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幻の迷店『麺酒房 かしわぎ』第䞀章

    第䞀章 倧阪ミナミにモッタモタの江戞っ子参䞊


     䞀九九五幎、秋。
     倜䞃時頃、倧阪地䞋鉄「心斎橋駅」改札前で岡本さんず埅ち合わせた。

     岡本さんずは、僕のラむタヌの垫匠であり、そば屋探怜隊隊長でもある。ラむタヌの垫匠ず蚀っおも圌は䞀般的なサラリヌマン。でもかなりの倉態なのである。

     日本語はもずより、英語、䞭囜語の読み曞き喋りができる。䞀床でも芋たもの、通った道、聞いた名前など、すべお蚘憶できおしたうのだ。服装は仕事がない日でもスラックスにネクタむ姿。顔ず䜓系は江頭2:50にそっくり。出身は広島、倧孊は青孊だが銀座のそば屋で競銬ずそばにハマっお䞭退し、埌に瞁あっお来阪。そしお僕が圓時ラりンゞの運営を請け負っおいた高玚スポヌツクラブのフロントマンずしお働き出し僕ず出合った。

     自称「麺喰い」。特にそばには目がなく、ケヌタむもネットもない時代から、䞀人で䞀日に䜕軒もそば屋を梯子したり、店䞻ず芪しくなっお䞀緒にそば産地たで仕入れに行ったり、そばの収穫を泊たり蟌みで手䌝っおしたうような正真正銘の蕎麊倉人である。

     さお、いたからそば屋「かしわぎ」ぞ行く。僕は初めおである。

     岡本さんず共に人でごった返す心斎橋筋商店街を歩く。どこからかミスチルのむノセントワヌルドが聞こえおくる。

    ♪倉わり続ける街の片隅で、倢のかけらが、生たれおくるOh今にも、そしお僕はこのたたで、埮かな光を胞に♬

    「それにしおも南のど真ん䞭で手打ちのそば屋っおのも斬新な話ですね」

    「そうですね。関西ではそばなんおうどんの補欠扱いですもんね。そこで手打ちのそばをやるっお蚀うんだから。幟はかかっおいおも本圓に手打ちでやっおるそば屋なんお関西に䞉四軒しかないでしょう」

     今のように関西においしい䞉たおそば挜きたお、打ちたお、湯がきたおが増えたのは九〇幎代埌半のこず。圓時はただ極めお皀なスタむルであった。

     倧䞞癟貚店の角を東ぞ曲がり、人混みを瞫いながら東ぞ進む。

    「ご䞻人の柏朚さんはどうやら東京の方のようで、こちらには転勀でこられおたみたいです。おそらく定幎されおここミナミでそば屋を開業したず。いい埡歳だし、東京人なら普通は垰京するず思うんですけどね」

    「ほんた䞍思議ですね。でも、なんであれ倧阪ミナミのど真ん䞭で手打ちそばが食べられるのは嬉しいです。あぁ楜しみ」

     ず、わずか数分で『かしわぎ』に到着。間口二メヌトルほどの店先に『麺酒房かしわぎ』ず黒の毛筆で曞かれた癜い提灯がかかる。向かいはカラフルなネオンの銭湯『桃の湯』だ。倧阪の遊び人たちが飲んだ垰りに立ち寄る、ちょっずした隠れスポットである。

     岡本さんが匕き戞の前に立ち、僕に先に入店するよう促した。ズルズルズルず匕きずるようにしおアルミサッシの戞を開けるず、そこにはずおもそば屋ずは思えぬ景色が広がった。

     奥にたっすぐ延びるカりンタヌが䞀本。䞃、八垭はあるだろうか。手前から二番目の垭にスヌツ姿の䞭幎男性が䞀人ポツン。そしお䞀぀空けお真ん䞭蟺りに、タむトなスヌツを着た䞉十代前埌の茶髪女性ず、ネクタむをゆるめお顔を赀らめる同䌎颚の五十代犿げ男が、でれでれず笑いながらいちゃ぀いおいる。これはそば屋ではなく、完党にコロン臭いスナックだ。

    「あ〜んらぁ、いらっしゃ〜いたせぇ」

     錻が詰たっおいるような間抜けた声が奥のほうから聞こえた。やや䜎いトヌンで少しばかり枯れた感じの声。现身で背䞈は䞀五〇センチくらいか。頭に赀玫のスカヌフを䞉角に巻き、カ゚ルが酔っ払ったようなふにゃけた顔぀きでこちらに埮笑む。これがおかあさん以降オカンである。

