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パンティに捧げる文

    「あれ?  あれ?  ない」

    北海道にしては珍しく朝から30度に届こうかという日。
    古びたプールの更衣室の、もったりした空気の中に教え子の涙混じりの声が響いた。
    着替えている周りの子たちも、とうに水着になって更衣室を監督しているわたしも、声の主に視線を送る。

    「先生、水着のパンツ忘れたかもしれません」
    「ほんとにない? 濡れたもの入れる袋の中とか、タオルの隙間とかにまぎれてない?」
    「見たけどないんですよぅ!」

    もうほとんど泣いているその子からプールバッグを受け取り、わたしも一応中身をあらためる。
    最近の水着はセパレートタイプが主流だ。
    そのほかにもラッシュガード、水着の上に身につけるショートパンツなど、とにかく付属品が多い。
    付属品が多くなればなるほど、忘れ物も増えがちになる。
    確かに、プールバッグのどこにも水着のパンツは見当たらなかった。

    「残念だけど」

    わたしはなるべく冷たい響きにならないよう、細心の注意を払って言う。
    プールが好きな子どもにとって、年に4回しかない水泳学習は大きな楽しみのひとつ。
    忘れ物をしたときの絶望感は、痛いくらいによくわかる。

    「おうちの人には忘れ物を連絡しないきまりになってるから、今日は職員室で自習ね」
    「えー!  上にはくスカートはあるんで、これ着てもだめですか」

    だめだろ。普通に。浮力の影響を無視してはいけない。
    いや、浮力以外にも諸々無視できない条件が揃いすぎている。

    ツッコミを飲み込みつつ、プールサイドに控えていた担任外の同僚に事情を話し、職員室に連れて行ってもらうことになった。

    「今日失敗したから、次からは絶対同じ失敗はしないはずだよ」

    そんな言葉をかけて、涙目の彼女をプールから送り出す。


    1時間後。
    わたしは泣きそうになっていた。
    プールバッグの中に、パンツが見当たらない。
    水着のパンツではなく、黄色いブラジャーとおそろいの黄色いパンティである。

    忘れたのだ。家に。

    この日は1、2時間目が水泳学習だった。
    教員は子どもたちより早く着替え、更衣室を監督したり、プールの水質や水温、室温をチェックしたりする必要がある。
    だから、わたしは朝から水泳学習の日は家から水着を着てくることにしている。
    もちろん水着の上から普通の服を着て出勤するのだ。
    一部の方には、「ティコは変態」「ティコは下ネタ女」と思われている気がしなくもない。
    そういうお茶目な方々に「水着姿で出勤している変態女」と勘違いされてはかなわないから、一応補足しておく。
    #どうでもいいか

    水泳学習の日は、大抵コットンのワンピースを着ている。
    肌表面の水分が湿度の高さも相まってなかなか拭いきれず、プールから上がったあとにコンパクトなシルエットのものを着るのは大変だ。
    だから、ゆるっとした「逆さまにしたゴミ袋に頭と腕を通す穴を開けたみたいな服」(夫談)、通称ゴミ袋ワンピが水泳学習の日のマストアイテム。
    パンティ以外の下着をすべて身につけたあと、わたしは急いでゴミ袋ワンピを着た。
    問題は下半身である。
    一応ゴミ袋ワンピを着ているとはいえ、ノーパン状態だ。
    退勤時間まで何食わぬ顔で過ごすのか。ノーパンで。
    うっかりマリリン・モンローよろしくスカート部分がめくれてしまったら、股と尻を世間に晒すことになる。
    手錠をかけられてパトカーに押し込まれる自分が見えた。

    つくづく、パンティというのは不思議な布だと思う。
    あんなに小さな薄布1枚が股と尻を覆っているだけで、「社会に参画する資格がわたしにはあります」という顔ができるのだ。
    逆にあれがないというだけで、自分が世間から爪弾きにされているような心持ちになる。

    水着のパンツを忘れた彼女はまだいい。
    プールにさえ入らなければ、「社会に参画する資格があります」という顔のままでいられるのだから。
    彼女は水中限定の社会参画無資格者であり、日常地上においては何の問題もない。
    一方で今のわたしには、水中での社会参画資格しかない。
    このままプールのヌシとして第二の人生をスタートした方が幸せなのではないか。
    何が「今日失敗したから、次からは絶対同じ失敗はしないはずだよ」だ。
    偉そうに講釈を垂れていた1時間前の自分を殴りたい。
    次からは絶対同じ失敗はしないどころか、今日の失敗が人に知られたらわたしは間違いなく社会から追放される。

    パンティが見えないようにはくペチパンツは家から身に付けてきていたので、股と尻をむき出しにせずに済む方法は一応あるにはある。
    ペチパンツはゴミ袋ワンピ同様ゆるっとしているので、1枚で身に付けるには股や尻のあたりが非常に心もとない。
    でも、今のわたしにはペチパンツしか頼るものがなかった。

    ペチパンツ、はきますか。社会参画資格、失いますか。

    この場面で後者を選ぶのは、ばかのすることである。
    仕方なくむきだしの股と尻に直接、ペチパンツをはいた。
    ノーパンであることにはかわりなく、この状態で地上においても社会参画資格があるかはグレーである。それも、限りなく黒に近い方の。


    パンティは偉大な存在である。
    次からは真っ先にプールバッグに入れよう。そうすることでパンティ先輩に敬意を示そう。
    もう来年の夏まで水泳学習はないけれど、次からは絶対同じ失敗はしないはずだ。


    #猛暑の過ごし方

    #なんのはなしですか

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    創作大賞終わった途端こんなはなしを強制的に聞かされる課長ズが可哀想


    創作大賞応募作品


    ⬆️の後日談的な。こっちも読んでもらえたら嬉しいです


    路地裏を歩く方のための路地裏ガイドブック



    推しに大賞とってほしい(読者応援期間は7/31までだよ!)


    これは創作大賞応募作品じゃないけど、わたしの胸はいっぱいになった。
    お疲れ様でした。そしてありがとう。ずっと大好きです。この先も楽しみにしてます。


    わたしが勝手に作ったコニシさんのサイトマップ(自分のさえ碌に整備してないのに)


    条件付き履かない系乙女ソウ マチさん🩲のパンティ記事を勝手に紹介する試み


    まっ子さん🐕がノーパンに思いを馳せた記事も併せてどうぞ




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    わたしに降りかかる全てを面白がって生きて逝きたい。 いにしえよりの腐女子(39)が、何の役にも立たないことを一方的に語ってくる場所。 げんちょんちょんGP初代優勝者。文筆家。リーディングライター。 別館→ https://note.com/tico_reading

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