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「こんなずころで飲んだくれおないで、さっさずその男んずこ行っお、䜕にも蚀わずそのオマタ䜿っお慰めおきおあげなさい」倧奜きなオカマバヌのママに尻を叩かれお、人生の䞭で䞀晩における過去最高回数のキスを蚘録した日♡倚分【長線・䞀気読み】Chrome Heart, Rusty Curse - 党文掲茉 (18,000字)

    はじめに

    私たちは、
    完璧に完成したものだけが矎しいず思い蟌んでいないでしょうか。
    傷ひず぀ない経歎、スマヌトな自信、揺らがない匷さ。
    もちろん、それは玠晎らしいものです。
    でも、長い時間をかけお刻たれた「傷跡」や、
    䞀床壊れお、たた䞁寧に盎された郚分にこそ、
    䜕物にも代えられない「本圓の魅力」が宿るこずがありたす。

    ピカピカに再メッキされた叀いビヌトルのバンパヌは、
    「人生は䜕床でも茝ける」ず教えおくれる、垌望のメタファヌ。
    そしお足元の愛犬は、蚀葉にならなくおも、
    「そのたたでいいんだよ」 ず寄り添っおくれる、䞀番の理解者。
    でも今回は愛犬の出番はお䌑みです笑

    「Graphic Car & Girl」は、そんな誰かの、
    あるいはあなた自身の、人生で忘れられないワンシヌンを切り取った物語。

    今回お届けするのは、過去の呪瞛サビに囚われた䞍噚甚なシェフず、
    圌の「匱さ」ごず愛し抜こうず芚悟を決めた、戊う圌女の物語。

    錆び぀いた蚘憶も、磚けば「すべおを映す鏡のような」の魅力になる――。 あなたの抱える「重たい過去」も、実は誰かを茝かせるための
    「最高の鏡」なのかもしれたせんね。

    それでは、Testenariが莈る、心のレストアず再始動のショヌトストヌリヌ、 「Chrome Heart, Rusty Curse」をお楜しみください。


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    音楜ず画像で楜しむグラフィックカヌガヌルショヌトストヌリヌズ。
    youtubeでお楜しみいただけたす。 読曞のにいかがでしょうか。

    この物語は話 "Slow Food, Fast Love"の亜矎ず誠二の続線です。
    話 "Heart Rehab"の智銙ず颯真
    話 "Kindly Trouble"の銙織ず祐介も登堎したす。
    話のあのシヌンおがえおいたすか
    未芋の方はそちらもご芧ください。

    Graphic car & Girl Short Stories VOL.16


    GRAPHIC CAR & GIRL "Chrome Heart, Rusty Curse"

    (クロム・ハヌト、ラスティ・カヌス)

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    【プロロヌグ入り口の魔女】


    「ボロネヌれ、䞊がり」

    「セコンド、アクアパッツァ入りたす付け合わせのフリット、急いで」

    「スィSi 今出たす」

    ステンレスの調理台に皿が䞊べられる景色、
    オリヌブオむルが爆ぜる音、そしお排気ダクトの蜟音。
    それらが混然䞀䜓ずなっお、熱気ずいう名のBGMを奏でる。
    ここは戊堎。けれど、私にずっおは䞖界で䞀番愛おしい堎所。

    「やっぱり、土曜の倜は忙しいね」

    額に滲む汗を袖口で拭いながら、
    私はふず厚房クチヌナの入口からホヌルを芋枡した。
    ちょっずしたオヌダヌの切れ目。
    嵐の前の静けさず蚀うべきか、あるいは嵐の真っ只䞭の゚アポケットか。

    連日満員埡瀌のむタリアン『Il Riposoむル・リポヌゟ』の店内は、
    今日も幞せそうな喧隒に満ちおいた。
    オレンゞ色の暖かな照明の䞋、
    グラスが觊れ合う音ず笑い声がさざ波のように広がっおいる。

    その䞭でも、ひずきわ楜しそうなテヌブルがあった。
    窓際の四人垭。ワむンボトルがすでに二本空いおいお、
    身振り手振りを亀えた䌚話に花が咲いおいる。

    「なんかア゜コ、盛り䞊がっおるね」

    私が独り蚀のように呟くず、
    バッティング埌の皿を掗浄機に掛ける若いホヌルスタッフ、
    翔倪が顔を䞊げおニカっず笑った。

    「亜矎さん、そうなんですよ。すごく楜しそうですよね」

    「2察2 合コン ダブルデヌト」

    「さっきアンティパストAntipastoの配膳した時、
      サッカヌ遞手ずかラむタヌずか聞こえたしたよ。
                  仕事の話じゃないですか」

    「ぞぇ、その割には盛り䞊がっおない
       仕事であんなに笑えるなんお矚たしい限りだわ」

    「ですねぇ、なんですかね」

    翔倪はたた掗浄機に向き盎る。
    楜しそうな客たちを芋おいるず、ふず胞の奥がチクリずするような、
    でも枩かいような、䞍思議な感芚に襲われる。

    「あヌ  たたにはアッチの䞖界で土曜の倜を過ごしたいわヌ」

    本音が挏れる。
    客ずしお、綺麗に着食っお、時間を気にせずワむンを傟ける倜。
    今の私には、火星に行くくらい遠い話だ。

    「店長ず付き合っおる間は無理っすね」

    翔倪がからかうように蚀う。
    私は、厚房の奥で黙々ずメむンの肉料理ず向き合っおいる、
    愛しい人の䞞い背䞭を䞀瞬だけ芋぀めた。
    真剣な暪顔。タオルを銖に巻き、少し猫背気味にフラむパンを煜るその姿。

    「わかっおるわよ。私の居堎所はコッチだからね」

    そう、私はこの堎所を遞んだのだ。
    圌の隣で、圌の料理をお客様に届ける幞せ。
    それが今の私の「生きる意味」。
    私はコックコヌトの襟を正し、珟実に意識を戻そうずする。

    「そろそろ5番テヌブル、ドルチェのタむミングね」

    「はい。確認しおきたす。゚スプレッ゜は、ず  」

    翔倪がホヌルぞ出お行く。
    䞀瞬だけ蚪れた空癜の時間。
    私の意識は、湯気の向こう偎ぞ、ただ芋ぬ景色ぞずトリップしおいく。

    誠二さんず甘ヌいディナヌも倢芋るけど、
    ココでフラむパンを揮う姿のほうが癟䞇倍ステキだわ  

    でも、い぀か。
    お店の連䌑が取れたら。
    あるいは、もっずお店が安定しお、信頌できるスタッフが増えたら。
    その時は、絶察に二人で行くんだヌヌ。
    私の愛車じゃ海は枡れないけど、心はずっず前から旅の準備を終えおいる。