     䞀方、手前で䞭肉䞭背の男が壁偎に眮いた倧きな釜の前に立ち、茹だったそばをステンレス補のザルでぎこちなく掻き集めおいる。背䞭を䞞めお俯くような栌奜で、腕をもたもたさせながら。

     これが柏朚さんだ。頭には薄茶色のもっさい毛糞の垜子がのっかっおいた。

     岡本さんがカりンタヌの奥を芗き蟌む。奥のほうから亡霊のようにゆっくりず手を振るオカン。䞀番奥が空いおいた。

     カりンタヌは少し䜍眮が高い。怅子は薄っぺらいスポンゞず合成皮革、背もたれはステンレス颚の金属で高さ十センチほど。銖を振るたびにキュッキュッず油の切れたような音がする。やっぱりここはスナックの居抜き店舗か。

     それにしおも狭い。怅子から壁たでの間隔が䞃、八十センチしかないから、客が座るず通路が塞がっおしたう。我々はその茚の道を掻き分けるようにしお奥ぞず前進した。

     ようやく着垭し、ふず柏朚さんを芋るず、䟝然、釜の前でもたもたず手を動かしおいる。芪指ず人差し指、薬指の䞉本でそばを少しず぀摘み䞊げ、それを巊手に持ったざるに䞁寧に盛っおいく。そんな手぀きではそばが䌞びおしたうのではないか。

    「ぶわっはっはっは、こんちわぁ」

     近くで聞くず、矎川憲䞀ず暹朚垌林を合わせお二で割ったような、粘り気のあるオカンの声。

     隣垭からは同䌎颚の連䞭が肩を寄せ合いながら「うっしっしぃ」「いやぁあんもぅ」ず聞こえおくる。くさいくさい。が、柏朚さんはそんなのたったくおかたいなし、ずいうか自分の手元に集䞭だ。先ほど盛ったそばを手にしお、ゆっくりず身䜓を回転させ、カりンタヌ越しに提䟛。そこで、ふぅっず我々の存圚に気づいた。

    「あぁぁぁぁ、いらっしゃい」

     身䜓぀きはがっしりしおいおやや寞胎型、タレントの䌊東四朗が垂れ目になったような倧きな顔である。倧きな県鏡は、゜バ粉が付着しおいお曇っおいた。

     柏朚さんは再び宇宙遊泳するかのようなスピヌドで釜のほうに向き盎り、もそもそず䜜業に戻っおいった。

     そんなずきだ。突然チヌヌヌヌヌヌヌンず興醒めのデゞタル音。

     オカンが電子レンゞの扉を開けるず䞭にはお絞りが二぀。焌き芋のようにモクモクず煙が吹き䞊がっおいた。オカンがお絞りに手をやり、雄たけびず共に腕を振り䞊げお厚房の奥ぞ投げ捚おる。

    「あっちっちぃぃぃ、なんだよっ、これ本圓に銬鹿な電子レンゞで困っちゃうよぅ」

     矎川憲䞀的な絶叫が店内に響く。その瞬間、柏朚さんはオカンをちらり。が、たた䜕事もなかったかのような衚情で顔を釜のほうぞず戻した。お客たちはそっちのけで酔っおいる。

    「倧䞈倫ですか、おかあさん。気を぀けおくださいよ」ず岡本さん。

    「ちょっずたっおねぇ。少し冷たすからさぁぁぁぁ」

     僕は戞惑いながらも、透明の䞋敷きに入った四サむズの二枚のメニュヌに目をやる。䞀枚は酒で関西の地酒がざっず二、䞉十皮類。そしおもう䞀枚がそばだ。

     二八そば 䞃五〇円
     癜雪そば 八五〇円䞀〜二番粉で打った癜いおそば
     田舎倪打ちそば 䞃五〇円懐かしい黒くお倪い野趣あるおそば
     二色 九〇〇円お奜きなおそばを二皮類

     ず、右端に倪文字で曞かれおいお、真ん䞭蟺りに「ぶっかけそば八五〇円、鎚なんば䞀二五〇円」などの枩かい皮ものが。巊偎には「しじみの醀油挬け、ネギネギ小鉢ネギずカツオ、冷奎、そば団子圓店ならではのそばがき、焌き味噌圓店の名物。䞭にそばの実がはいっおいたす」ずある。

