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10年前、金曜日が嫌いだった。

    10年前、金曜日が嫌いだった。

    世の中の人にとって、金曜日は楽しみな日なのかもしれない。

    明日は休み。

    一週間の仕事が終わった。

    でも、私にとっては違った。

    10年前、年間のスケジュールと、今動かさなければならない仕事の調整に追われていた。

    目の前の仕事を優先すれば、年間計画が遅れる。

    年間計画を守ろうとすれば、今動いている仕事がずれてくる。

    ひとつずれると、ほかの仕事にも影響が出る。

    しかし、年度末は待ってくれない。

    だから金曜日は、翌週の段取りを組み直す日だった。

    これを先に進めると、あちらが遅れる。

    では、どうするか。

    考えて、調整して、また考える。

    朝7時から、夜11時まで。

    毎週金曜日は、そんな一日だった。

    仕事を終えても、家まではまだ2時間。

    電車に乗ると、お酒の匂いがプンプンした。

    酔っ払った人がいた。

    飲んで帰る人。

    仕事をして帰る私。

    同じ金曜日なのに、ずいぶん違う。

    いいなぁ。

    そんなことを思っていた。

    別に、お酒が飲みたかったわけではない。

    では、何が羨ましかったのだろう。

    あの頃、平日に休みを取って、家族旅行に出かけたことがある。

    せっかくの旅行だった。

    ところが、仕事の電話がかかってくる。

    一本終われば、また一本。

    結局、20件くらいかかってきた。

    電話の対応だけで、合計2時間ほど。

    とうとう妻に怒られた。

    「いい加減にして」

    今思えば、もっともだ。

    家族と旅行に来ているのに、私は仕事をしていた。

    休みを取っても、仕事はついてきた。

    あの金曜日の電車。

    酔っ払った人を見て、いいなぁと思った。

    あの人にも、仕事で大変なことはあっただろう。

    でも、少なくともあの夜は、仕事から離れているように見えた。

    それが羨ましかったのかもしれない。

    あれから10年。

    今になって思う。

    あの頃の私は、仕事を終わらせることばかり考えていた。

    仕事は終わらせていた。

    でも、仕事からは帰れていなかった。

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    『立ち止まったところから。』

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    創作やエッセイを中心に、日々感じたことや物語を書いています。 人や組織、選択、関係性をテーマに、考えたことを言葉にしています。 掲載している内容は、個人の創作・見解によるものです。 実在する人物・団体とは関係ありません。

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