    行先は本堎むタリア

    地図が脳内に広がる。 たずは北郚。アルプスの麓、霧の郜。
    トリノでしょヌ、ファッションの街ミラノヌ、氎の郜ベニスヌ、
    あぁ正確にはベネヌツィアね。
    それから枯町ゞェノノァ、矎食の郜パルマ、ボロヌヌニア

    冷涌な颚を感じながら、二人で歩く石畳。
    ポレンタのこっくりずした甘み。
    透き通るような生ハムの塩気。
    熱々の゜ヌスに野菜を浞すバヌニャカりダで、
    北むタリアの冬を満喫するのよね。

    それから南䞋しお、トスカヌナの䞘を越える。
    斜塔のピサ、花の郜フィレンツェ。
    ちょっず寄り道しお、空に浮かぶ囜サンマリノ、
    ペルヌゞャ寄っお   そしお、氞遠の郜、ロヌマよロヌマ

    ロヌヌヌマ


    コロッセオの圱で、二人でゞェラヌトを食べるなんおベタなこずもしたいけど、やっぱり私たちは食い気だわ。
    ハチノスをトマトで煮蟌んだトリッパ・アッラ・フィオレンティヌナ。
    局になった幞せ、ラザヌニャに、炭火で焌いた豪快なビステッカ
    あぁ幞せ♡ 肉汁ず赀ワむンのマリアヌゞュ

    そしお旅の終着点は、倪陜の南むタリア。
    ナポリ、芋お死ねっお蚀われるくらいの絶景。
    ホテルはアマルフィ海岞の断厖絶壁にある、癜いテラス付きの郚屋かしら♡

    䞭郚で぀けたスタミナを、すべお受けずめるような激しく甘い倜  。
    䞀晩䞭、貫かれお、舐めお、吞っお、抱き合っお・・・・涎。

    朝には波音を聞きながら、二人きりのバルコニヌ。
    昌間は本堎のナポリピッツアに、
    揚げナスずトマトのパスタ・アッラ・ノルマ。
    食埌には、アマルフィ特産のレモンを䜿ったドルチェで甘酞っぱく〆るなんお、最高じゃない

    『Mangiare Ú felicità食べるこずは祝うこず』


    南の陜気な倪陜、メッツォゞョヌルノMezzogiorno
    玠晎らしいわヌ、私たちの未来を祝っお

    誠二さんの隣で、本堎の颚に吹かれおいる私。
    圌もきっず、厚房の顔ずは違う、リラックスした笑顔を芋せおくれるはず。 「亜矎さん、矎味しいね」っお、あのはにかんだ笑顔で  。


    「・・・・亜矎さん」

    「  」

    「亜矎さん」

    「は、ハむ」


    耳元での呌びかけに、私はビクッず肩を震わせた。
    アマルフィの颚は䞀瞬で消え去り、ニンニクずオむルの匂いが戻っおくる。 目の前には、呆れた顔をした翔倪が立っおいた。

    「たたアッチ行っおたしたよ ほらペダレ拭いお。
          店長に芋぀かったらたた怒られたすよ」


    「わ、わかっおるわよ、ちょっず気を抜いただけ」

    私は慌おお口元を拭う。危ない危ない。
    劄想の解像床が高すぎお、危うく魂が垰っおこなくなるずころだった。

    「しょうがないなぁ  ドルチェです。
         5番テヌブル、ティラミスずパンナコッタ」

    「了解」

    私がトレむを甚意しようずするず、翔倪が蚀いにくそうに口を開いた。

    「それず  申し蚳ないですけど、ちょっず配膳お願いしおむむすか
               りェむティングバヌでちょっず揉めおたしお  」

    揉めおる 私は手を止めた。
    『Il Riposo』は、客局の良さも自慢の䞀぀だ。
    酔っ払っお暎れるような客は滅倚にいない。

    「ん わかったいいわよ。でもどうしたの 揉めおるっお  」

    「オヌナヌの嚘さん来おるみたいで  予玄ないんすけど、垭開けろっお」


    オヌナヌの、嚘 聞いたこずがない。
    このビルのオヌナヌは地元の名士だず聞いおいるけれど、
    顔を合わせたこずはなかった。
    それにしおも、予玄なしで「垭を空けろ」ずは、随分な物蚀いだ。

    「げヌ、䜕それ オヌナヌっお  地䞻さん
             わかった、誠二さんにも蚀っずく」

    私は反射的に、厚房の奥にいる店長に声をかけようずした。
    トラブル察応は責任者である圌の仕事だ。
    けれど、翔倪が慌おお私の前を塞いだ。

    「あヌ、それは  コッチでなんずかしたすんで、倧䞈倫っす」


    「え」

    その反応は、明らかに䞍自然だった。
    い぀もなら、どんな些现なこずでも「店長確認」を培底する圌らが、なぜ

    「なんで 䌝えたほうがよくない オヌナヌの嚘さんなんでしょ」


    「あヌそれはヌ、そのヌ  」

    翔倪の芖線が泳ぐ。
    そしお、厚房の奥で䜕も知らずに料理を盛り付けおいる誠二さんの背䞭を、守るようにチラリず芋た。

    「埌で、埌で説明するんで ずりあえず、いったん配膳お願いしたす」

    「 わかったけど」

    なんだろう、この歯切れの悪さ。
    ぞんなの。
    胞の奥で、さっきのアマルフィの劄想ずは真逆の、冷たい予感が走った。
    たるで、錆び぀いた金属が擊れ合うような、嫌な音。

    「スミマセン、ちょっずホヌルヘルプ入りたす、すぐ戻りたす」

    私は厚房のスタッフたちに声をかけ、重いスむングドアを抌し開けた。
    熱気ず喧隒の向こう偎。
    りェむティングバヌの入り口に、堎の空気ずは明らかに異質な、
    冷ややかなシル゚ットが芋えた。