    「ね、食堂のそば屋ずは違う感じでしょ。あっ、あっちぃ。居酒屋ずいうほどじゃないけど、酒が飲めるそば屋ずいう東京にありがちなスタむルです。あっ぀ぅ。さお、カワムラさんは䜕を頌みたすか」ず岡本さんはお絞りをお手玉のようにしお蚀う。

    「よくわからないので”ぶっかけそば”にしようかな」

    「ふむ、秋にぎったりでいいのですが、江戞匏の手打ちそばずいうのは明るい色に喉越しのよさず甘みが魅力。おたけにこちらは囜産のいい原料を䜿っおいるので銙りがいいのです。なのでストレヌトに味わえる冷たいそばがいいず思うんですよ。どうでしょう、僕が癜雪を泚文しおカワムラさんが二八ずいうのでは。やはり江戞そばの基本は二八ですから」

    「さすが岡本さん、では二八を」

     柏朚さんは盞倉わらず、ガス台や釜の間をゆっくりず行ったり来たり。オカンは䜕を食べおいるわけでもないのに口をもごもごず動かしながら、幅五十センチの小さな穎が二぀開いた二局匏のシンクに向かっお掗い物。そしおなぜか二秒に䞀回、カクッず身䜓を䞋げる。

     じっくり芳察しおいるず、䞀瞬身䜓を沈たせた埌、今床はゆっくりず䞊に䌞び、そしお再びカクッず五センチしゃがむ。終始䞀定したこの動きの䞭で、オカンはグラスをキュッキュッず掗っおは、ゎトンずシンクの䞭に萜ずしたりする。

     再び隣の客の声が耳に入る。
    「もうっ、郚長さんっあかんっお、ほんたいややわぁ〜ん」
    「はぁん、ええやないか、な、ちょっずだけや、いこ、いこう」

     岡本さんが蚀う。
    「ね、面癜いでしょ、この店。東京では飲めるそば屋は普通にあるんですけどね」

     「いや、でもここたで䞋品なノリじゃないでしょ」ず僕は小声で返す。

    「そうですね、ここたで庶民的な店はないか。た、これが倧阪颚情ずいえばそうなんでしょうね」

    「よう店䞻やオカンがキレぞんもんです」

    「いや、おかあさんはけっこうキレるこずがあるそうです。こないだも店の䞭が凍り付くほどの雄たけびをあげお远い出しおたした。で、塩をどっさりずたいお。䜕やらその客のマナヌが悪いずかで。でもご䞻人はうっすらず笑みを浮かべるだけでなんも蚀わない」

    「なにそのコントラスト。ブチギレのオカンず埮笑みのご䞻人。䞀瞬、たいぞんやなず思ったけど、これはたさかの、お客の方が倧倉な思いをする店の登堎かも知れたせんね」

    「しっ、カワムラさん謹んで。おかあさんに聞かれたら倧倉なこずになりたすから」ず人差し指を口に圓おる岡本さん。

     未知のシチュ゚ヌションの䞭でひそひそ話をしおいるうちに、目の前にそばがやっおきた。たずは二八だ。

     黒いお盆にざる、生のおろし山葵、青ネギの刻みず倧根おろし、そしお高さ五センチほどの埳利ず空の猪口が䞀぀。たずは空のたたのそば猪口にそばをたぐい䞀気にすすった。ず、甘い銙りがぷわぁんず錻腔内に広がった。

    「なんですか、この銙り。これがそばの銙りなんや。それに柔らかなのにコシがある。瑞々しくお喉越し最高です」

     二回たぐった埌、猪口にダシを深さ五ミリほど入れお、さらにそばをすする。ややずろみをもち、しょっぱいながらもうたみの濃いダシ。

    「これを江戞そばの䞖界では汁぀ゆず呌びたす。向こうでダシず蚀うず昆垃やカツオのただのスヌプのこず。醀油にみりんや砂糖を加えた元ダレをカ゚シず蚀っお、それずダシを割っお汁を䜜るんだそうです。䞀芋は濃いけど関西の薄口醀油よりも甘みがあっおたろやかな醀油ず鰹の濃い銙りが特城です」

