
第3話:四万十の夜の宴と、山奥の異空間「海洋堂ホビー館」
秘境の宿「寿荘」へ到着、そして至福のクールダウン
時計の針が16時を回った頃、過酷なダートを下りきり、ようやく本日のベースキャンプ「寿荘」に到着した。
猛暑の中を走り抜き、身体は汗でドロドロ。R100GSの巨大な空冷エンジンもチンチンに熱を持っていた。人もバイクも限界ギリギリで、とにかくすぐにでも冷ましたかった。
部屋に案内されるなり重いバックパックを下ろし、着ているライディングギアや衣類をすべて脱ぎ捨てて、まずは火照りきった身体を涼ませる。ようやく人心地ついたところで温泉へと向かい、ライディングの汗と疲労をさっぱりと洗い流して至福の夕食タイムを待った。




手長えびとロゼワイン、お母さんとの語らい
待ちに待った夕食。テーブルに並んだ瞬間に一番に目を奪われたのは、立派な「手長えび」だ。さらに美しい焼き目のついたアマゴ、山の幸をふんだんに使った山菜料理など、四万十の恵みを感じる地元の食材ばかりがずらりと並ぶ。
乾いた喉に流し込むキンキンに冷えたビールが、言葉にならないほど格別に美味い。さらに、道中の道の駅で買っておいたロゼワインも抜栓した。バックパックの中に氷を入れ、大切に冷やしながら運んできた甲斐があった。
食事をしながら、宿のお母さんと話に花が咲く。聞けば、先日も東京から若い子が一人で訪れたらしく、都会暮らしに疲れた若い世代が全国から癒やしを求めてやってくるという。もちろんバイク乗りのグループも多いが、やはりあの激坂ダートは鬼門らしく、「この前もカワサキの大型バイクが坂で転倒しちゃってねえ」と教えてくれた。無事にたどり着くこと自体がハードルになっている宿なのだ。
夜が更け、川を流れる音を聞きながら静かに箸を進める。清流の歌い手である「カジカガエル」のBGMを期待していたが、連日の異常な猛暑で川の水温が高くなりすぎたせいか、この日は鳴かなかった。それでも、豊かな川の音色と極上の食事は、日常の喧騒を完全に忘れさせてくれる最高に贅沢な時間だった。
四万十の朝と、気合の「登りダート」



翌朝。ひんやりとした山の空気が心地よく、昨日の疲労はすっかり抜けていた。
パニアケースに荷物を詰め込み、R100GSのエンジンに火を入れる。お母さんに別れを告げて出発するが、いきなり気を抜けないミッションが待ち構えている。昨日冷や汗をかきながら下ってきた、あの「軽トラギリギリの急なダート路」を今度は登らなければならないのだ。昨晩聞いた「カワサキの転倒」が頭をよぎる。
満載の荷物で重量を増したGS。途中で止まれば再発進は困難を極める。一呼吸おいてアクセルを開け、エンジン音とトラクションの感覚だけに全神経を集中させて一気に舗装路まで駆け上がった。ふぅ、と息を吐き出す。朝から最高のアドベンチャーだ。
映画好きの血が騒ぐ、圧倒的な造形と「本物」のプロップ
無事に本道へ復帰し、四万十の緑深いワインディングを快調に流していく。しばらく山奥へ向かって走ると、突如として廃校を改築した「海洋堂ホビー館四万十」が姿を現した。

一歩館内に足を踏み入れると、そこにはエヴァンゲリオンや恐竜など、世界に誇るフィギュアやジオラマが所狭しと並んでいた。普段からデスクに向かってスケールモデルを作り込んでいる身として、目の前の造形がどれほどの情熱で生み出されたものかが痛いほど伝わってくる。
だが、映画好きの自分が何より惹きつけられ、釘付けになったのは『ジュラシック・パーク』や『ザ・フライ』の撮影で実際に使われた「本物」のプロップ(小道具)たちだ。周りの見学者たちは誰一人として見向きもしていなかったが(笑)、かつてスクリーンの中で見ていたあの本物が今、自分の目の前にある。その事実に一人でひたすら感動してしまった。大自然を駆け抜ける無骨なツーリングの途中で、ヘルメットを脱いだ大の大人がすっかり童心に返り、時間を忘れてガラスケースにへばりついていた。







後ろ髪を引かれながら、次なる目的地へ
心行くまで造形美と「本物」の迫力を堪能し、大満足でホビー館を後にする。
外に出ると、夏の太陽は随分と高くなり、気温もグッと上がっていた。圧倒的な熱量からインスピレーションをたっぷりと受け取った後は、再びGSとともに走りの時間だ。エンジンを唸らせ、四国のさらに深い場所へと向けて山を駆け下りていった。