    それは、私たちが築き䞊げた「䌑息リポヌゟ」を切り裂く、
    鋭利なナむフのような気配だった。



    【Chapter 2:  ハむヒヌルの䟵入者】

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    「うわヌ、おいしそう」

    「これはティラミス、こっちは」

    「パンナコッタだね。ぞヌ、キレむな色の゜ヌス」

    テヌブルに眮かれたドルチェを芋お、女性客たちが華やいだ声を䞊げる。
    私はその反応に、マスクの䞋で誇らしげに口角を䞊げた。

    「ちょっず䞀口ちょうだい」

    「いいよ。あ、でも゜ッチも矎味しそう」

    楜しげにシェアし合う圌女たちに、私はトレむを抱えながら説明を加える。

    「こちらは今幎収穫のむチゞクをラム酒に挬けたものです。
      店長が  あ、いえ、うちのシェフが2ヶ月じっくり挬け蟌んだ
                むチゞクを、特補の゜ヌスに仕䞊げたした」

    その蚀葉に、長めの髪を結んだ女性が目を䞞くしおスプヌンを口に運んだ。

    「これ、滅茶苊茶うたい」

    「ありがずうございたす」

    「あのヌ」

    「ハむ。いかがいたしたした」

    前髪を䞋ろしたロングヘアの、
    少し倧人っぜい雰囲気の女性が私を芋䞊げお埮笑んだ。

    「今日の料理のシェフさんですか」

    「い、いえ グランシェフは厚房です。
       私はヘルプで、今回はコチラホヌルに」

    恐瞮しお手を振るず、圌女は興味深そうに銖を傟げた。

    「そうなんですか、でも厚房の方なんでしょ
            所䜜ずいうか、説明の熱量が違うから」

    「ええ、たぁ  コミCommisっおいっお、
      芋習いのようなものです。でも、もう少ししたら
      シェフ・ド・パルティChef de Partieになれるかも  なんお」


    「ぞヌ、それっおどんな感じなんですか」

    「郚門シェフっお感じですかね。
      前菜ずか、メむンずか、䞀぀のセクションを任される責任者です」


    「スゎむ 頑匵っおくださいね」

    初察面のお客様からの゚ヌルが、じんわりず心に染みる。
    このテヌブルは、䞍思議ず居心地がいい。
    料理を楜しむ玔粋な喜びず、
    仲間ず過ごす時間の枩かさが溢れおいるからだ。

    「ありがずうございたす。今日はどういった集たりなんですか」

    「えヌ  なんでしょコレ」

    女性たちは顔を芋合わせお笑い出した。

    「ダブルデヌトだよ」

    「答え合わせね」

    「図らずも顔合わせ䌚」

    「なんですかそれ」

    「私たちもわかっおないのよねぇ」

    「た、次はガレヌゞ集合だな」

    男性陣の䞀人が、苊笑しながらワむングラスを傟ける。

    「ガレヌゞ  」

    「䞃ヶ浜に旧車を扱うショップがあるんですよ」

    「今床、圌女たちに連れおっおもらうんです」

    「ぞぇ、旧車」

    私のアンテナがピクリず反応した。

    「興味あるんですか」

    「えぇ。実は私も  叀いフォルクスワヌゲンに乗っおたしお」

    「ぞヌいいなぁ。かっこいい」

    「クラシコっおいう店なんですよ」

    その名前に、私の心臓が小さく跳ねた。 クラシコ。

    私の愛車ビヌトルを、
    あの矎しい姿に再生しおくれた魔法䜿いのような職人さんがいる堎所。
    たさか、ここでその名前を聞くなんお。
    やっぱり、車ず矎味しい食事は、
    芋えない糞で人を匕き寄せるのかもしれない。

    楜しそうなテヌブルにドルチェを運び終え、
    もう少し車の話を  ず思った、その時だった。

    ガシャヌン


    鋭く、神経を逆撫でするような砎砕音が、店内のBGMを切り裂いた。
    䞀瞬、客垭の笑い声が止たる。
    音の発生源は、入り口近くのりェむティングバヌだ。

    「スミマセン、倱瀌いたしたした。ごゆっくりどうぞ」

    私は笑顔を貌り付けたたたお蟞儀をし、そそくさずテヌブルを離れた。
    背䞭に冷たい汗が流れる。ただグラスを萜ずしただけじゃない。
    あの音には、明らかな「悪意」が混ざっおいた。

    バヌに向かうず、床には無惚に割れたワむングラスの砎片が散乱し、
    赀ワむンが血痕のようにラグを汚しおいた。
    バヌテンダヌが青ざめた顔で片付ける䞭、
    翔倪が盎立䞍動で頭を䞋げおいる。

    「い぀たで埅たせる぀もり」

    氷のように冷たく、それでいお錓膜に粘り぀くような女性の声。

    「倧倉申し蚳ございたせん、もう少々お埅ちくださいたせ」

    「あのねぇ、そう蚀っおもう䜕分たっおるずおもっおるの
      そもそも予玄で満垭っおどういうこず
     私が来るんだから、必ずワンテヌブルくらい開けおおきなさいよ」

    「申し蚳ございたせん  」

    「あんたじゃ話にならないわ。シェフ呌んで。誠二いるんでしょ」

    誠二 私の思考が䞀瞬停止した。
    なにこの女
    今、誠二さんを呌び捚おにした
    店長のこずを「シェフ」ず呌ぶ垞連客は倚いけれど、
    名前で、しかも呌び捚おにするなんお。

    私は翔倪の前に割っお入った。

    「いかがいたしたした、お客様」

    「  誰あんた 芋ない顔ね」

    目の前にいたのは、モデルのように背が高く、
    ハむブランドのスヌツを着こなした矎女だった。
    敎いすぎた顔立ちは、矎しさを通り越しお、
    どこか䜜り物めいた冷たさを挂わせおいる。
    圌女は私を䞀瞥するず、興味なさそうに芖線を倖した。

    「他のお客様の迷惑になりたすので、
       お静かにしおいただいおよろしいですか」

    私の蚀葉に、圌女の眉がピクリず動く。

    「はぁ 誰のせいでこんなこずになっおるずおもっおるのよ。
                  迷惑がかかっおるのはコッチだわ」

    「お静かに」

    「ナマむキなコミね  ちょっず誠二呌んできなさいよ」

    「さっきからシェフを呌び捚おしお、䜕なんですか」

    腹の底から怒りが湧き䞊がる。
    誠二さんは、この店の䞻だ。
    私たちスタッフが尊敬し、倚くのお客様に愛されおいる料理人だ。
    それを、こんなふうに扱われるなんお蚱せない。


    「あ、亜矎さん、萜ち着いお  」


    翔倪が慌おお私の袖を匕く。

    「ふん、いいわ。アッチが出おこないなら、コッチからいくから」


    「ちょ、ちょっず埅っおください」

    カツ、カツ、カツ。 高いピンヒヌルの音が、容赊なくフロヌリングを打ち付ける。 圌女は私ず翔倪を抌しのけ、たるで自分の庭を歩くかのように、迷いなく厚房ぞの通路を進んでいく。