    「そうか、この矎しく瑞々しいそばず醀油ず鰹の汁の組合せが江戞そばなんや」

     その埌、ネギ、山葵の順で、ものの二、䞉分で平らげおしたった。少し小盛りにも思えた。もっず食べたい。岡本さんの癜雪がでおきたず同時に田舎そばを远加。

     柏朚さんが田舎そばらしきものを掎み取っお釜に投入する。そこに突劂二階から真っ赀な顔をした四十歳代くらいのサラリヌマンが䞉人、倧声で笑いながら䞋りおきた。

    「ご銳走様っ。いやぁ、倧阪にも僕たちが来れるそば屋さんができおよかったっす。たた来たすんで、よろしくおねがいしたっす」

     蚀葉のアクセントからしお関東系の出匵組か赎任系のようである。オカンにそう語りかけながら、䞀人の男が僕らの埌ろを掻き分けるようにしお戞口のほうぞ進み、財垃を取り出しお止たった。が、柏朚さんは気づかないのか、愛想がないのか、釜に向かっおそばを芋぀めたたた。

    「あのぅ、すみたせ〜ん。お勘定ぉっ」

    「あ、あぁぁぁ」

     柏朚さんはゆっくりず男のほうを振り向き、濡れた手を䞀床゚プロンで拭き取り぀぀、その指をペロンず舐め、しわくちゃになった䌝祚を取り出す。そしおカりンタヌの䞊に算盀を眮いおパチパチパチ。で、䞉秒ほどしお倀段を告げた。

    「えぇっず、六八〇〇円、になりやす」

     想定倖のスロヌリズムに男はぎこちなくかくかくずした動きで䞀䞇円を出した。柏朚さんはそっず受け取り、暪に眮いおある青いザルに手をやる。そしおくしゃくしゃの札数枚ず小銭を取り出しお釣りを枡した。

    「あ、どぅも、ありゃずうございあしたぁ」

     奥からオカンも「どぅも、ありがずぅございたしたぁ」

     あれれ、ずおも軜やかな声。どうやらオカンは、客が垰るずきが䞀番嬉しいようである。

     ず思ったら今床はタむマヌがピピピピッ。

    「あ」ず柏朚さんは小さな声をだしお、䞀応慌おおいるようだがかなりスロヌに釜に向っおステンレス補のザルを突っ蟌む。あれはたさしく僕が泚文した田舎そばだ。

     出おきた田舎そばを、先ず同じ芁領で食べ進む。

    「こっちは心なしか色が黒ずんでいお、やや倪いんですね。二八以䞊にそばの味が匷く、どっしりず重量感がありたす」

    「これは挜きぐるみっおや぀で二八ず違っお野趣が売りなんですよ。喉越しよりも味ずか食感ずか。いわゆる田舎そばずは、そばの実の硬い倖皮を挜きくるめるものなんですけど、柏朚さんが勉匷された『䞀茶庵』ずいう店では、その内偎にある甘皮ず呌ばれる郚分のみを含めるのだそうです。た、いずれにせよ、野趣を持たせたタむプであるこずには違いないでしょう。だから枩かい汁タむプずもよく合うんです」

     岡本さんが頌んだ癜雪も䞀口いただく。

    「これはそばの実の䞭心にわずかに入っおいる癜い粉で打぀から真っ癜なんですよ。特城はこの透き通るような矎しい癜色ず食感。関西には少ないけど、東京や信州なんかぞ行くずこの粉を䜿っお茶切りや柚子切りなんお蚀っお、いろんなものを入れおその色や味を楜しめるそばがたくさんありたす。䞀番粉ずも呌ぶようで。柏朚さんが仕入れおいらっしゃるものは埡膳粉ずいう品名だそうですが」

     岡本さんは本圓に詳しい。青孊時代のあだ名は歩くコンピュヌタ。䞀床芋聞きするず本圓に党郚芚えおしたうのだ。

     しばらくがたち、柏朚さんの手が空いたようで、ゆっくりずこちらぞやっおきた。倧きな県鏡が蒞気ず゜バ粉で思いっきり曇っおいた。

    「むふふ、うちゃあ氎商売のお客さんが倚いもんだから、このずおり飲み屋が始たる頃になるずみんな出勀しおいくんだね。ここからちぃっずばかしシマ暇になんですよう」

    「やっぱり぀くづく䞍思議なそば屋ですね。本圓に東京にこんなそば屋があるんですか」

    「ふふ、向こうは酒があるず蚀っおも居酒屋じゃないんだよね。だいたい東京のそば屋はシルマ昌間っから䌑憩なしでやっおっからね。海苔や板わさだけでずいうのは少ないず思うけど、ちょっずした煮物や焌き物など小皿料理ず酒をやる感芚だね。で、おそばを食べたらさっさず出おいくような感じで。長居する客はほずんどいないよ」

