
道程
新幹線。
最愛と、ふたりで乗った。
新幹線は楽しみな所に連れて行ってくれる、
誰かと乗る乗り物なんだと、
私は今日、知った。
昔は、ただの乗り物だった。
仕事に向かうために乗る、
少し値段の高い電車。
行先までの道程に、イライラしながら、
スターバックスのラテを買い、
仕事をこなして、さっさと降りる。
ただ、それだけの機械だった。
だから、誰かと乗るなんて、
初めてだったのだ。
『ふたりで新幹線に乗ったら
どんな風に過ごせばいいの?恋バナ?』
そんなトンチキな事を最愛に聞いた。
危うく私は恋バナに出てくる張本人を前に、
惚気けることになってしまうところであった。
お弁当をふたりで選び、
美味しいね、って食べる。
なんてことない話をしながら、
新大阪に上陸する。
それだけの事なのに、
世界がきらきらして見えた。
窓の外を流れる景色も、
駅弁の包み紙も、
隣に座って転た寝する最愛の横顔も。
総てが、とくべつ。
きっと私は、
何処へ行くかよりも、
誰と行くかを知らなかったのだ。
仕事に向かう新幹線では、
早く着くことばかり考えていた。
早く着いて、
仕事を終わらせて、早く帰りたかった。
道程は、目的地までの空白だった。
けれど今日は、
新大阪に着いてしまうのが、少し惜しい。
もう少しだけ、
このままで居たい。
隣に最愛が居て、
ふたりで同じ景色を見て、
ふたりで選んだお弁当を食べて、
隣に座って、少し寝る。
ただ、それだけの時間が、
終わってしまうのが惜しかった。
不思議なものだ。
昔は、目的地に着いてからのことばかり
考えていたのに。
今日は、目的地へ向かう時間まで、
大切な思い出になっている。
大阪に着いたら、
串カツを食べよう。
海遊館にも行こう。
USJにも行こう。
ふたりで、たくさん、たくさん遊ぼう。
楽しみな予定は、
これからたくさん待っている。
それなのに、
私はもう、
この旅のことを大好きになっていた。
きっと帰りの新幹線では、
今日のことを思い出すのだろう。
どんなものを食べただとか、
何処へ行っただとか、
そんな話をしながら。
その時にはきっと、
今日と同じ景色は見えない。
同じ新幹線に乗っても、
同じ時間は二度と来ない。
だから、今を覚えておきたい。
隣に座る最愛のこと。
ふたりで選んだ駅弁のこと。
なんてことのない話で笑ったこと。
そして、
新幹線が楽しみな所に連れて行ってくれる、
誰かと乗る乗り物だったこと。
私は今日、知ったから。
新幹線は、
目的地へ向かうためだけのものではなかった。
大切な人と過ごす時間も、
一緒に運んでくれるものだったのだ。
窓の外には、
見慣れた景色が流れていく。
隣には、最愛が居る。
ふたりで、同じ場所へ向かっている。
それだけで、こんなにも嬉しい。
いつかまた、ふたりで何処かへ行こう。
その時もきっと、
私は隣に座る彼を見て、
今日のことを思い出す。
新幹線。
最愛と、ふたりで乗った。
それは、私の大切な、
はじめての思い出。