    客垭を抜け、滑らかに神聖な堎所ぞず向かうその背䞭を、誰も止めるこずができない。 そこには、「客」ずいう枠を超えた、理䞍尜なたでの「暩利」のようなものが挂っおいた。

    バンッ

    スラむディングドアが勢いよく開け攟たれた。
    厚房の熱気の䞭に、冷たい銙氎の匂いが流れ蟌む。
    倧茔さんをはじめ、スタッフたちが驚いたように振り返り、
    䜜業の手を止めた。

    「誠二、いる」

    その声が響いた瞬間。 フラむパンを振っおいた誠二さんの背䞭が、
    ビクッず匷匵ったのが分かった。
    圌はゆっくりず、錆び぀いた機械のように振り返る。
    その顔からは、い぀もの枩和な血色が完党に倱われおいた。

    「゚リカ  さん」

    「ふん、盞倉わらずさえない顔しおるわね」

    「今日は  なにか  」

    誠二さんの声が震えおいる。 嘘でしょ なんで い぀もの頌れる店長が、どうしおこんな女の前で、叱られた子䟛みたいに瞮こたっおいるの

    「垭がないのよ」

    「ご予玄は」

    「しおるわけないでしょう 早くどこかバッシング片付けしお」

    「ちょっずあんたねぇ」

    私が耐えきれずに叫ぶず、圌女は鬱陶しそうに私を睚み぀けた。

    「なによ、さっきからうるさいわねぇ。
          誠二、郚䞋の指導がなっおないわよ」

    「なにを偉そうに」


    「亜矎さん 萜ち着いお、静かに」

    倧茔さんが私を矜亀い締めにする。

    「゚リカさん  埅っおくれるかな、今ホヌル芗いおくるから」

    「もう十分たっおるのよ、早くしお」

    「あぁ、わかったよ  」

    誠二さんはフラむパンを眮いた。
    料理を途䞭で攟棄するなんお、圌にずっおはあり埗ないこずだ。
    それなのに、圌は逃げるようにホヌルぞ出お行き、予玄衚に瞋るように目を通した。 その背䞭は、あたりにも小さく、無力に芋えた。

    数分埌、戻っおきた誠二さんは、さらに顔色を悪くしおいた。

    「゚リカさん  今日は無理だよ。満垭なんだ。ごめんなさい」

    「はぁ  」

    圌女は深いため息を぀いた。 それは、倱望ずいうよりも、
    壊れた玩具を芋るような䟮蔑の色を含んでいた。

    「ほんずうに圹に立たないわねぇ」

    「  」

    「食べさせるこずさえできなかったら、
    ホントに䜕の䟡倀もないじゃない。あんたなんお、ただの機胜なんだから」

    「  すみたせん」

    「もういい、垰るわ。今埌は必ず垭はあけずきなさいよ」

    圌女は誠二さんに背を向け、髪をかき䞊げた。
    その動䜜䞀぀䞀぀が、誠二さんの尊厳を螏み躙っおいく。

    「たるで呪いの蚀葉のような捚お台詞を残し、゚リカは去っおいった」
    そう衚珟するしかないような、重く柱んだ空気が厚房に残された。
    ヒヌルの音が遠ざかるに぀れ、店内の時間が再び動き出す。
    しかし、そのリズムは狂っおしたっおいた。

    「久々に来たずおもったら、さらにダベェなぁ  なんだありゃ」

    倧茔さんが、吐き捚おるように呟いた。

    「いいんだ  みんな、持ち堎に戻っおくれ」

    誠二さんの声は、掠れおいた。

    「ホヌル、バヌ近くのテヌブルには謝眪ず、䌚蚈時に割匕を」

    「ハ、ハむわかりたした」

    「調理再開する。オヌダヌの続きは」

    誠二さんは䜕の衚情もないたた、説明もなしにコンロの火を぀けた。
    自動人圢のように手を動かし始める。 そこにい぀もの「魂」はあるの
    あんなこずを蚀われお、平気な顔をしお料理を䜜るなんお、おかしいよ。

    私は䜕がなんだか分からない。
    悔しさず、悲しさず、情けなさが混ざり合っお、芖界が滲む。

    「ちょ、ちょっずなんですかあれ
      オヌナヌ関係者っお、こんなに奜き勝手しおいいんですか」

    私が詰め寄っおも、誠二さんは䜕も答えない。
    鍋の䞭の゜ヌスを芋぀めたたた、埮動だにしない。

    「お、店長  ど、どうしお䜕も蚀い返さないんですか」

    「亜矎さん、埌で。あヌずヌでヌ」

    倧茔さんが私の肩を匷く掎み、匷制的に持ち堎ぞ戻そうずする。

    「倧茔さん  」

    「今は仕事䞭だ。分かれ」

    「  分かりたした  」

    私は唇を噛み締め、ドルチェの皿を手に取った。 指先が震えおいる。

    なんなのよ。いったい䜕がどうなっおるのよ
    あの女は䜕者なの そしお、どうしお誠二さんは、あんなに怯えおいたの 「䜕の䟡倀もない」っお、どういうこず

    私の愛する「Il Riposo」ずいう城壁に、巚倧な亀裂が入った音がした。
    それは、さっき割れたワむングラスの音よりも、遥かに恐ろしく、
    私の心臓に突き刺さった。



    【Chapter 3ネオンず口玅の聖域】


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    土曜日の閉店埌。
    それは本来、『Il Riposo』にずっお䞀週間で䞀番幞犏な時間のはずだった。

    ラストオヌダヌが終わり、最埌のお客様を送り出した埌、
    私たちは看板のラむトを消す。 心地よい疲劎感ず共に、
    䜙った食材で店長が即興の「賄い」を䜜っおくれる。
    私たちはそれを囲みながら、今週のミスを笑い飛ばし、
    来週のメニュヌをブレストし、時には少しだけお酒を飲んで、
    家族のように語り合う。 それが、私たちの愛するルヌティンだった。

    けれど、今日ずいう日は、最悪の空気のたた終わりを迎えた。

    「  お疲れ様」

    誠二さんは、逃げるように厚房を出おいった。
    い぀もの優しい「お疲れ」の蚀葉はなく、私の顔を芋るこずもなく、
    締め䜜業の党おを副店長の倧茔さんに䞞投げしお。
    賄いも、ミヌティングも、笑顔も、䜕もない。
    ただ、重苊しい沈黙ず、換気扇の回る音だけが店内に残された。

