる鮮やかさ。
そうしてしばらく世界を感じ、よし羽ばたくぞとピカピカな自慢の羽を広げて反り返った瞬間、目が合った。地面に横たわる蝉と。
……。
蝉の一生は長く短い。
そんな言葉が脳裏をよぎったが、気を取り直して飛び立とうとしたとき。
「おい、若いの」
喘鳴のようにも聞こえるジッという音に、力がそがれた。
「若いのといってもせいぜい7日程度でしょう」
吾輩の体からもミミンと音が鳴る。
「それはそうだが、いずれお前もこうなるのだ」
なんて嫌なことを言うやつだ。考えないようにしてたのに。小便でもかけてやろうか。
「まあ聞け、わしも7日前はそう考えておった。しかしわしは地上に出られなかったのだ……」
「出てるじゃん」
「今はな」
その歯にものが詰まった表現にいい加減イライラしてきたが、その蝉からどこか悲壮な空気が漂っていて、放って行けば悪いことをした気分になりそうで、先が短いのにそんな気分で過ごすのもなんか嫌だ。そう思っているうちに地面の蝉は何やら語りだしていた。
「わしが世界に出ようとしたら、世界は固い蓋に覆われていたのだ。それからわしは……」
語尾をすぼめる蝉の音に、吾輩は小さくため息をついた。話の先は想像がつく。
こういうやからは何故無駄にマイナス方向に思い込むのだろう。そしてそれを他蝉に伝染させようとするのだろう。本当に嫌だ。思えば土中もそうだった。
「あなたはどうせ、その固い覆いがあって出られなかった。そして出られるまで7日かかったとかどうせそういうことでしょう?」
「な、何故わかる」
「それならあなたにとって地上はせいぜい1日目、なわけだ」
ぐぬぬとでも聞こえそうな音にやはりかと思う。土中の蝉は他に世界がない。この地上で7日たったら死ぬというのも土中で広まっているが、吾輩は耳を傾けなかった。そんなことを気にしても仕方がないし、吾輩はせっかくならば楽しく過ごしたいのだ。
「あなたは羽化できてるじゃないですか。今からでも蝉生を謳歌すればいいのです」
「だからわしは7日」
「45日ほどでしょうか。私が羽化しようと思ってから」
「……何?」
そう、吾輩が羽化しようと思い、土から出ようとして蓋に気づいたのは、その程度前だろう。地の温度変化の数を数えていたから。肝心の蓋は多少つついてはみたもののびくともしない。それで必死で土中を泳いで切れ目を探し、漸く外に出られたのだ。そうして横たわる蝉の隣に、吾輩と同じく這い出てきたと思しき穴がある。
「あなたの仰る通り、蝉というものは地上に出たら短命なのでしょう。けれど私は折角羽化しました。ですから人生を謳歌しようと思います。私にできるのですからあなたにもできるのでは?」
地面の蝉はジッと低い音を立てる。そうして僅かに羽をバタつかせる。
「わしにもできるだろうか」
「知りませんよそんなこと」
土台、未来がどうなどとわからないのだ。見ていればその蝉は次第と羽の動きを加速させ、ずっと怠けていたのかフラフラと低空にぶつかるように回転し、飛び込んできた猫に食われた。
「……あんな目立つところに転がってるからだよ」
地上というのはただでさえ目立つのだ。そうして吾輩も人生を謳歌しようと飛び立ち、烏に食われた。諸行無常とはこのことである。
Fin
途中で疑問に思って調べたところ(何故調べた)、蝉が地上で7日で死ぬと決まったわけではなく、環境やらなにやらで長生きできないようです。逆に羽化しないまま地中にいるなら案外長生きするみたいですね。何か月も羽化できるタイミングを見計らうことがあるるらしい。統計調査をみたわけではないので本当かはわからないが。
そんなわけで途中で話が変わって変な話になった。

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