
第46話 「今どこにいるか」が分かると、迷い方が変わる。
第三章|骨格を見る目
― 仕事の現在地と、戻れる場所を持つ
前回は、仕事と仕事のあいだにある「境界」を見てみました。
加工から測定へ、
測定から検査へ、
見積から受注へ、
一つの仕事が終わり、次の仕事へ渡るところには、見えにくい境界があります。
何を渡すのか。
誰が受け取るのか。
どこまで確認できていれば、次へ進んでよいのか。
そこが曖昧になると、仕事は途中で迷子になってしまうことがあります。
では、仕事の途中で迷ったとき、私たちは何を手がかりにすればよいのでしょうか。
今回は、 「今どこにいるのか」 ということを考えてみたいと思います。
例えば、加工の途中で、別の仕事に呼ばれたとします。
加工をいったん止め、別の用件に対応する。
そして、しばらくしてから、元の仕事へ戻ってくる。
そんなことは、小さな工場では珍しくありません。
でも、戻ってきたとき、 「あれ、どこまで進めたんだっけ」 と思うことがあります。
材料の確認は終わっていた。
治具の取り付けも終わっていた。
加工条件も入力した。
でも、最後に確認したのは何だっただろう。
加工はどこまで進んでいたのだろう。
ここで困るのは、次に何をするかが分からないことだけではありません。
何を確認済みで、何がまだ確認できていないのか。
そこが分からなくなることです。
例えば、 「加工条件は入力した」 ということと、
「入力した加工条件を確認した」 ということは、同じではありません。
「測定した」 ということと、
「測定結果を確認して、次へ進めると判断した」
ということも、同じではありません。
仕事がどこまで進んだかを知るには、
何をしたのかだけでなく、何を確認し、どこまで判断できたのか、も見なければならないのだと思います。
私は、仕事にも「現在地」があると考えています。
例えば、旅行に出かけたとき。
目的地が分かっていても、自分が今どこにいるのか分からなければ、次にどちらへ進めばよいか迷ってしまいます。
反対に、現在地が分かれば、目的地までの道筋を考え直すことができます。
仕事も、少し似ているのかもしれません。
ただし、仕事の現在地は、単純に「何割終わったか」ではありません。
⚫︎どの工程にいるのか。
⚫︎何が終わったのか。
⚫︎何が確認できたのか。
⚫︎何がまだ残っているのか。
⚫︎どこで止まっているのか。
そうしたことを合わせて、初めて現在地が見えてきます。
もう一つ、こんな場面があります。
見積の途中で、客先から追加の連絡が入ったとします。
数量が変わった。
納期が変わった。
図面の一部が変更された。
このとき、ただ新しい情報を受け取るだけでは、仕事をそのまま進められないことがあります。
⚫︎すでに確認した条件のうち、何がそのまま使えるのか。
⚫︎どの計算をやり直す必要があるのか。
⚫︎加工できるという判断は、変わらないのか。
⚫︎納期は守れるのか。
一度進んだ仕事でも、条件が変われば、確認する場所へ戻る必要があります。
つまり、
仕事は、いつも前へ進むだけではありません。
戻ることもあります。
確かめ直すこともあります。
一度止めて、別の判断を待つこともあります。
それでも、今どこにいるかが分かっていれば、必要なところから考え直すことができます。
ここで、少し問いを置いてみます。
□ 今、自分は仕事のどの段階にいるのだろう。
□ ここまでに、何が終わっているのだろう。
□ 何を確認できていて、何が未確認なのだろう。
□ 今、仕事が止まっているとしたら、その理由は何だろう。
□ 条件が変わったとき、どこまで戻って確認すればよいのだろう。
□ 次に進むために、何を確かめる必要があるのだろう。
こうした問いを置いてみると、 「仕事が進まない」
という一つの困りごとが、少しずつ分かれてきます。
⚫︎材料がそろっていないのか。
⚫︎図面の確認が終わっていないのか。
⚫︎加工方法が決まっていないのか。
⚫︎測定結果を待っているのか。
⚫︎誰かの判断が必要なのか。
困っている場所が違えば、必要な対応も違います。
もちろん、現在地が分かったからといって、すべての問題が解決するわけではありません。
材料がなければ、加工はできません。
設備に異常があれば、安全を確認せずに進むわけにはいきません。
客先への確認が必要なら、回答を待たなければならないこともあります。
でも、
⚫︎何が問題なのか。
⚫︎どこで止まっているのか。
⚫︎何がそろえば再開できるのか。
それが分かっていれば、ただ漠然と困っている状態とは違います。
迷いがなくなるのではなく、迷っている場所が分かる。
私は、ここに意味があるように思います。
この現在地は、本人の頭の中だけにあっても十分とは限りません。
小さな工場では、一人がいくつもの仕事を抱えることがあります。
急ぎの仕事が入る。
担当者が休む。
設備が止まる。
予定していた順番が変わる。
そんなとき、仕事の現在地を本人しか知らなければ、周囲の人は簡単には引き継げません。
⚫︎何が終わっているのか。
⚫︎どこで止まっているのか。
⚫︎次に何を確認すればよいのか。
必要な情報が、記録や工程管理表などで分かるようになっていれば、別の人も現在地を確かめやすくなります。
ただし、記録があるだけでは足りません。
実際の仕事の動きと、記録された現在地が一致していること。
そこが大切なのだと思います。
以前の私は、
仕事の流れを考えるとき、どう進めればよいかに目が向きがちでした。
でも最近は、
途中で分からなくなったとき、どこへ戻れるのか。
そこにも目を向けたいと思うようになりました。
順調なときは、仕事は自然に流れていきます。
⚫︎問題が起きたとき。
⚫︎条件が変わったとき。
⚫︎誰かに引き継ぐとき。
⚫︎久しぶりに同じ仕事をするとき。
そんなときに、現在地を確かめられることが役に立ちます。
仕事の流れを見えるようにするのは、前へ進むためだけではないのかもしれません。
迷ったときに戻れる場所を持つためでもある。
そんな気がしています。
•第43話では、仕事の名前を外してみました。
•第44話では、入口と出口を見ました。
•第45話では、仕事と仕事のあいだにある境界を見ました。
⚫︎そして今回は、仕事の途中にある現在地を見てみました。
少しずつですが、仕事の奥にある骨格が見えてきたように思います。
ただ、現在地が分かっても、もう一つ大切なことが残っています。
それは、 「ここから次へ進んでもよいのだろうか」
という判断です。
加工条件を確認した。
測定も終わった。
必要な記録もそろった。
では、本当に次へ進んでよいのか。
その判断は、何を根拠にすればよいのでしょうか。
次は、
次へ進んでいいのは、どんなときだろう。
そんなことを、もう少し考えてみたいと思います。
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