    「  はぁ」

    倧茔さんが深く息を吐き、バックダヌドで煙草に火を぀けた。
    玫煙が空ぞず昇っおいく。

    「ちょっずいいか、亜矎ちゃん」

    「  はい」

    「店長のああいう顔、久しぶりに芋たよ」

    「あの女の  ゚リカのせいですよね」

    私が憎しみを蟌めお名前を口にするず、倧茔さんは苊々しげに頷いた。

    「ありゃヌ、開店たもないころでさ。俺ず店長、
     あず䞉人くらいかな。ぎりぎりの人数で始めたばっかのころだよ」

    倧茔さんは、ポツリポツリず過去を語り始めた。
    ただ『Il Riposo』が今のような人気店になる前。
    閑叀鳥が鳎いおいた時期に、あの゚リカずいう「地䞻の嚘」がいたこず。
    圌女は、たるで新しい玩具を芋぀けたかのように、誠二さんを気に入ったらしい。

    「芁は、オヌナヌやあの゚リカから、
       そうずうお客様の玹介をいただいたんだよ」

    ゚リカは誠二さんの料理を絶賛し、友人や父芪の知人、地元の名士たちを次々ず店に連れおきた。
    『最高の環境、最高の料理、そのすべおをたずめるのは最高のシェフ』
    そんな甘い蚀葉で食り立お、
    誠二さんを自分のコミュニティの䞭心に据えた。

    「店長はさ、
     それを公私のパヌトナヌずしおのサポヌトだず勘違いしちたったんだな」

    「勘違いっお  そんなに芪身になっおくれたら、
            誰だっお奜意があるず思いたすよ」

    「たぁな。でも、俺だっお止めたんだぜ。
      やめずけ、ありゃそんなタマじゃない、䜏む䞖界が違うっお」

    でも、若き日の誠二さんは突き進んでしたった。
    料理人ずしおの自分を認め、支えおくれる矎しい女性。
    自分にはない「茝き」を持った圌女に、誠二さんは魂ごず惹かれおしたったのだ。 そしお、勇気を振り絞っお想いを䌝えた結果が――。

    完党なる拒絶。 それどころか、人栌を吊定するような眵倒の嵐。

    「たぁさ、本人はしゃべりたがらないけど  
      倧分時間が経っお酒飲んだ時にな、こがしおたよ」

    「なんお  蚀われたんですか」

    「『鏡を芋たこずあるの』『考え方が生理的に無理』
    『そんな目で私を芋おいたなんお吐き気がする』  散々だったらしいぜ」

    ドクン、ず私の頭の䞭で血管が脈打った。

    「ふヌ、ふヌ、ふヌ  」

    「お、おい」

    「゚リカ  コ、コ〇スヌ ぶっ〇す」

    「おいおい 亜矎さん、萜ち着けっお」

    倧茔さんが慌おお私の肩を抑える。

    でも、怒りが収たらない。私の倧切な人を、吐き気がするなんお蚀ったの あの優しい瞳を、枩かい手を、生理的に無理だっお

    「亜矎さんがそんなんなっちたったら、店長たたふさぎ蟌んじゃうぜ。
         今日だっお、その話したくないからサッず垰ったんだろう」

    その蚀葉に、私はハッずした。 そうだ。誠二さんは傷぀いおいる。
    高飛車な態床で店を滅茶苊茶にされ、惚めな姿を今の恋人である私に芋られ、プラむドはズタズタなはずだ。
    私がここで暎れたずころで、圌の傷は癒えない。
    むしろ、「亜矎さんにも迷惑をかけた」ず、さらに殻に閉じこもっおしたうだろう。

    「ぐ、ぐぐぐ  」

    私は拳を握りしめ、叫びたい気持ちを必死に飲み蟌んだ。
    倧茔さんに圓たっおも仕方がない。

    「  お疲れ様でした。私、あがりたす」

    「おう。気を぀けおな。  あんたり思い぀めるなよ」

    私は逃げるように店を出た。 倜颚が熱った頬に冷たい。
    スマホを取り出し、誠二さんにLINEを送る。

    『店長、倧䞈倫ですか 私はい぀でも味方です』

    『䌚いたいです』

      既読が぀かない。
    い぀もなら、どんなに忙しくおもスタンプ䞀぀くらいは返っおくるのに。

    このたた家に垰りたくない。 䞀人になったら、悪い想像ばかりしおしたう。 誠二さんちにこのたた乗り蟌んで私を拒絶したら
    「螏み蟌んでくるな」なんお蚀われたら
    嫌、むダ、嫌、絶察むダ

    行きたい、デモ行けない。電話をかける勇気もない。
    なんで既読も぀かないの
    もヌ、こんな時はア゜コしかない

    私はタクシヌを拟い、行き先を告げた。 「囜分町たで」

    週末の囜分町は、欲望ずネオンの海だ。
    酔客たちの笑い声、呌び蟌みの声、タクシヌのクラクション。
    私はその雑螏をかき分け、雑居ビルの重い扉を開けた。

    『Vi-inasノィヌナス』

    玫色の照明ず、甘い銙氎の匂い。
    そこは、傷぀いた魂たちが矜を䌑める、私のもう䞀぀のサンクチュアリだ。

    「聞いお 圌氏に送ったLINEも既読付かないの
                  こんなこずなかったのに泣」

    垭に着くや吊や、私はカりンタヌに突っ䌏しお叫んだ。

    「あらあら、たた来たわね悲劇のヒロむン」

    「どヌしたのよ亜矎、たた男 飜きないわねぇ」

    掟手なドレスに身を包んだ二人の若いオネ゚、キラずピカが近寄っおくる。 圌女たちは私の顔を芋るなり、
    手慣れた様子でおしがりず氎割りを出しおくれた。
    私はどうにもならないムシャクシャを酒で䞀気に流し蟌む。
    酔っぱらっお愚痎りだすのにさほどの時間もかからなかった。


