
【人生の栞】ページをめくれば、風が吹く ― 曾祖父のルーツと、娘たちと重ねた空
こんにちは、てるてるです。
私の曾祖父は、とても穏やかで優しい人でした。
小学生の頃、両親が共働きだった私をよく学校まで迎えに来てくれました。
寄り道したスーパーでお昼ご飯と好きなお菓子を買い、曾祖父と過ごすのんびりとした土曜日。
中学生になっても曾祖父の家を訪ねていましたが、彼の書斎に並ぶ膨大な本や、新聞の切り抜きが整然と貼られたスクラップブックについて、深く考えることはありませんでした。
一通の戸籍が残した、静かな問い
その「問い」が私の胸に生まれたのは、曾祖父が亡くなり、遺品整理で何気なく一通の戸籍を手にした時でした。
「出生地、韓国」
文字を二度見する私と驚く母の横で、曾祖父の娘である祖母だけが「うーん、そんな気も…」と曖昧に呟きました。
仕事を求めて海を渡ってきたこと以外、詳しい過去は誰も知りませんでした。
穏やかに笑っていた曾祖父の奥にあった、私の知らないルーツ。
「なぜ、彼は自分の生い立ちを多く語らなかったのだろう」
「あの静かな書斎で、どんな思いで時代を見つめていたのだろう」
ふと浮かんだその疑問は、私の中で消えることなく静かに潜み続けました。
時が流れるにつれ、世界で文化や歴史を巡る分断のニュースを目にする機会が増えていきました。
そのたび、あの問いは、冷めない余熱のように胸の底にとどまり、やがて「知ることから逃げてはいけない」という静かな決意へと変わっていったのです。
疑問から始まった、歴史という生きた学び
私は曾祖父の生年月日から、当時の日韓の歴史を調べるようになりました。
疑問から始まったその学びは、私の世界を大きく押し広げました。
教科書のインクでしかなかった歴史が、曾祖父の生きた息づかいと重なり、私自身の身体を巡る「温度を持った物語」として響き始めたのです。
久しぶりにひらいたあのスクラップブックの余白には、自らを語らなかった曾祖父が静かに時代と向き合い続けた足跡が、熱い吐息のような記憶となって、確かな体温をもって遺されていました。
娘たちと渡った海、曾祖父の空の下へ
一通の戸籍から曾祖父のルーツを知ってから、10年。
ずっと胸の奥に灯り続けていた問いに背中を押されるようにして、この夏、ひとつの旅が叶いました。
10年の時を超えて果たす曾祖父の里帰りと、私自身のルーツをたどる旅です。
私は胸ポケットに曾祖父の写真を忍ばせ、幼い娘ふたりを連れて韓国へ旅立ちました。
飛行機を降り、見上げた空。活気あふれる街の匂い、すれ違う人々の温かな言葉。
その風に触れた瞬間、胸の奥で何かが静かにほどけていくのを感じました。
かつて曾祖父が歩んだかもしれない街を、今、私の娘たちが楽しそうに手を繋いで歩いている。
あの日、一通の戸籍から生まれた小さな疑問は、歴史を学ぶ扉となり、そして、私と子どもたちを新たな世界へと連れ出してくれました。
「おじいちゃん、ここがあなたの故郷なんだね」
心の中で語りかけながら、私は娘たちの小さな手を強く握りしめました。
曾祖父が遺してくれた深い学びの栞は、これからも私たちの人生のページを、どこまでも優しくひもとき続けてくれるのだと思います。