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【創作】アカリウム深層 新種発見|カエリミチウオ

    ※本作は創作です。

    アカリウム深層で、新種発見。
    未知の深海生物を1体、報告します。

    企画はこちら


    カエリミチウオ


    カエリミチウオは、深海探査艇が調査を終え、帰還を開始したあとにだけ現れる魚である。

    行きの潜航中に確認された記録は一件もない。

    必ず、帰り道で現れる。

    体は細長く半透明で、深海灯の光を受けると、白い膜のようにぼんやり浮かぶ。

    頭部に眼はなく、口らしき器官も見当たらない。

    その代わり、尾の先にだけ、発光する二つの眼球がある。

    前を見ないまま泳ぎ、尾の先の眼だけで、ずっと探査艇を見ている。

    調査員のあいだでは、

    「こちらを見ながら帰り道を案内する魚」

    として知られていた。

    カエリミチウオが最初に確認される深度は、毎回ほぼ一致していた。

    海底から42メートル上。

    海域が違っても、海底地形が違っても、それだけは変わらなかった。

    研究チームは当初、海底付近を回遊する習性を持つ種ではないかと考えていた。

    だが、その仮説は、チャレンジャー海淵での第十四次調査で崩れた。

    既知の最深部は、水深10,935メートル。

    その日、探査艇は海底で採泥を終え、浮上を開始した。

    そして10,893メートルで、いつものようにカエリミチウオが現れた。

    海底から42メートル上。

    艇長は、いつもどおりその魚の進路を追った。

    ところが、その個体は上へ向かわなかった。

    ゆっくりと、下へ泳ぎ始めた。

    記録映像には、暗い海の中を進む細長い魚体と、その尾の眼だけが残っている。

    眼は二つとも、ずっと探査艇を見ていた。

    深度計の記録。

    10,900m
    10,912m
    10,928m
    10,935m

    その時点で、操縦士が声を上げている。

    「海底だ」

    だが、前方ライトには何も映らなかった。

    底は来ない。

    黒い水ばかりが続いていた。

    魚は止まらない。

    10,948m
    10,961m
    10,970m

    艇内音声には、短い沈黙のあと、もう一度だけ記録が残っている。

    「まだ下がある」

    画像
    最終記録「DEPTH 10,977m」

    最後に送信された深度は、10,977メートル。

    既知の海底より、42メートル深い。

    カエリミチウオが現れたのは、海底の42メートル上。

    最後の通信は、海底の42メートル下。

    そこで映像は途切れた。

    探査艇は、まだ帰っていない。

    この記録を受けて、報告書の一文だけが、原文のまま復元された。

    「本種は、42メートル手前まで迎えに来る」


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    創作やエッセイを中心に、日々感じたことや物語を書いています。 人や組織、選択、関係性をテーマに、考えたことを言葉にしています。 掲載している内容は、個人の創作・見解によるものです。 実在する人物・団体とは関係ありません。

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