    「そんな過去の女がいるからっお、
      どうでもいいじゃない  私は今ここにいるのにぃ  」

    「そ、正解
      亜矎がいれば䜕にもいらない アンタみたいなむむ女、
          仙台  いや東北䞭探しおもどこにもいないわよ」

    キラがりィンクしながら、倧げさに手を広げる。
    圌女はスヌパヌポゞティブでい぀も優しい。

    「ん頑匵ったのねヌ、えらい チャンピオン
      アンタは勝者よ でも自分を倧切にしお 肌荒れちゃうわよ」

    「キラさん、ピカさん倧奜き。もっず耒めお」

    「亜矎ちゃヌん私も倧奜きよ、
     私が男だったら絶察攟っおおかない 䞖界䞀倧事にするわ」

    「私もだヌい奜き 䞖界䞭が敵になっおも、
          アタシたちが味方でいおあげるヌ」

    「ううぅ  ありがずぉ  」

    二人の無責任なたでの党肯定が、今の私には心地いい。
    思考停止しお、ただ「ペシペシ」されたい。

    「なヌにアホなこずばっか蚀っおるの」

    その時、店の奥からドスの効いた、それでいお深みのある声が響いた。
    店の絶察君䞻、ルナママだ。
    豪奢な着物を着厩し、煙管を燻らせながらゆっくりず歩いおくるその姿は、倜の女王そのものだ。

    「ママ聞いおくださいよ」


    「もう聞いおるわよ、入り口たで声挏れおたわ。
     こんなずころで飲んだくれおないで、さっさずその男んずこ行っお、
            䜕にも蚀わずそのオマタ䜿っお慰めおきおあげなさい」

    「やだヌママぁ、お䞋品」

    「今日はさすがにおったたないんじゃない」

    「キャヌ、キラ、ストレヌト」

    「男の自信回埩なんお゜レしかないじゃない」

    「ママ、でもそれは諞刃の剣よ」

    䞋ネタ亀じりの銬鹿話に、私は少しだけ笑った。
    ここは、悲しみを笑いに倉えおくれる堎所だ。

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    「幎䞊の圌氏なんでしょ いく぀䞊だっけ」

    ママがグラスを拭きながら尋ねる。

    「  16歳、䞊です」

    「えヌ、ステキヌ博愛だわ、んヌボランティア」

    「そんなんじゃないです 超奜みなのヌ
      ぜっちゃりで、優しくお、料理がうたくお  」

    「いいのよいいのよ。
      䜕専だろうずフェティッシュだろうず、自分を信じお突き進みなさい」

    「そ、アンタは勝ち組、
      スヌパヌヒロむンよ。皌いで支えお愛情たで䞎えおるぅ♡」

    ピカが私の髪を撫でる。 でも、その優しさが逆に私の栞心を突いた。

    「でも  誠二さんはぁ、こういう時に私を必芁ずしないんですぅ  」

    私の口から、圌の名前が挏れる。

    「誠二 誠二っおいうの 16䞊   亜矎ちゃん今䜕歳」

    「26です」

    「えヌじゃぁ42っおこずぉ
      ぜヌんぜんオゞサンじゃないじゃん。ねヌピカ」

    「そうね、42ならただコゞさんっおずこじゃない」

    「あ、ママず同い幎ぃ」

    キラの蚀葉に、ママの手がピタリず止たった。

    「  え、そうなんですかぁ」


    「ちょっず 歳は蚀わないで」


    「キャヌ、ママ怖ヌい」

    ママは䞀瞬、遠くを芋るような目をしたけれど、
    すぐにい぀もの衚情に戻った。
    でも、その瞳の奥には、䜕か探るような光が宿っおいた。

    「ホントはね  私、怖いの」

    お酒の勢いが少しづ぀消え、私の本音が涙ず共に溢れ出した。

    「今すぐ行っお、飛び぀いお、
    䜕回かの優しいキスず、䜕回かの切ないキスず、䜕回かのむゞワルなキスを䜕回でもしたいの。 でも  怖いの。
    垰れっおいわれたり、もう来るなっおいわれたり、あの優しい瞳が芋られなくなったらどうしようっお  ずっおも怖いのヌ  」

    䞀床決壊した涙腺は止たらなかった。
    圌を慰めたいなんお嘘だ。本圓は、私が拒絶されるのが怖いだけ。
    圌が傷぀いおいる時に、
    私がそばにいお「圹立たず」だず思われるのが怖いだけ。

    「あらあら、怒っおやっおきた嚘が今床は泣いちゃった。
      倧䞈倫、そんなこずおきないわよ。
      そもそもそんな人だったら、最初から奜きになっおないでしょ」

    「そうよそうよ、亜矎は特別
      みんなが必ず転ぶ䞋り坂でも、亜矎だけは躓きもしないわ」

    キラずピカが慰めおくれるけど、私の心の闇はもっず深い。

    「そんなこずない  
      倧奜きだよっおいっおたパパだっお、私の事捚おちゃったもん  」

    口に出しおしたった。 䞀番のトラりマ。
    私の人生を呪い続ける、錆び぀いた蚘憶。䞡芪の離婚、父ずの離別。

    「あヌみ、パパず圌氏は違うでしょう」

    「でもでも、私がどんなにスキになっおも、みんないなくなっちゃう  」

    「違うわ亜矎。圌氏をパパ、あの女をママに重ねちゃだめ」

    ルナママの声が、急に䜎く、真剣なトヌンに倉わった。
    圌女は私の前に座り、私の目を真っ盎ぐに芋぀めた。

    「奜きずか嫌いっお気持ちはね、同質ではあるけど同䞀ではないの。
      パパぞの愛ず、誠二ぞの愛は違う。
        亜矎はただわからないかもしれないけど、
          おんなじ結果なんお、間違っおもおきないわ」

    「  ホント」

    「ホントよぅ」

    ママは煙草の煙を倩井に吐き出し、独り蚀のように話し始めた。

    「あのね、ここのお店ね、前もオカマバヌだったの」

    「え そうなの キラ知っおた」

    「しらない」

    「それでね、アタシがこの店を借りたいっお䞍動産屋にいったら、
     オヌナヌさんに断られたの。
    『前にオカマに貞しおひどい目にあったから、もうオカマには貞さん』
     っお蚀われちゃっおさぁ」

    「えヌひどヌい」

    「オカマ差別だわヌ コンプラむアンス違反よ」

    キラずピカが隒ぐ䞭、私は涙を拭いながらママの話を聞いおいた。 それは、今の誠二さんの状況ず䌌おいた。
    「過去のオカマ前の恋人」のせいで、
    「今のオカマ誠二さん」たで吊定されおいる。

    「でもね、私の友達が助けおくれお、
      䞀緒に倧家さんに頌みに行っおくれたの」

    ママの目が、少しだけ優しく现められた。

    「そい぀、土䞋座すれすれたで頭䞋げお、蚀っおくれたのよ。
      『こい぀はそんな奎じゃない。俺が保蚌する。
        もし䜕かあったら、俺が党責任を取る』っお」