    「そう、だから䞀人客がけっこう倚いんですよ。僕がバむトしおいた銀座のそば屋もそうでした。それ以倖はお昌ご飯ずしお食べるか。もちろん二人組ずかもいるけど倧阪の居酒屋みたいに賑やかじゃない。シンプルに食べたい人や倧勢の堎合は出前を頌んできたすから」ず岡本さんが続く。

    「わかる気がしたす。僕は二〇代の頃、築地魚河岞の仲買で働いおたんですけど、圓時の䞊叞が倧の競銬奜きで、テレビず新聞のチェックのためにしょっちゅう魚河岞近くのそば屋に身を隠しおいたした。そのそば屋がたた長靎に競銬新聞を差し蟌んだ䞀人客ばかりで」

    「いたねぇ新聞を長靎に差し蟌んでるの。ぞぇ、そうなの、かし河岞仲買で働いおたんだ。実はうちも元々築地で商売やっおおね、やっちゃば野菜や果実の仲買だけど」

    「そうなんですか、お䜏たいもあの蟺ですか」

    「すぐ隣、明石町あたり。昔は倧勢の埓業員が䞀緒に䜏んでおね、賑やかな家だったよ。あのあたりも䜕軒かそば屋があったね。だいたいちょっず叀めのそば屋は䌑憩なしで開けっ攟しだから、なにかず郜合がいいんだよ。でも、深酒するような堎所じゃないから。そういう時はたたそば屋じゃない他の店ぞ梯子しちゃう」

    「そういう意味で銀座なんかは最高のロケヌションでしたね。築地からも歩いおこれる゚リア。ビゞネス街もあれば繁華街もあるし、京郜ほどじゃないけど叀めかしい家や商家もちらほらず」

    「岡もっちゃんはその蟺りを自転車で出前いっおたんでしょ。もしかしたらそば屋になっおたかもわかんないね」

    「いえいえ、出前っ぀たっおアルミ補の岡持にいれおいくんです。あんな䜕段も積むのは職人技。それに僕はただ麺喰いなだけでこれからも普通のサラリヌマンです」

    「アルミ補の岡持っお僕が䞭華屋時代に出前で䜿っおたのず同じや぀ですね」

    「なに、カワムラ君は䞭華料理屋にもいたの」

    「ええ、十代の時にバむトで」

    「ほぅ」ず少し䞍思議そうな衚情で僕を芋る柏朚さん。岡本さんがすかさず説明する。

    「ええ、カワムラは若いのになかなか波乱䞇䞈でしお。䞭華屋、カフェ、その埌高玚スポヌツクラブのラりンゞを委蚗経営しお、そこで僕ず出䌚っおるんです。ただ、圌はすぐに䞊京しお築地にいっおしたったのですが」

    「ふふ、おもしろいね。築地からどうやっおラむタヌになったわけ」

     岡本さんがぷっず噎出し、手で口を芆う。

    「た、色々ありたしお倧阪ぞ戻り、今床はバヌをオヌプンしたのですがここで僕はアル䞭になっおしたいたしお」

    「いや、いい店だったんですよ。圓時は車を持っおなかったので自転車で䞀時間以䞊かけお通いたした。酒飲めないんで氎もっおね。でもカワムラがどんどん痩せおいっお䜓調を厩しお。ストレスが原因だったんでしょうね」

    「もうどの酒を飲んでも酔えないんですよ。酷いず身䜓が冷えお動けなくなっお倒れおしたう。そのたびに岡本さんが芋舞いに来おくれたり、救急車を呌んでくれたこずもありたした。そんな状態が続くうちにずうずう店が燃えおしたったんです。䞀応はボダ扱いですが、店内は事実䞊党焌レベル。䞉四ヶ月の営業停止を経お、倧家のおかげで奇跡的に再開したしたが。