    「やヌんカッコいヌ」

    「私ほれちゃうかもぅ」

    「  いヌい、亜矎。
      自分の経隓だけを根拠に未来を決めたり、遞択を狭めちゃだめよ。
             ダメなオカマもいる。でも、いいオカマもいるわ」

    ママは笑っお、私のグラスに新しい氷を入れた。

    「アタシを信じおくれた、その友達のおかげで、今の『Vi-inas』があるの。     だからね、亜矎。
         アタシは、アンタの圌氏  誠二を信じおいいず思うけどぅ」

    ママの蚀葉が、じんわりず胞に染み枡る。
    私の知らない誰かが、ママを助けた。
    そしおママは今、私を助けおくれおいる。

    「ママ  ありがず」

    「いいのよう。
      倧䜓、男なんおこっちも考え぀かないずころで、
       カッコいいずか、かっこ悪いずか考えおるだけなんだから」

    ママは豪快に笑い飛ばした。

    「亜矎ちゃん、誠二は今、自分がカッコ悪いず思っおるだけよ。
     アンタに捚おられるんじゃないか、幻滅されたんじゃないかっお、
     ビクビクしおるの。   アンタのパパずは違う。
             あい぀は、逃げない男よ倚分ね」

    「  うん」

    私はグラスに残った氎を飲み干した。 涙はもう止たっおいた。
    怖がっおいたのは私だ。誠二さんを「パパ」ずいう色県鏡で芋お、
    勝手に絶望しおいたのは私だ。

    「行きなさい、亜矎。 そしお、その重たい愛で、
      あのビビリな男を匕くぐらい抱きしめおやりなさい」

    「はい」

    私は垭を立った。
    キラずピカが「いけいけヌ」「ゎム持った」ず隒ぐ䞭、
    私は店を飛び出した。 ママ、ありがずう。
    私、行っおくる。 パパじゃない、私の遞んだ「誠二さん」のずころぞ。


    【Chapter 4ポモドヌロず情熱のレシピ】


    定犅寺通りのケダキ䞊朚の䞋でタクシヌを拟った私は、
    運転手さんに行き先を告げた。 迷いはなかった。
    目的地は、誠二さんの䜏むアパヌトだ。

    「  あの、すみたせん。
      そこの角のロヌ゜ンで䞀瞬停めおもらえたすか」

    私はちょっずだけ顔を赀くしお運転手さんに頌んだ。
    コンビニに駆け蟌み、ゎムを買った。
    少し恥ずかしいけど、今の私は最匷だ。
    キラピカ、ありがずう。準備は䞇端。もう、匕き返さない。

    アパヌトの前たで来るず、2階の角郚屋の明かりがただ぀いおいた。
    スマホの時蚈を芋るず、深倜2時を回っおいる。

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    「ただ起きおる」

    独り蚀を呟きながら、私は階段をゆっくりず䞊がる。
    カン、カン、ずいう足音が、私の心臓の錓動ずシンクロしお倧きく響く。
    このドアの向こうに、圌がいる。 お店から無蚀で立ち去った圌が。

    ピンポヌン。

    チャむムを䞀床だけ鳎らした。 返事はない。 静寂が廊䞋に満ちる。
    でも、私は知っおいる。圌は絶察に起きおいる。
    だっお、郚屋の換気扇から、ふわりずあの匂いが挂っおくるから。
    ニンニクずオリヌブオむル、そしお甘酞っぱいトマトの銙り。

    もう䞀床、チャむムを鳎らす。

    「店長  開けおください。私です、亜矎です」

    ガチャリ。 金属音がしお、重い鉄扉が数センチだけ開いた。
    隙間から芗く、い぀もの、でもどこか安堵したような圌の瞳。

    「亜矎さん  」

    「店長こんばんは、いい匂いがしたす」

    「あ、あぁ  深倜のポモドヌロだよ」

    「入っおいいですか」

    「も、もちろん。どうぞ」

    ドアが倧きく開かれる。 私は靎を脱ぎ捚おお郚屋に入った。
    䞀人暮らしの男の郚屋特有の、少し殺颚景だけど萜ち着く空間。
    小さなキッチンのコンロでは、フラむパンに゜ヌスが完成しおいる。

    「無芖  蟛いです」

    私は背䞭越しに蚀った。 誠二さんは振り返り、困ったように頭をかいた。

    「お、ゎメン。実はさっき気付いお  
      いや、嘘だな。
       なにかメッセヌゞ入っおるかず思っお、芋ないようにしおたんだ」


    「どうしおですか」

    「うヌん、なんおいうか、
        心の内がドロドロしおお、それを返しそうになったから  」

    「それを返しおください」

    「え、やだよ。そんな姿芋せられない」

    「どうしおですか」

    私は䞀歩、圌に近づく。

    「幻滅されたくない」

    「どうしおですか」

    「  かわいいぜっちゃりおじさんじゃなくなっちゃう」

    その蚀葉を聞いた瞬間、私の理性ずいうダムが決壊した。

    やだやだやだ、スキ奜き奜き。あヌんなんでこんなに奜きなの。
    ルナママありがずう。ほんずキュヌトがキュヌトすぎおパンクしそう。
    私は迷わず、圌の胞に飛び蟌んだ。

    「うわっ、亜矎さん」

    「幻滅なんおしたせん ドロドロも、匱音も、党郚私にください」

    私は圌の銖に腕を回し、唇を塞いだ。
    それは、人生の䞭で䞀晩における過去最高回数のキスを蚘録した日の
    䞀回目のキスだった♡

    私たちは、たるで重力を倱ったかのようにベッドぞ倒れ蟌んだ。
    服を脱ぎ捚お、肌ず肌を合わせる。
    圌の䜓枩が、私の冷え切った心を溶かしおいく。
    ぜっちゃりしたお腹も、ゎツゎツした料理人の手も、すべおが愛おしい。
    私は買っおきたゎムの箱を開け、それを圌に手枡した。

    「  準備良すぎない」

    「うるさいです。  早く付けおください。私が、包んであげたす」

    「  ..」

    「私、もう我慢できたせん  ..   アッ ..  !  」


    私たちは朝たで、裞で抱き合いながらたくさん話をした。
    眠気なんお䞀瞬も起きなかった。
    時間さえ溶けおしたったような、そんな感芚。

    誠二さんはモダモダしたこずがあったり蟛いこずがあるず
    むタリアンの定番料理である、パスタ・アル・ポモドヌロPasta al Pomodoroを䞁寧に䞁寧に぀くるらしい。
    そしお「そうコレコレ、この味さえあれば俺の悩みなんおちっぜけなもんだず思うんだ。」ず目をキラキラさせながら説明しおくれた。
    そしお優しく抱擁しお䜕床もキスをしおくれた。

    私は小さい頃、䞡芪が離婚しお母に匕き取られお育おられたこずを告癜した。少しヒステリックだったママは私に厳しく、別れおから䜕床か䌚っおいた父ずはもう䜕幎もあっおいないこずを告げた。

    私は捚おられお必芁ずされない恐怖に震えおいた少女を捚おるこずはできない。頌るべき人にすがるこずしかできない少女を忘れるこずができない。

    でも倧奜きな人がいお信頌できる仲間がいお、励たしおくれるオカマがいるこずで胞がいっぱいだず話した。

    そしお誠二さんの頭のおっぺんから足の先たで私の唇が觊れおいない堎所がどこにもないように念入りにキスをした。

    最初はくすぐったがっおいたけど、誠二さんは黙っお受け入れおくれた埌、たた私の隙間を埋めおくれた。
    䜕床も䜕床も優しく激しく私に埋めたたた、朝方になっおようやく私たちは深い眠りに぀いた。

    その短い眠りの䞭で、私は䞍思議な倢を芋た。 匕っ越しをする倢だ。
    南向きの明るい新居はずおもきれいで、窓からの眺めも最高だった。
    私は段ボヌルの䞭にある、昔倧事にしおいたぬいぐるみを探しおいる。
    「あれ ないなぁ  」 いくら探しおも芋぀からない。
    少し焊り始めた時、窓の倖から楜しそうな子䟛たちの笑い声が聞こえおきた。 私は手を止め、窓を開ける。 光が溢れおくる。  私は段ボヌルをそのたたにしお、光の䞭ぞ、倖ぞず駆け出しおいくのだった――。


    画像


    【゚ピロヌグ幞せな朝、危険な未来】


    チュン、チュン。
    雀のさえずりず共に、カヌテンの隙間から朝日が差し蟌む。
    私は重いたぶたを擊りながら目を芚たした。
    隣には、幞せそうな寝顔で眠る誠二さんがいる。
    この光景を芋られただけで、今日はもう100点満点だ。

    「ん  おはよう」

    「おはようございたす」

    誠二さんが目を芚たし、ふにゃりず笑った。

    「おなかすいおる」

    「  すいおるんですか」

    「うん、倧分カロリヌ消化したから」

    「もヌ わたしのせいみたいに蚀わないでください」

    「いやいや、原因の半分は亜矎さんだよ」

    「ふふふ」

    「ははは」

    私たちは垃団の䞭で笑い合った。 昚日の倜の重苊しい空気が嘘みたいだ。 䞖界が、䞀皮剥けお鮮やかに芋える。

    「そういえば、昚日はオカマバヌから来たの」

    「そうです、分町の『Vi-inasノィヌナス』っおずこです」

    「ぞぇ、どこら蟺にあるお店」

    「虎屋暪䞁いっお、タバコ屋わかりたすぅ」

    「あぁ、あそこらぞんか」

    「今床䞀緒にいきたしょう」

    「あヌうん、そのうちね」

    「なんだかノリわるい」

    「そんなこずないよ」

    誠二さんは少し芖線を逞らした。 やっぱり、少し抵抗があるのかな。

    「そういえば、ママが誠二さんず同い幎だっおいっおたした」

    「ぞヌそう、他には」

    「『奜きになった男を信じろ』っお蚀っおたしたよ」

    「ふヌん。  ママに感謝かな」


    「ですね」

    私は圌の胞に頬を寄せる。

    「『盞手を信じろ。その100倍自分を信じろ』っお
                  手塚治虫、知っおる」

    「知らないです」

    「うヌ、ここで䞖代間栌差かヌ」

    「なんですかそれ」

    「ゞェネレヌションギャップ。挫画の神様なんだけどなぁ」

    「挫画 ナナNANAなら読みたす」

    ただちょっず遠慮しがち。 でも、心はすごくピッタリ重なっおいる。
    昚日の䞍安はなに っお感じだ。

    私、誠二さん奜きになっおよかった。 自分を信じおよかった。
    ここからは明るい未来を信じお、誠二さんず生きおいくんだ。

    私はベッドサむドに眮かれた自分のスマホを芋た。
    画面には、愛車ビヌトルの埅ち受け画像が光っおいる。
    ピカピカに磚き䞊げられたバンパヌのように、私の心も今は茝いおいる。

    「さ、朝ごはん䜜ろうか。
      ポモドヌロの゜ヌスでペンネフゞッリニョッキかな」

    「最高です」

    私たちは新しい䞀日を始めるために、ベッドから起き䞊がった。
    カヌテンを開けるず、い぀もの街䞊みが広がっおいる。
    でも、その景色は昚日ずは違っお芋えた。

    私が私だけを信じるこずをやめお、
    圌が奜かれた郚分だけを装うずいう仮面を倖した䞖界。
    そこには、ただ優しい光だけがあるように思えた。

      けれど、私たちはただ知らなかった。 この幞せな朝の先に、
    ただ゚リカの呪いが続いおいるこずを。
    そしお、あのノィヌナスのママずの「予期せぬ再䌚」が、
    さらなるハプニングを巻き起こすこずを。

    それでも、今はいい。 キッチンの前に立぀圌の䞞い背䞭があれば、私はどんな嵐だっお越えおいける気がするから。

    Fin...? To be continued in "The Taxman & The Landlord"


    さお、今回のショヌトストヌリヌはいかがだったでしょうか
    ショヌトずいうにはボリュヌムたっぷりでしたね
    今埌もこんな物語を皆さたにお届けしおいきたいず思っおいたす。
    デザむンのリク゚ストや実際にあった
    心枩たるストヌリヌを教えおください。よろしくお願いいたしたす。

    スキずフォロヌが励みになりたす

    続線を執筆䞭です。フォロヌお願いいたしたす。。。

    noteで反響を呌んだショヌトストヌリヌたちが、぀いに䞀冊のKindle本になりたした。

    『GRAPHIC CAR & GIRL SHORT STORIES : Rust and Romance 』

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    Testenari

     
     
    普段はコンサルを生業にする50代の男が描く「䞍完党な倧人たちの恋物語」。 歳を重ねただけでは倧人になれない事実。残ったのは䞍噚甚な傷や埌悔ばかり。でも、それは懞呜に生きた蚌拠だから。 車ず犬ず圌女たち、そんな私たちの蚘憶を「党肯定」する物語がここにありたす。 詳现は固定蚘事ぞ

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