     そんな時にある人から”君はモノを曞くずいいよ”ずアドバむスを受けお、䜕かにずり぀かれるようにしお本圓に曞きだしたんです。ただしワヌプロはできないし挢字もほずんど曞けない。句読点も意味䞍明だから(、)なしで原皿甚玙に曞いおたした。この通り囜語力は限りなくれロでしたので岡本さんの存圚がより倧きくなったわけです」

    「おもしろいよ、カワムラ君。岡もっちゃんは本圓によく蚀葉を知っおるし本も読んでるから、いい垫匠だね。店もめちゃくちゃ知っおっから。特にそば屋は」

    「そうそう、カワムラは本圓にプロの物曞きになれそうでしお、぀いこの間ぎあ倧阪版で連茉を始めたんですよ。”河村研二のマナ板の恋”ずいっおいろんな飲食店の話をするんですが、そのコヌナヌのむラストも圌が曞いおたす。店でもメニュヌはすべお自身の手曞きでいい感じなんですよ」

    「あれ、ただ店やっおんだ。どこで」

    「ええ、倧阪北郚の箕面です。ただ、僕ずしおはなんずか物曞きずしお食っお行けないかず思っおいたしお。結婚もしたいし。店は本圓に倧倉で、なにせ家賃が䞉䞀䞇五千円もしたすから。田舎で十四坪なのに」

    「ええっ、そんなにするの。ミナミより高いや。箕面っおそんなにお客さんいるのかね」

    「いやいや、自然が豊富な閑静な䜏宅街です。バブル期はドラむブ仕様のおしゃれなカフェやレストランが立ち䞊びたしたが、カワムラの店はそこからかなり離れた゚リアで駐車堎もありたせん。よくやっおるず思いたす」

    「正盎もう疲れ果おおたす。䞀杯五〇〇円のキャッシュオンデリバリヌなんですけど、これをいったい䜕杯売ったら家賃を払えるのかず。それでも店は嚘みたいなもので簡単には手攟せない。どうするか今悩んでいるずころです」

    「そう、カワムラの青春そのものなんです。いい颚になっおくれればいいず思いたすけど。ずにかくラむタヌずしお皌げるようになるたで僕は応揎しようず思っおいたす」

     気が付けば先たでのスナック調の隒がしさはなくなっおいた。換気扇の回る䜎い音ずの五十幎代あたりのオヌルドゞャズが響いおいる。

     オカンは虚空をみ぀めおは膝のカックン運動。ず思ったら突劂なにかを思い出したかのように二階ぞ䞊がっおいった。スリッパをササヌ、ササヌず匕きずりながら歩く音がする。どうやら二階を片付けおいるようだ。

     店は深倜䞀時頃たでの営業らしい。十䞀時頃に二回目の波がくるのだずか。そろそろお暇するこずに。

    「ありがずう。たたね」ず柏朚さん。静かで穏やかなその笑みがたたらなく安心感を呌んだ。


     ド掟手なネオンず黒服ずコロン臭い路地を歩きながら岡本さんが蚀う。

    「あの店、独特の雰囲気があるでしょ。東京の味が倧阪で楜しめるのが嬉しいんですよね」

    「いやぁ衝撃的。たさにむノセントワヌルド」

     商店街手前のコンビニで岡本さんは冷たいお茶を䞀本買っお䞀気に飲み干す。

    「柏朚さんのそばを食べるず毎回喉が枇くんです」

    「確かに、やたらず喉が枇くなぁず思っおいたずころで。最初は濃口醀油ずカツオのうた味がええなっお思いたしたけど、぀ゆがやっぱり濃いんでしょうね。時間がた぀ほどに喉が也いおくる」

    「そう、たさに蟛口『かしわぎ』。どれだけゆっくりず穏やかでも、柏朚さんやっぱり江戞っ子なんだなぁ」

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    写真は二色もり。わざわざ青ネギを䜿うのは「倧阪を意識しお」ず店䞻曰く90幎代圓時


     
     
    数々の飲食珟堎〜ラむタヌ〜料理研究家を経お、2021幎4月から半蟲半X化🧑‍🌟。畑に合わせお料理を考える講座『旬野菜ずスパむスを楜しむ䌚』を毎月開講䞭。たたにラゞオ🥕https://www.kawamurakenji.net

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